83 ネイトは鳥頭
カーラとケイトが海を見つめている時ネイトは
「海の中の気配は中々居場所が特定出来ないな」
そう呟き海面という不安定な場所で気配察知に意識を集中させる。
「大体検討はついたが、後は潜って確かめるしかないな」
そう呟いたネイトは息を吸い込み海中へと潜った。
暫く潜ると
(あれか!?)
ネイトの視界に捉えたものはカサゴのような刺々しい見た目の魚の魔物だった。
(剣は持って来ていないし、魔法だな…どうするかな)
水中と言う未知の場所で、水に適性がありそうな魔物に対してどんな魔法が効果的か考えるネイト。
(我の身のうちに潜む魔よ。原始の形を思い出し、我に力を与えよ)
『マジック・アロー』
ネイトが使った魔法は、特別な特性は持たないが一定の威力が保障された無属性の魔法を使った。
ギュルルル
ネイトの魔法が水の抵抗に負けずに魔物に迫る。
グサッ
『ぐごぉあ』
魔物が声にならない音を水中に響かせて絶命した。
(どうするかな?)
ネイトは魔物の亡骸の前で考えた。
そもそもネイトはなぜここまで呼吸が続くのかだが、単純に楽園で鍛えた心肺機能が力を発しているだけで、魔法でどうこうは出来ていない。
(5mはあるよな…仕方ない…魔法と腕力でどうにかするか)
覚悟を決めたネイトは苦手な細かい魔力制御が必要な浮力魔法を使い魔物を海面に出すと、トゲに気をつけて砂浜まで引っ張っていった。
その頃ケイト達は
「何か沖の方に浮かんでない?」
ケイトの疑問に
「私にもそう見えるわ」
カーラが答える。
そんな二人の元にそれは近づいてきて
「なによあれ!?」
「ぎゃー魔物!?」
近くの海水浴客が騒ぎ出したが二人は冷静に見守る。
そこに
「お姉ちゃん達も逃げるんだ!」
近くの海水浴客が心配して声を掛けてくれたが
「大丈夫ですよ。魔物は死んでいます」
その言葉に海水浴客達は動いていない魔物を見て、次第に落ち着きを取り戻して来た。
そして
「おい!さっきの兄ちゃんが魔物の前にいるぞ!」
その言葉に二人を除くみんなが心配そうにネイトを見るが、上がって来たネイトは魔物をそのまま引き摺りあげて周りを驚かせた。
「とりあえず、取って来たが売れるのか?」
その言葉にさっきまで騒いでいた男が
「売れるぞ!冒険者ギルドに持ち込めばいい」
その言葉に
「ありがとう」
お礼を述べた。
その後
「ここに暫くいるなら、海に魔物がいるから狩には困らないな」
ネイトの能天気な言葉を聞いた二人は
「馬車で運べないから2割は無しね…」
「心配なのであまり無茶はしないで下さいね」
ケイトの現実的な、守銭奴的な発言と、カーラの心配な声をネイトは聞いた。
「ケイト…前にも言ったが金が必要なら言ってくれ…カーラは心配させて悪いが俺は冒険者だ。すまんとしか言えない」
ケイトの言葉に何とも言えない言葉を返して、カーラには謝罪の言葉に留めた。
「わかっています。そんなネイトさんをずっと応援させて下さい」
二人がいい感じになるが周りは相変わらず大騒ぎだ。
その騒ぎを聞きつけた海の監視の兵士が近寄り言葉を掛ける。
「何の騒ぎだ?…うおっ!?これは…」
兵士に周りの人達が説明をして改めて
「君が倒したのか?」
ネイトに聞くと
「ああ。俺はBランク冒険者のネイトと言う。
海にいたこいつを倒したから売れないかと思い、引き上げた」
その言葉を聞いた兵士は
「Bランクか。どうやったのか気になるが教えてはくれまい?」
「すまんな。騒ぎを起こして悪いがこれをギルドに運ばなくてはいけないからいいか?」
ネイトの意を汲んで
「ああ。理解したからもう大丈夫だ」
そう言って兵士は引き上げていった。
街を魔物を引き摺り歩くネイトは、物凄く目立ってどんどん人集りが出来ていくが、気にしないようにしてギルドに向かう。
ケイトとカーラとは水着から着替えて街へと戻ったら別れた。
ギルドにて
「外に魔物を置いている。査定して欲しいのだが…」
ネイトの言葉を聞いたカミラは始めは冗談かと思ったが、外の騒ぎが聞こえてきて焦ったように他の職員に伝えた。
「俺がギルドの査定係だ。獲物まで案内してくれ」
壮年の男が現れて、ネイトに案内を頼んだ。
「ついてきてくれ」
そう言ったネイトは外へ足を向ける。
外へ出たギルド職員の男は
「鬼魚だ…」
そう言うと言葉に詰まったが気を取り直して
「こいつを狩ったのか?」
「ああ。海底にいたから仕留めた。売れないか?」
ネイトの不安に
「大丈夫だ。あまりにも久しぶりに見たから驚いただけだ。
こいつは知っての通り海底に潜んでいるからこの辺の網には滅多に掛からない。
それに掛かって陸にあげても人が近づくと暴れて毒の付いたトゲを飛ばす厄介な奴なんだ。
コイツの毒は希少な薬にもなるから高額で買い取るし、身は淡白で美味いからそれも買い取る。
職員で運ぶから査定を中で待っていてくれ」
そう捲し立てた男は人を呼びに行った。
説明を聞いたネイトは
「美味いのか…」
そこにしかすでに興味はなく、呟きながらギルドへと入っていった。
「ネイトさん!お待たせしました」
カミラに呼ばれて受付へといく。
「こちらが買取額になります」
じゃら
そう言ってお金をカウンターに置いた。
「ありがとう」
お金を受け取ったネイトは帰ろうとするが
「待ってください」
カミラから声が掛かった。
「どうした?」
「実はギルドマスターから話しがしたいから呼ぶようにと言われていて…」
カミラに言われてギルドマスター室に通される事になった。
コンコン
「ネイトさんを連れて来ました」
カミラが中に声を掛ける。
「入ってもらいなさい」
中から返事がありカミラ続いてネイトは中に入る。
ガチャ
「失礼します」
カミラがギルドマスターと思われる、白髪の女性に声をかけた。
「貴方がネイトさんね。そこへ座って下さい」
女性の指示に従ってネイトは椅子へと腰掛ける。
「急にこんなお婆ちゃんが呼び出してごめんなさいね。
カミラもありがとう。もういいわ」
女性の言葉にカミラはお辞儀をして退室した。
「私はギルドマスターのシシー・マルケスよ」
女性の名乗りに
「Bランクのネイト・スクァードだ。何のようだ?」
魔物の魚肉が気になっているネイトは早く用事を済ませたい。
「忙しいところごめんなさいね。
貴方が海の中で魔物を狩ったと聞いてお願いがあるの。どうかしら?」
マイペースな女性の声に少々苛立ち気味に
「魔物は狩った。どうとは何だ?」
「あら?何に焦っているのかしら?私に出来る事なら言ってみてみないかしら?」
その言葉を聞いたネイトはこれ幸いと
「さっき持ち込んだ魔物の魚肉が食べたい」
即答した。
「ふふふっ。若いって素晴らしいわね。
分かったわ。ここへ調理して持って来させるわ」
「ダメだ。仲間にも食わせてやりたい。宿に持ってきてくれるなら話を聞こう」
ネイトの食い意地が珍しく、ネイト自身から条件を出す行為をさせた。
「構わないわ。それで話しなのだけれど。
魔物を狩ってくれないかしら?」
「ん?」
「ああ。ごめんなさいね。言葉足らずで。
出来るだけ魔物を狩って欲しいのよ。何か必要な物はできる限り対応させてもらうわ。もちろんランク相当の依頼にするわ」
暫く考えたネイトは口を開く。
「期間は自由か?後、必要な物は仕留めた獲物を運ぶ手段だ。こちらについて詮索もなし。それが条件だ」
「もちろん冒険者は自由よ。運ぶ手段は人を遣るわ。詮索もしないわ。若い人は特に気にするから。
いつからしてくれるかしら?」
ギルドマスターの言葉に
「仲間に相談しないとわからないから宿に魚肉の料理を運んでもらった時に伝えとく。
多分明日からでもと言うと思うがわからん」
「わかったわ。ありがとうね。金髪の魔法使いさん」
何故魔法使いだと思ったのかはわからないネイトだったがここで反応しては相手の思う壺だと思い、ポーカーフェイスで退室した。
帰り道
(あの婆さんなんで魔法使いだと思ったんだ?俺の見た目は腰に剣を差しているんだぞ?)
ギルドマスターがネイトを魔法使いだと言ったのは鬼魚が運び込まれたと聞いて見に行った時に、傷口が以前見た魔法の傷口によるものと似ていたからだ。
(まぁ知られたとしても関係ないな)
ネイトは3歩歩いて忘れた。