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79 久しぶりの依頼は泊まりがけ







その後、昼食も外で食べて日が暮れる前に宿に帰った二人。


「良かったわね。ネイトもこれでデートの時に服に困らなくて済むわね」


二日酔いが治り、すっかり調子の戻ったケイトはネイトを揶揄う。


「ケイト。貴女が二日酔いで辛い時に付き添ってくれてたのは誰だったかしら?」


カーラの言葉にケイトは焦って


「迷惑掛けてごめんねネイト。そしてありがとう」


それを聞いたネイトは溜飲を下げて


「これに懲りたら馬鹿みたいな飲み方は辞めるんだな」


ぐうの音もでないケイトであった。




その後、世間話も挟み、次の予定の話になって


「じゃあ、明日からのバザーは私達だけってことね?」


「そういうことよ。治安も良いし、何よりネイトを縛り付けるのは本望ではないわ」


ケイトの言葉に


「私も同じ意見よ。ネイトさんにはネイトさんのしなきゃいけない事があるものね。

助けてもらうのはいいけど、足を引っ張るのは違うわ」


それを聞いたネイトは


「そんなに気にしなくていい。用がある時はちゃんと言うしな」


「ネイトさん。ネイトさんが優しいのは知っていますが、これ以上私やケイトを甘やかすと大変なことになりますよ?」


カーラの言葉にネイトが答える前に


「そうよ。甘える事に慣れた女は面倒くさいのよ」


ケイトがしみじみ言った事でネイトは少し怖気付き、頷くだけに留めた。


その話の後、カーラが近づいてきてネイトの耳元で


「二人きりの時はたくさん甘やかしてくださいね」


と、あざとく伝えた。

ネイトに抗う術はない。




翌朝

「もう体調はバッチリよ」


いつものケイトが戻ってきていた。


「じゃあ朝食を頂いたら準備しましょう」


カーラが伝えて


「俺はギルドの依頼を受けるかもしれない。

長ければ二、三日帰れないが、その時は宿に伝言を頼む事にする」


「わかりました。もし、依頼を受けられるのであれば怪我などにはお気をつけて下さい」


ネイトを気遣う言葉に


「ありがとう。二人も無理はするなよ」


そう返してネイトは食堂へと向かった。






朝食後

「では、行ってくる」


「はい。いってらっしゃい」


「いってらっしゃい」


ネイトが二人より早く宿を出た。






ギルドに到着したネイトは依頼ボードを眺める。


「Bランクの依頼が遠くの護衛依頼しかないな。

往復で10日とか無理だな」


治安が良いこともありロクな高ランク依頼がなかった。


「仕方ない。諦めて近くで魔物を探すか…」


そう考えたネイトがギルドを後にしようとした時、受付嬢のカミラが話しかけてきた。


「スクァードさん。少しいいでしょうか?」


余り家名で呼ばれる事がないネイトは反応が少し遅くなったが


「いいぞ。どうした?」


返事をして、カウンターに寄った。


「実は今、変わった依頼が来てまして、まだボードに貼っていなかったのです。それをスクァードさんにどうかなと」


やはり呼び慣れない事に


「名前で呼んで貰ってもいいか?家名で呼ばれる事に慣れていないんだ」


「わかりました。話しを聞いてもらっても?」


「ああ。頼む」


カミラが笑みを浮かべて話し出した。


「良かったです。依頼のランクはBランク以上でして、条件に合う冒険者がいなかったのです。

依頼内容は連合議事会の議員の御息女に冒険者の仕事の指導をするというものです。

依頼期間はとりあえず2泊3日になりますが、双方納得の上であれば期間延長もあります。

如何でしょうか?」


ネイトは悩む。当然だ。前回の指導依頼で大変な思いをしたばかりだ。


「3日なら何とか耐えられるか?」


自問自答しながらも殆ど決まっている。他にランクアップに繋がるような依頼がないのだ。


「わかった。3日なら受けよう」


「ありがとうございます!こちらが依頼主の住所と名前が書いてある物です。

よろしくお願いしますね」


カミラは殊の外喜んだ。

ギルドは国に属していないが、やはりその地域の有力者には貸しを作っておきたいようだ。

そこで働いている職員の殆どは市民や領民であるためだ。


「では、依頼に行ってくる」


そう言うとカミラの返事を待たずにギルドを後にして、宿へと向かう。





宿に着いたネイトは部屋へと戻り確認する。


「やはりすでに出ていたか。仕方ない。書き置きをして出るか」


書き置きには

『2泊3日の依頼を受けた。今日から始まるかまだ依頼主に会っていないからわからない。

食事はすでに宿のものに一人分必要ないと伝えた。

依頼は延長もあるそうだ。3日で帰らなくとも、必ず帰るので心配しないように』


と残した。






ネイトは依頼主に会うために高級住宅街を歩いて向かった。

そしてたどり着いたネイトの前には白亜の宮殿が聳え立っていた。


「カーラの実家もそうだったが金持ちはスケールが違うな」


感想を漏らしたネイトは豪邸の玄関へと向かう。


「冒険者ギルドから依頼を受けてやって来たものだ。どなたか家人の方はおられるか?」


玄関の重い扉を開き、挨拶をした。

元々治安が良く、さらに高級住宅街は警戒の兵士もちらほら見える為、専属の門兵がいない。

いればこの様な手間もないのにと、無い物ねだりをする。


「いらっしゃいませ。この家の家相を仰せつかっている者です。

依頼の冒険者の方と言う事でしたが、依頼主である『ガウェイン・マーチス』様はこちらには居られません。

案内のものをつけるので、ご足労いただけますか?」


丁寧に頼まれたなら


「わかった。頼む」


「では、すぐに手配します」


そういうと、家相は手元のベルを鳴らした。


チリンチリン


するとすぐに


「お呼びでしょうか?」


メイド服を纏った女性が現れた。


「ガウェイン様のところへこの方を案内しなさい」


それだけで通じた様だ。女性はすぐに


「こちらへ着いてきてください」


と、いうと案内を始めた。

ネイトは家相に頭を下げると、女性の後を追う。





ネイト達はこの街で唯一壁に囲まれた所へと入っていく。

入り口ではもちろん身体検査や身分証の提示を求められた。

つまり今のネイトは丸腰だ。剣は入り口に預けなければならなかった。

久しぶりに腰に剣がない事でソワソワしていた。


「こちらの建物です」


女性はそういうと、建物へと入り、入り口の受付の人と二、三言葉を交わす。


「こちらへどうぞ」


また女性について行き階段を登って一つの部屋の前で止まる。


コンコン


「ガウェイン様。依頼の冒険者の方をお連れしました」


「入れ」


ガチャ


「失礼します」


やり取りの後、女性が扉を開けてネイトを促したので室内へと入る。


「それでは、私はこれで」


そう言うと女性はそのまま退室した。


部屋の奥の執務机の奥に男性が一人腰を掛けている。男性しかいないのでネイトは近寄り挨拶をした。


「冒険者ギルド所属のネイト・スクァードだ。

ギルドから御息女の冒険者指導の依頼を受けてきた」


男性は書類から顔を上げることもなく


「悪いがそこに座って待っていてくれ。これが終わらないと話も出来ん」


ネイトは腰が落ち着かないから早くこの区画を出たいが、依頼主に言われたら従う他ない。




15分程待つと


「すまないな。議員になると、どうしても急ぎの用事があるんだ」


依頼主が声をかけてきた。40歳くらいの見た目で暗めの茶髪を綺麗に整えている男前だ。


「大丈夫だ」


「そうか。それで依頼だが、娘に冒険者のイロハを教えて欲しい」


初見の二人には雑談もなく、本題に入る。


「把握している。何歳かは聞いていないが俺は厳しいぞ」


それを聞いた依頼主はニヤリと笑った。


「もちろんだ。そうでないなら困る」


「困る?何か別の意図がありそうだな」


ネイトの感想に


「その通りだ。娘は冒険者になりたいと言っているが私は反対だ。

後5年もしないうちに結婚して出ていくものだとばかり考えていた」


「?じゃあ、そうすればいいのでは?それくらいの力は議員であればあるだろう?」


それを聞いた依頼主は


「それは出来ない。君はこの街の人ではないな?」


「それが依頼に関係するのか?」


「そうじゃない。私は自由民権派と言う派閥に属している。簡単に言うと、個人の自由を尊重する派閥だ。この国の政治に関わるなら何処かの派閥に入らないと発言すらさせてもらえない。

この街のものならみんな知っているが、私は自由民権派の時期トップを目指している。

だから娘と言えど自由を害してしまえば私の政治生命も終わる。

しかし、このまま娘が出て行って何かあれば、父として私は私を許せない。

だから娘に覚悟がなければ、厳しい指導に耐えられずそこで諦めてくれるかもしれない。

もし諦めなかったら、せめて高ランクの冒険者の指導の元、実力をつけさせて安全な冒険者活動をして欲しいのだ」


「理由と依頼内容はわかったが…政治家と言うのは欲張りなんだな」


ネイトの感想を聞いて


「はははっ。そうだとも。そうでなくては政治家など務まらんよ。

普通の人は一つ掴めば満足するところを政治家は十に手を伸ばす。そうすれば三、四は手に入るからな」


「それで、依頼はいつからだ?」


「君に任せるよ」


「今からでも?」


ネイトの言葉に依頼主は頷いた。

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