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77 酒代は酒を飲んでタダにする






ネイト達が修復不能になりかけている時、ケイトは


「もう飲めないの?だらしないわね」


宿の他の客と飲み比べをしていた。

酔い潰れた男の連れは


「お姉さんは美人だが酒豪でもあるとは…まさか天は二物を与えるとはな…」


「これであなた達の奢りね。バザーにもまた来てたくさん買ってね」


30前くらいの男性客達と楽しくやっていた。


「もちろんだとも。ケイトさんだけじゃなく青髪の美少女にも逢えるしね」


「あら?あの子に言い寄ると化け物みたいに強い人に切られるかもしれないわよ?」


ケイトの発言に


「あの馬車を守っていた少年かい?」


「そうよ。あの若さでBランクの冒険者で騎士と戦ったのも見た事があるけど、寄せ付けない強さよ。

お酒を奢ってもらったから忠告はサービスよ」


ケイトの話しを聞いた男達は美人過ぎる女性はやめておこうと思うのであった。


「ネイト達は今頃、チューの一つや二つくらいしてるかしらね?」


ケイトの想像はまだまだだった。









カーラの瞳から涙が溢れた事でネイトは慌てた。

カーラは今までの事が全てネイトの負担になっていると思った。全て独り善がりの事だったと。


「す、済みません。泣くつもりはないのですが勝手に…」


カーラは顔を両手で覆い俯いてしまう。


ネイトは考えた。今までで一番頭を使っている。

どうして泣いたんだ?

何かあったのか?

俺が泣かせたのか?

俺が何か間違えたのか?

泣かせたくない。

泣き止んで欲しい。

笑って欲しい。

笑わせたい。

じゃあ笑われてもいい?

じゃあ嫌がられても本音を伝えるべきだったんじゃないか?

何かに気付いたネイトは答えを出した。


「カーラ泣かせてすまない。君が何に傷つき泣いているのかは俺にはわからない。

だけど聞いて欲しい。さっきの言葉は嘘だ。

もちろん丸っ切り嘘ではないが、本音は別にある」


一息に伝えてネイトは深呼吸をして


「君の喜ぶ顔が見たくて、ここに連れてきた」


ネイトが伝えた。


「この場所を聞いたのも『君を喜ばせたくて』聞いた」


ネイトの想いを伝えた。


「これが本音だ」


「うぅ」


カーラは遂に声を出して泣き出した。


「済まない。本当に泣かせるつもりはなかったんだ。カーラをこれ以上傷つけない為にも帰ろう」


ネイトは手を出したがカーラは手を取ってくれない。

ずっとネイトの手を見つめていた。そして


「まだ帰りたくないです。それに今泣いているのは嬉しくてです」


そう言ってネイトの手を掴み立ち上がり、ネイトに抱きついた。


もちろんネイトはこの時どうすればいいのかわかっていない。

だから泣いている子供をあやす様にカーラの頭を撫で続けた。





「ありがとうございます」


「いや、カーラの髪は見た目も綺麗だが、撫でごこちもいいからずっと撫でれる」


カーラの感謝はネイトが本音を言ってくれた事に対してだ。

そしてネイトの返答は誰にも予想出来ない。

お互いの言葉が噛み合っていない事に気付いたカーラは


「ふふっ。ネイトさんらしいです。

でも髪を褒めていただきありがとうございます」


ようやくネイトが見たかったカーラの笑顔が見れた。

何か間違った事を言ったかもしれないが笑顔になったのならそれは正解だ、とネイトは思った。


「明日のバザーもあるし、そろそろ帰るか?」


「はいっ!」


いつも通り元気よく返事をしたカーラに、心から良かったと思うと共に、次からは困ったら本音を言おうとよくわからない決断を下した。


「じゃあ。お願いしますね」


そう言ってカーラが両手を広げてネイトを迎え入れる。


「体制はキツくないか?」


ネイトの気遣いに


「大丈夫です!」


笑顔で答えて、行きと同じようにお姫様抱っこで階段を降りていく。







階段の途中で


「ねぇ。あれ私にもして」「え!?」


「きゃあ!素敵!私もあんな事されたいわ」チラチラ


「まさか重くて出来ないなんていわないわよね?」


と、カップルの女性陣が相手の男性にねだる事件が勃発していた。

のちにここの階段をお姫様抱っこで往復したカップルは生涯幸せになれるという言い伝えが出来たとか出来なかったとか。


ネイト達が暫く降ると


「やはり来ていたか。邪魔するつもりはなかったがネイトに話をして久しぶりに景色が見たくて嫁さんを誘ったんだ」


船長と奥さんらしき人と出会った。


「それにしてもそれで登ったのか?」


ネイト達のお姫様抱っこを見て船長が慄き、奥さんは微笑ましそうに見ていた。


「カーラの靴が登りで壊れてしまってな。それからはこうだ」


「凄いやつだと思っていたが、ぶっ飛んだ奴だったか…」


船長と奥さんと雑談を交わして別れた。




「仲の良いご夫婦でしたね」


カーラの言葉に


「そうだな。あぁ成りたいものだな」


ネイトの発言を聞いてカーラは自分達の将来を想像してしまい、顔が赤くなるのであった。

それを見たネイトは


「夜風に当たり過ぎて風邪でも引いたか?済まないな」


と、ネイト節を炸裂させた。

ちなみにカーラはこの時ばかりは助かったと思った。




その後はもちろん街中でもお姫様抱っこを披露して宿まで帰ったネイト達は食堂を見て愕然とした。


「おそかっりゃわにぇ」


もはや何を言っているのか二人には聞き取れなかった。


「この人達は?」


「もう寝てるぞ」


カーラの言葉に何も返さないケイトは夢の世界の住人になっていた。


「宿の人に声を掛けてくる」


そう言ってネイトは厨房の方へと歩いていった。




暫くするとネイトが帰ってきた。


「ここの客らしいから放っておいていいそうだ。

ケイトを連れて部屋に戻ろう」


ネイトの言葉に頷いたカーラは、はしたないが壊れたヒールを脱いで裸足で階段を登った。

ネイトは肩にケイトを担いで部屋へと戻った。


「ケイト、幸せそうな顔をして寝ていますね」


そう言ったカーラはお姫様抱っこではなかった事に少しだけ安堵していた。


「あれだけ飲んで不幸せならやめさせる」


酔っ払いの始末の悪さはジョンの時もネイトの時も変わらない。


寝る前

「ネイトさん。今日はありがとうございました」


そう言ってカーラはネイトの頬にキスをした。


「おやすみなさいっ!」


ガバッ


カーラはネイトでも視認でない速さでベッドに潜った。

放心状態のネイトは暫くの間、ずっと自分の頬をなでていたのであった。



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