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75 特別なこと







宿で朝を迎えたネイト達は今日の予定の確認をしている。


「ネイトはギルドよね?」


「そうだ。依頼は受けないが確認の為な」


ケイトの質問に答える。


「私達はバザーよね?」


「そうね。ネイトが帰ってくる前に許可を取りに行くわ。

やっと収入が入りそうね」


カーラの確認にケイトは、馬車にこれでもかと買い込んでおいた商品を売り捌ける事に期待を膨らませている。


「じゃあ、先に行ってくる。1時間くらいで宿に帰るつもりだ」


「わかったわ。トラブルには気をつけなさいよ」


ネイトがトラブルを起こす事はないが巻き込まれる事は沢山あった。

ケイトのネイトの心配と言うよりは予定が狂う事を心配している言葉にネイトは


「向こうからやってこなければな」


自信なさげに答える他なかった。





道中

「道に石畳が敷いてあるのは王都と変わらないが、ここでは隙間やその他にも小石が敷いてあるな」


海が近く強い風が定期的に街中にも吹くせいで砂が舞ってしまうのを防ぐ為だ。


「家や建物がない地面には草が生えているな」


同じ理由で芝生のようなものが生えている。


「それにしても建物が見事に真っ白ばかりだな。

木材が少ないのか?それとも何か他に理由があるのかもな」


ネイトは王都、いや、国を出てから生活や冒険者(しごと)の事を考える事が少なくなってきて周りの事に目を向ける余裕が生まれてきた。

それにより周りに興味を惹かれる事が増えてきたのである。


「冒険者ギルドまで白いな。看板が無かったら通り過ぎていたな」


街の人に道を聞きながらようやくギルドに辿り着いた。


カランカラン


鐘の音が鳴って来客を知らせる。

中の人々の視線がネイトに集まるが、その事にまるで気付いて無いかのようにネイトは受付を目指す。


「初めてこの街に来たのだが説明や注意事項などはあるか?」


ギルドカードを差し出しながら20歳くらい受付嬢に話しかける。


「はじめまして。諸島連合国首都のブルターニア冒険者ギルドへようこそ。受付のカミラです」


黒色の少しウェーブした長い髪をおろした、褐色の女性カミラが挨拶をしてきた。


「ネイトさんですね。レイカードから来られたのですね。

ここでは近辺に魔物はおりません。依頼は海賊から守る為の護衛依頼や海の魔物の討伐依頼などがあります。治安がいいので問題を起こさなければ特に注意事項はないですね」


それを聞いたネイトは疑問に思った事を質問した。


「海の魔物はどうやって討伐している?」


「もちろん海に潜ってとかではないですね。ここでの漁の一部で、船から網を下ろして陸から引くという漁法があるのですが、よく魔物も掛かります。その時に漁師の依頼で常駐している冒険者が陸に上がった魔物を討伐することがあります。

もちろん今言った以外の方法もありますがそれは依頼を受けた時にアドバイスしますね」


なるほどなぁと納得したネイトは


「大体把握した。他にBランクまでの依頼はどんなのがある?」


「高ランクの依頼は日数が掛かりますが、護衛、採取、特別依頼がありますね。もちろん他と同じように討伐された魔物の素材は買い取りますので、依頼を遂行中に討伐されたものは持ち込んでくださいね」


説明を聞いたネイトは


「ありがとう。また来るよ」


そう残してギルドを出ていった。




行きと同じように辺りをキョロキョロ見回しながら歩いて宿に向かっている。

治安がいい為、スリにあったりもしない。

トラブルも起こらず宿に無事に辿り着いた。


「待たせたか?」


ネイトの言葉に


「いえ!先程戻ったばかりです!」


カーラが答えるのを聞いてケイトが


「貴方達…デートの待ち合わせじゃないのよ…」


ケイトの言葉に二人は顔を逸らした。





「ここがそうか」


ネイトがいるのはバザーを開く為に許可を取った場所だ。


「街の入り口に近くていい場所ね」


「頑張って売りましょうね」


ケイトの感想にカーラの檄が入る。


「俺はここに立っている」


ネイトはトラブルがない限り出番は無いので馬車の見張りも出来る所に立っている。






辺りを夕日が茜色に染める頃。


「やったわね…」


「疲れたわ…」


ケイトの脱力した言葉にカーラは一日の総括を述べた。

二人の出店は常に満員御礼で飛ぶように売れた。

肌が褐色の人が多い土地柄に美人で若い二人のバザーは物凄く目立つ。

客寄せが出来れば後は売り物で勝負だ。売り物は今までの旅で少しずつ集めたものや王都でケイトが爆買いしたものまで多岐に渡る。

この辺りにももちろんレイカード王国の品は出回っているが最新の流行物や、若い女性向けの物が飛ぶように売れた。こちらの二人の若い女性の目利きはどうやらこの国の若い女性の心を掴めたようだ。

もちろん二人目当ての男性向けの商品も飛ぶように売れた。

つまりはケイトはお金を取り戻せたのだ。

ニュアンスはおかしいがケイト自身にとっては間違っていない。



今日のバザーが終わった所、いつも通り片付け中にネイトが行動に出る。


「カーラ少しいいか?」


普段そのまま話すネイトには珍しく確認された事で少し緊張気味に


「はい。なんでしょうか?」


深呼吸したネイトは


「実は行きたい場所がある。この後、食後にでもカーラについてきて欲しいがいいか?」


意を決したネイトの誘いに


「…はいっ!喜んで!」


カーラは驚きのあまり少し返事が遅れたが何とか返せた。


「ケイト。そう言う事だから夕食の後、カーラを借りるがいいか?」


「もちろんよ!なんなら二人は食事もしてきたらいいんじゃない?私は疲れたし今日の結果を噛み締めながら宿で飲んでいるわね」


ケイトの後押しもあり夕食も出掛ける事となった。

片付けを終えた3人は馬車で宿まで戻る。


「では着替えてくるので待っていてくださいね」


カーラはデート用の装いがあるようで部屋へ着替えに戻った。


「俺はこの格好だが…」


ネイトは普通の町人の服しかない。それに今更焦りを覚えるが


「貴方はいいのよ。女性は特別な時には特別な準備がいるものよ」


ケイトの言葉にさらに焦りを覚えて


「特別…?あまり特別な事はないがいいのか?」


ネイトのセリフにケイトはため息をついて答えた。


「はぁ。ネイトが自主的に誘ってくれて目的の物まで用意しているのだからそれだけでカーラには特別なのよ。

まぁ。ネイトに誘われた時点でカーラには特別よ」


「そうか。特別か」


ネイトはその言葉を噛み締めるように呟いた。


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