69 王国最後の夜
3人の旅は順調だった。
「もう少しで国境の手前の町に着くわ」
ケイトの言葉に荷台にいた二人が、身を乗り出して前方を視認した。
「これまでの町とは違いますね」
カーラの声に
「そうだな。町の規模は変わらないが、町の外壁が他と違い丈夫そうで高さも高いな」
「そうね。いくら友好国と言えども長い歴史の中では争った事はあるようね」
ケイトが考察を述べると
「今は大丈夫なんでしょ?」
カーラが心配そうに尋ねた。
「もちろんよ!ここ100年はお互いに良い関係が築けているわ」
ケイトの言葉に安堵した。
馬車は町に吸い込まれた。
「まだ王国内なのに異国みたいだな」
ネイト達の視線の先には王国では見なかった、半袖に向こう側が透けて見えるくらいの薄手の色とりどりのストールの様な物を纏っている。
「涼しそうな感じでいいですね!」
カーラの言葉に
「カーラの涼しげな青い髪にも似合いそうだな」
ナチュラルカーラクラッシャーが出た。
カーラは顔を赤く染めてもネイトから視線を外さない。
「はいはい。ご馳走様です。とりあえず宿を取ってから買い物に行きましょう」
ケイトの号令に二人が頷いた。
宿にて
「じゃあ2泊でお願いね」
「はぁい。夕食は日が沈む時間だからそれくらいの時間にここに来てね」
ケイトの言葉に宿の中年女性が愛想良く応える。
部屋にて
「久しぶりの普通の宿ね」
「そうだな。懐かしい感じがするな」
ケイトの感想にネイトは宿以外にも女将も思い出す。
「ネイトさんも一緒に買い物に来てくれますか?」
「もちろんだ。二人の護衛だからな」
「ネイト…そういう事じゃないと思うんだけど…」
いつまでもネイトはネイトだと思うケイトだった。
「うわぁあ。ホントに色とりどりで迷いますね」
「そうだな。俺はこの青色のストールにする」
ケイトは店内でわざわざ違う場所を見ていて2人っきりにしてあげた。
「私の髪色と同じですね!じゃあ私はこの金糸が入った白にしますね」
「ああ。似合っている」
二人は仲良く買い物を楽しんだ。
ケイトはケイトで色々な生地を買って楽しんでいた。
宿の食堂にて
「美味いな」
「はい!甘い物でもピリッと辛味もあり食事に合いますね!」
「この甘味料はサトウキビというものを使っているみたいね。温暖な所で育つ作物でこの辺りは冬も雪が降った事がないらしいわ」
ケイトの蘊蓄は続き
「ピリッとしたのは香辛料ね。この辺の物ではなく南に位置する小国家郡、小国家連合国と言われているところからの輸入品らしいわ」
二人はケイトの話しに時々口を挟み、頷きをかえしながら3人で食を楽しんだ。
翌日
「今日は少しだけバザーを開くわ」
「わかった。また護衛をすればいいな?」
「ええ」
「ネイトさんが居れば安心安全です!」
カーラにとっては何よりも効くお守りだ。
「おっ!これは珍しいね」
暫くするとそこには人集りが出来ていた。
「王都辺りじゃないと手に入らない物が沢山ありますよ」
ケイトの売り文句に人々が歓喜して商品に群がる。
この辺りは王国内でも少し顔の作りが違う。
王都は彫りが深く鼻筋が通っている彫刻の様な顔つきだが、この辺りは彫りは深くはなく髪の色も黒系や茶系の色が多い。
その為、元々美人で人を惹きつける二人だがこの辺りでは珍しい顔の美人で、カーラに至っては青髪で殊更目立つ。
ただ、二人に浮ついた目的で声を掛けるものはいない。
なぜなら
「ネイト。後ろの人達を後で衛兵に引き渡しておいてね」
「ああ」
後ろで二人を見守るネイトの更に後ろには、二人にしつこく言い寄ったゴロツキが何人も倒れ伏している。
「そろそろ店仕舞いかしら?」
カーラの言葉に
「そうね。少しだけど買い出しもしたいから終わりましょうか」
二人の会話が聞こえた客達は焦る様に買い物のラストスパートに入った。
タイムセールとはどこでも財布の紐が緩むものみたいだ。
「協力感謝する」
衛兵の詰所にゴロツキ達を送り届けて後にした。
「買い出しはどこに行く?」
「何言ってるのよ。昨日カーラに止められるまで私がしたじゃないの?」
「ネイトさん…悩みでもあるのでしたら私で良ければ聞きますよ?」
ネイトは二人にボケたのかと思われた。
「さっき言ってなかったか?」
「あれはお客さんの財布の紐を緩める為の演技よ」
「純粋なネイトさんは可愛いですね」
普段は無敵のネイトも二人に恐怖を感じた。
宿にて
「明日国境を越える手続きをするわ」
「ああ。俺は冒険者ギルドカードしかないが、大丈夫か?」
「大丈夫よ。私達はこちら側の詰所で越境の手続きがいるけど冒険者であるネイトには必要ないわ」
ケイトがネイトの心配を払拭する。
「ネイトさんは諸島連合国で何をされたいですか?」
カーラの質問に
「これはレイナードにも言ったが海が見たいに尽きるな」
ネイトはまだ見ぬ海を夢想する。
「海は泳げるみたいですね。良かったらみんなで一緒に泳ぎませんか?」
カーラのお誘いにネイトは顔を真っ赤にして首を振る。
そこにケイトが
「ネイト。勘違いしているみたいだけど、向こうの海では専用の服を着てみんな泳ぐみたいよ。流石のカーラでもいきなり裸の付き合いを誘わないわよ」
まだ顔が少し赤いネイトは
「そ、そうか。川は裸かそれに近い格好で泳ぐものだから勘違いしてしまった」
「大丈夫ですよ。私もケイトから聞くまで絶対無理だと勘違いしていましたから」
カーラが初心なネイトを見て安心したかの様に優しく言葉を紡いだ。