63 英雄の行い
「日が沈む前に勝負を決したい。頼むぞ!」
「「「おう!!」」」
四人は散開した。
ネイトは目標のポイントが見渡せる場所まで走った。
騎士達はバラバラになりそれぞれが魔物を引きつけてその場を目指す。
もちろん城壁に近寄りすぎると壁の向こうからひっきりなしに飛んでくる矢や石に当たる可能性が増すので上にも気をつけている。
騎士達は狼、野犬、猿、猪、鹿などの多種多様な魔物達を引き連れて目的の場所に近づいた。
いくら優秀な馬とは言え、スピードは優っても体力は負ける。だから騎士達は鎧を初めから着ていない。
これから起こるであろう、見たこともない魔法の衝撃に耐え、普段は鎧を着て対峙している魔物達に槍と剣のみで戦わなければならない事に恐怖を感じ、また騎士となった事にたいするやり甲斐も同じくらい感じていた。
「そろそろ来るぞ!」
「馬にしがみつけ!!」
「俺は生き残るぞ!!!」
それぞれに檄を飛ばしてその時を待った。
(来たな。頼む。生き残ってくれよ)
騎士達の生命力に祈る。
『メテオストライク・バースト』
前回の魔法より詠唱時間を倍に延ばした魔法が解き放たれた。
空に突如として現れた大火球。
街の住人は太陽が増えたと錯覚し、それが落ちていくところをただ眺めていた。
同時刻騎士達も確認した。
「なんだあれは…」
「死ぬ…」
「しっかりしろ!馬にしがみつくんだ!頭を守れ!」
騎士の一人が正気を保っていた事により、他の2人も正気に戻る。
ズドーンッ
魔法が着弾して
バーンッ
爆裂した。
辺りは白くなり、何も見えない。
余りの爆発音に音が消えた。
騎士達は馬ごと吹き飛ばされた。
爆炎が消え、爆煙が街から観測された頃に漸く騎士達は状況を把握する。
「おい!無事か?!」
一人の騎士が隣に倒れ伏す二人に声を掛けた。
「ああ。俺は生きているのか?」
「馬が…」
3人は無事だったが馬は死んでいた。
「愛馬に守ってもらったんだ!こんなとこで益々死ねないぞ!ほらっ!立ち上がってここから逃げるぞ!」
3人のすぐ側には見渡せないくらいの広さのクレーターが出来ていた。
その頃ネイトはつぎの魔法の詠唱に入っていた。
(魔物達が魔物の死骸に群がっている。
威力を分散させた魔法にしよう)
その時が来た。
『ファイアーレイン』
火の雨が広範囲に降った。
もちろん騎士達のところには降っていない。
ネイトは魔法の着弾を確認したら騎士達の元へ駆けた。
「大丈夫か?」
「はい」
騎士達に群がる魔物を倒してネイトは声を掛けた。
騎士達に目立った怪我はなさそうだった。
「これから殲滅に移る。休んでから身体が動くなら参加してくれ」
そう言い残して、ネイトは魔物に向かって駆け出した。
暫く後
「生き残った…」
一人の騎士がそう呟いた。
辺り一面には魔物だらけ、どれもピクリともしていない。
そこに城壁の上から声が掛かる。
「おーい!もう大丈夫か!?」
その声に騎士が応える。
「ああ!魔物の片付けに人を寄越してくれ!」
「わかった!総出で出るよ!」
初めに兵士達が出て来て確認の為に全ての魔物にトドメを刺す。
その後に志願を募り、志願した領民が魔物の片付けと魔法の影響で破壊された城壁の修理などを行った。
それは翌朝まで掛かっても終わらない作業だった。
少し前
「お前たちよくぞやってくれた」
軍馬に乗った二十歳くらいの青年が開口一番に告げた。
「勿体なきお言葉です。ですが私達はつゆ払いをしたに過ぎません。
こちらのネイト殿はお館様と妹君をお助けしていただいた上にこの度のスタンピードにも主力とし困難を納めて下さいました」
目を見開き驚く青年
「確かに…我が騎士達は精鋭揃いだが、この規模のスタンピードを終息させることは出来ないな。
ネイトと申したな。父の件も街の件も助かった。
歓待もしたいが日を改めさせてくれ。
明日以降に使いを出させる。では、私は行く」
そう言うと指揮をとりに馬を走らせた。
断りの言葉を言う前に何処かへと行ってしまった青年をネイトは見送るしかなかった。
「若様はネイト殿が剣聖である事を知りません。ですのでこの度の対応は…」
言い淀む騎士へ
「俺はそんな事は気にしない。それよりも片付けに向かおう」
そんな言葉を残して騎士と共に復興へと向かう。
日が登り朝を迎えた領都で
「ケイト達はこっちに向かってるよな?」
二人の無事が気になりだす程度には復興も目処がたっていた。




