61 戦うより辛いモノ
村を救い再び旅を再開したネイト達は町に来ていた。
「次の街は大きいそうよ。またバザーを開いてもいいかしら?」
ケイトの提案に
「俺は構わない。この辺にはまだまだ噂は広がってないしな」
とネイトが応えるがカーラは
「ネイトさん。噂じゃなくて事実ですよ?
私もいいわ!頑張って沢山売りましょう!」
と、応えた。
「そうね。ただあまり長居は出来ないから二日か三日ほどね」
二人は了承した。
翌朝
「準備はいいわね?次の街に向かうわよ」
「はーい」
「ああ」
ネイト達は出発した。
暫く進み昼前
「そろそろ休憩ね」
ケイトが伝えると
「おい。前の馬車が襲われているぞ」
「え?見えませんが?」
「全然見えないわよ。どんな目をしてるのよ」
ネイトは楽園のお陰で完全な健康体で若返ったのもあるし狩りの影響もあり目も良い。
「もう少し行くと前の森を迂回する道になる。その先で馬車が襲われている」
ネイトの説明に
「わかったわ。見殺しには出来ないし行ってくれるかしら?」
「元よりそのつもりだ」
「お気をつけて下さい」
「ああ、曲がった先で争っているから、その手前で待っていてくれ」
伝えると同時に走行中の馬車から飛び降りて、真っ直ぐ森を突き抜けていく。
「ぐあっ」
キンッキンッ
「くそ!お館様とお嬢様を必ず守るんだ!」
鎧を着た兵士が数人で賊が15人以上いる。それを見たネイトは、賊と間違われないように声をあげながら賊を攻撃した。
「助太刀する!」
ヒュンヒュンヒュン
目にも止まらぬ速さで剣を振るネイト。
声もなく倒れ伏す賊達。
「助力感謝する!高名な冒険者とお見受けするが礼はこの場を切り抜けてからだ!」
「礼には及ばん。そちらは馬車を守る事に専念してくれ」
そう告げたネイトは賊達に斬りかかる。
シュバッ
ザシュッ
ヒュン
兵士たちはネイトが賊に近づくといつの間にか賊達が勝手に倒れていくように錯覚した。
「こいつやばいです!お頭!撤退しましょう!」
賊の一人が上役と思われる男に話しかけた。
「よし!逃げるぞ!」
その掛け声で賊達が散開しようと動く。
それを感じたネイトは
「させんっ!」
その声の後、斬撃を残った賊達に飛ばした。
シュシュシュシュシュッ
「がっ!?」
「ぐあっ!」
「げっ?!」
賊達はそれぞれ最後の呻きを残してその場に崩れ落ちた。
それを見た兵士達は空いた口が塞がらなかった。
「怪我人はいるか?」
ネイトの言葉にも誰も声を出せないでいた。
暫くするとネイトが手を振って呼んでいたケイト達がやってきた。
「お疲れ様。どうかしたの?」
「ありがとう。なぜか声を掛けても反応がないんだ」
「それは困りましたね…」
3人が話していると漸く現実に戻ってきた兵士が話しかけてくる。
「済まない。あまりの事に言葉を失っていた。
負傷者は馬車の裏に避難させている。
この後、我が主人に会って頂きたい」
「負傷者はどうするんだ?馬車にはその主人が乗っているんだろう?」
ネイトは負傷者を気遣う。
「そうだな。我々は馬に乗ってきたがあの怪我ではそれも難しいな」
ネイトは二人に目で訴えて了承の頷きが返ってきた。
「それなら空いたスペースになるが、俺たちの馬車で次の街まで運ぼうか?」
「いいのか?まだ何もお礼出来ていないがお言葉に甘えさせてもらう。
その前に私達の主人に伝えねばならない」
そういうと男は馬車の中に声を掛ける。すぐに馬車の扉が開き、壮年の男性とネイト達と同じくらいの少女が降りてきた。
「こちらが?」
「はい。助けて頂いた方です」
ネイトを見て兵士に問いかけた。
「ありがとう。お陰で大事な騎士を失わずに済んだ。後、私達の命も」
そう言うとネイトに握手を求めた。
「ネイトという。偶々通りかかっただけだから気にするな」
そう言うと騎士が小声で
「おい、助けてもらって言うのもなんだが、この方は領主様であらせられる。言葉を選んで貰いたい」
それを聞いたカーラが
「こちらのネイトさんは国王陛下に『剣聖』の称号を承り、何者にも無礼を罰されない方です。
王都では有名ですよ?」
何故かものすごく偉そうに説明した。
「おお!其方が剣術大会の覇者か!そう言えば優勝者はネイト殿と言っていた。
私達は剣術大会の後にすぐ王都を出たのだがよく追いつかれたな!」
貴族は嬉しそうにネイトに話しかけた。
「済まない。こちらの女性は私の事を思って告げてくれたのだが、出来ればそれは黙っていて欲しい」
「相分かった。ところで馬車でうちの者を運んで頂けると伺ったのだが…」
「はい。こちらに連れてきて下さい」
ケイトが先頭に立って負傷者を馬車に移動させる。
「お父様。ご紹介がまだですが?」
少女が父に問う。
「そうだ。名乗りがまだだったな。
私はこの先の街の領主のクロード・フォン・ヴァロワだ」
ちなみにミドルネームのフォンが当主、ドが男性、レが女性を意味する。
「そして娘の…」
「剣聖様。お初にお目にかかり光栄にございます。イザベル・レ・ヴァロワにございます」
そう言うと見事なカーテシーを決めた。
「クロード卿とイザベル嬢だな。よろしく頼む。だがイザベル嬢、剣聖様はやめてくれ。広めたくはないんだ」
ネイトが困った顔で言うと綺麗な金髪を靡かせ
「わかりました。ネイト様ですね」
そういい持っていた扇子で口元を隠しながら笑った。
ネイトは様付けも嫌だったが、もう諦めてされるがままにした。
「皆さま盛り上がっているところでしょうが、負傷者の方が居ますので、急ぎ街まで向かいませんか?」
カーラが助け舟を出してくれた。
漸く街に向かう事になりそうな3人。
ネイトは戦いより疲れていた。