60 救世主と女神
翌朝
「それじゃあ今日から旅再開ね」
この辺りの珍しいモノを見れたケイトは、早く次の珍しいモノを見たいかのように、軽快に馬車を走らせた。
昼頃
「今日は元々野営の予定でそうするつもりなんだけど、いつもの如くネイトが道中魔物を狩ったから次の村に寄るわね」
「ええ。私たちもお金持ちになってしまうわね…」
カーラは大金を持って移動する事に恐怖を抱き、遠い目をして応えた。
「そろそろ着くはずなんだけど、見えるかしら?」
その言葉に二人も村を探す。
「あったぞ」
ネイトの言葉にネイトの指先を見つめる。
「あれね…何かおかしくない?」
ケイトが何か異変を感じとった。
「魔物に襲われているな」
ネイトはそう言うと二人を見た。
「私達はここに隠れているわ。お願い出来るかしら?」
そう言ったケイトに
「任された」
ネイトは馬車を飛び出した。
「ネイトさん!気をつけてください!」
カーラの言葉に右手をあげて応えたネイトは村に向かって走り出した。
ネイトの視線の先には村の塀と堀に阻まれている20体程の狼の魔物がいた。
ヒュンヒュンヒュン
ネイトが狼の魔物に気づかれる前に腰の剣を抜き三度斬撃を放った。
『『『キャンキャン』』』
三匹がやられた事でネイトに気づいた狼の魔物達は、ネイトを取り囲もうとする。
「救援が来たぞっ!!」
村の物見台に登っていた人が下に向けて声を上げた。
ワァァァア
塀の向こうから歓声が上がった。
ネイトは魔物達の包囲網を突破して村から群れを遠ざける事にした。
タッタッタッザシュタッタッタッ
ネイトは真っ直ぐ魔物に向かい一体を撫で斬りにするとそのまま森の中に向かった。
ネイトを敵と認めた魔物達の群れは追いかけるように森へと入っていった。
その後はネイトはスピードを調整して、追いついて来た魔物を一体ずつ倒して村へと戻ってきた。
「魔物は倒した。門を開けてくれないか?」
その声が聞こえたのか、門は徐々に開いていった。
合流したネイト達は村人の案内で進む。
「ようこそ。旅の方々。この度は村を救って頂きありがとうございました」
村の広場で村長らしき人がそう言うとみんなが頭を下げた。
「偶々通りかかっただけだ。気にしなくていい」
ネイトはそう言うが村としては救世主に何もしないわけにはいかない。
そこにケイトが
「もし宜しければなのですが、私達が道中狩った魔物の素材を買い取っては頂けないでしょうか?」
村の住人はネイトには全て断られていたのでケイトの提案が渡りに船となった。
「もちろんです。みんな、手伝ってあげなさい」
村長だと思われる人の指示で村人が素材を運ぶ。
「こちらになります」
やはり村長だった人からケイトがお金を受け取る。
「え?多すぎです。少なくとも2割は多いです」
そういい。2割を返そうとするが
「どうぞお納めください。ネイト殿があと少し遅ければ、村は無くなっていたことでしょう。
であれば少ないくらいですが、これ以上だと、お断りされると思い、街へと運ぶ送料分を足させていただいた金額にしました。
それとこちらはーー」
そう言った村長は大きな甕を出してきた。
「こちらは私達の村の名産でもある蜂蜜になります。
村の者たちの家から少しずつ集めました。
ほんの気持ち程度で申し訳ないですがお納めください」
「ありがとう」
ネイトが代表して言ったつもりだが後で二人に怒られる事になるとはつゆ知らず。
「本日はもう夕方ですのでこちらでお休みください」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」
カーラが笑顔で応えた。
歓迎とお礼の宴を終えて与えられた部屋へと戻った3人、
「ネイト、少しいいかしら?」
少し怒っているのか?と思ったネイトは神妙な顔つきで椅子に座る。
「貴方が頂いたものだけど、蜂蜜はとても高価なのよ。小さな瓶で大体1,000ガースはするわ。
あの入れ物一杯に入っているから…あまり考えたくないわね」
それを聞いたネイトは
「そうだったのか…悪い事をしたな」
ネイトは明日にお金を払おうと考えたが
「もしかして返品やお金で解決する気?」
バレたネイトは目を見開く。
「それだと村の人の感謝に泥を塗るわよ?」
「ネイトさん。これならどうでしょうか?」
そう言ったカーラの提案にネイトは激しく同意した。
翌朝
「え!?お礼のお礼に近くの魔物を狩るですと?!」
驚いた村長にネイトは
「ああ。蜂蜜が高級な物だと知らなかったんだ。
だが、返品やお金で解決もしない。
それでここにいる仲間達がそれなら俺がここの平和に貢献したらどうかとアイデアを出してくれた。
あくまでも自分の気が済まないからこうするんだ」
そう言ってネイトは村を出て行った。
昼前、村の前にて
「これで近くには魔物がいなくなったはずだ。もちろん暫くすれば戻ってくるだろう」
「あ、ありがとうございます」
10体以上の魔物を前にして村長は慄いて感謝をした。
その後、昼食を村で頂いたネイト達は再び旅に出る。
「世話になった」
「蜂蜜、ありがとうございました」
「お食事も美味しかったです」
三者三様の感謝を伝えて馬車を走らせた。
村人達は危機を颯爽と救ってくれた上にお礼をせびる事もせず、お礼を受け取ってはくれたものの、気が済まないからと村の安全に貢献してくれたネイトの事を生涯忘れる事はない。
ネイト達の事は救世主と女神達として後世に語られる事となる。