59 手紙の行く末
「町が見えたわ。予定通りこの町に泊まりましょう」
ケイトの言葉は二人には届かない。
「まだ手紙の内容が決まっていないの?」
ケイトの馬鹿にした言葉にカーラが反応する。
「仕方ないじゃない!お兄様は逐一報告しないと迎えに行くなんて言ってたのよ!?」
「それでも書く内容は事実と謝罪だけじゃないの?」
それを聞いたカーラは言い訳を諦めてその通りにする事に決めた。
「ネイトはどうなの?」
考えるように目を瞑っていたネイトはその瞳を開けてケイトを見て
「アイツらの手紙を見た事があるか?」
そう言って前に貰った手紙をネイトに差し出される。
『拝啓 師匠
元気でやってますか?
手紙が来なかったらアリスと家出して追いかけるからちゃんと返せよ』
それを見たケイトは
「これは何?手紙を出す意味があるの?それに元気です。以外返せないじゃない。他にも聞く事はあると思うのに…
ネイトは普通よね?」
ネイトに疑いの視線を向けるケイトに
「普通が何かわからないが、俺は二人宛に近況報告と、大会の感想を認めて出した」
「じゃあ普通ね。これは難しいわね。手紙を送るのが目的と言うよりも何か口実を付けて家出したいだけだわ」
ケイトの言葉に二人とも沈黙を返した。
宿にて
「やっぱりこの辺りには、ネイトの名声もまだ届いていないようね」
「名声って…」
「ネイトさん。私が広めて来ますね!」
馬鹿な事を言ったカーラをケイトがとめた。
「やめなさい!折角こんな所まで急いで来たのに」
「はーい」
ネイトが絡むとカーラの精神年齢は駄々下がりである。
「ネイト」
ケイトが手紙を先に書き終えたネイトに小声で呼び掛けた。
「どうした?」
こちらもカーラに聞こえないように小声で返す。
「カーラを誘って出掛けなさい。カーラは私がいると気を遣って貴方に話しかけ辛いのよ。
だから町に来てネイトに予定がなかったらカーラを誘いなさいよ。
私は知らないモノや色々なモノを見たいから一人の方が行動しやすいしね」
ケイトの言葉に返事をしようとしたら、
「出来たぁ!」
カーラの手紙が完成したようだ。
「カーラ。一緒にギルドに配達の依頼を出しに行かないか?」
ネイトの機転に
「そうしなさい。私は見たいモノがあるから別行動ね。夕食には帰るからそのつもりでね」
突然の話しに少し驚いたがネイトと二人きりで行動出来るので
「うん!ケイトは気をつけてね!
ネイトさん、手紙を出し終えたら一緒に散策しませんか?」
結局カーラがデートに誘う形になったが
「勿論だ」
無論即答してカーラを喜ばせた。
ギルドにて
「その若さでまさかBランクの冒険者様だとはな。
手紙と配達料は預かった」
ギルド職員の言葉にお礼を言って二人は冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドは加盟国であれば手紙などの配送も受け持っている。
ギルド間をどちらにしても書類やお金、物品などが行き交っているので、それなら個人の手紙もそれに混ぜて配送しよう。と、始まったのだ。
冒険者ギルドが世界各国の多くの国に受け入れられているのも、このインフラ制度がある為だと言われている。
もちろん個人の手紙も受け入れているが、送り先は村であれば村長宅、町であればギルドや各主要施設のみである。後はそこで生活している人達がうまく配達してくれる。
ネイト達が受け取るのは専ら冒険者ギルドである。
なので、次の長期滞在先が決まるまでは向こうからは送らないように伝えている。
その間はこちらからの一方通行な手紙になる。
散策中
「うわー。綺麗なお花畑ですね」
カーラの視線の先にはこの辺りの特産でもある染料の元になる花が咲き誇っていた。
「そうだな。ここまで同じ色の花畑は初めて見る」
ネイトも感慨深くみているが、実は楽園ではそれこそ毎日、どこでも見かけた風景であった。
ただ、ネイトの瞳には仲間や大切な人と見れる風景はまた違ったモノに映った。
「あれ?ネイトさん。あそこにいるのはケイトじゃないですか?」
「ん?ホントだな」
ネイト達の視線の先にはケイトが畑仕事をしている人と何か喋っているように見えた。
「楽しそうですね」
「そうだな。新しいモノを見て、新しい事を知った時にはいつもあの顔をしているな」
ケイトを目撃した二人は
「そっとしておこう」
「そうですね。あんなに楽しそうにしているのを邪魔しちゃ可哀想ですもの」
その場を後にした。
宿にて
「初めて食べる味だったけど美味しかったわ」
カーラの感想に
「そうね。ここの名物でもある花畑で採れた種子から作った油で調理しているそうよ」
「へーよく知ってるわね?」
「さっき花畑に行った時にそこの農家の人に色々と教えて頂いたのよ」
ケイトは新しいモノを見るだけ聞くだけではなく理解している。必要であってもなくても気になればそれをずっと考えていたりもする。
「ケイトは凄いわね。私は新しいモノを見たり触れたり食べたりするだけで精一杯だわ」
その言葉に
「まぁカーラは、ネイトの事で頭が一杯だから仕方ないわ」
ケイトはカーラを揶揄い、ネイトはいつもとばっちりを受けるのであった。