58 さらば王都
「さあ。準備は出来たわね?」
「ああ」
「もちろん」
朝靄の中、3人は宿の前の馬車に乗り込んだ。
「この時間は流石に人が少ないな」
「そうですね。逆に農村の方が早起きで朝早くから動いている人が多そうですね」
二人が平和な会話を始めた。
「来た時とは違う門から出るわ」
旅好きケイトはマイペースだ。
それを二人は頼もしく思う。
門前
「待っていたよ」
そこに居たのはレイナードだ。
「まさかついて来ないよな?」
ネイトの言葉に
「ははっ。それが出来たらいいのだけどね。残念ながら今の職場はすぐには辞められないし、実家の事を片付いていないからね」
「妹の前科があったからな。まぁ、冗談だ」
ネイトが冗談を言うとは思わなかった二人は目を見開きネイトを凝視した。
そしてネイトが言った内容は一般的に冗談にならないが
「はははっ!手厳しい冗談だね!」
貴族にはウケた。
「もちろん私は3人の見送りだよ。
気をつけてね。ネイト君の名前は王国中に広まっている。勿論いい事も沢山あるだろうけど、悪い事も同じぐらいあると思って行動して欲しい」
親切からの忠告だと皆んなが理解した。
「大抵の事は剣聖の称号とネイト君自身の力でどうにかなる。でも二人はか弱い女性だと言う事を忘れないでね」
「忠告ありがとう。街など人が多いところでは、なるべく離れず行動する」
「それがいいね。後、門番にはこの馬車は止めなくてもいいと伝えているから、そのまま出たらいいよ」
その言葉に
「ありがとうございます。沢山助けて頂きました。
それを返さずに王都を出る事が唯一の心残りです」
ケイトが感謝を述べた
「それは言わない約束だよ」
口に人差し指を当ててウインクで答える。
「では、またいつか…」
ケイトはそう言い馬車を走らせると
「ネイト君!頼んだよ」
「ああ」
走り出した馬車に声を上げたレイナードの頼みをすぐに理解したネイトは右手を上げて応えた
王都が殆ど見えなくなった頃
「ネイトさん。何を頼まれたんです?」
「ケイトの安全だ」
それを聞いたカーラはニヤニヤしながらケイトを見つめた。
それが聞こえているはずのケイトは、ただ前だけを見つめていた。
翌朝
「そうだったわ…」
王都出発後初の野営後の朝、馬車から降りたケイトが目撃した物は
「こんなに乗せれないわよ?」
魔物の山だった。
ネイトは比較的安全な野営地だった為、安全を確認した後に王都滞在中では殆ど出来なかった狩りをしていた。
「そうか…じゃあ、売値が良い物だけにしよう」
今回の旅もお金は掛からなそうだった。
朝食中
「ところでネイト。カーラと寝る前に少し話してたのよ。国外に行かないかって」
「なぜ?」
「ネイトが有名になったじゃない?レイナードさんの指摘もあった事だし、それならネイトの情報が知られていないところに向かった方が安全じゃないかしら?」
「なるほどな。そうしよう」
普段こう言う時は任せると答えるネイトだが、カーラの事で万が一があっては後悔してもしきれないと思い賛同した。
「全会一致ね。私たちはこれまで南東の方角にある王都を目指して来たの。だからこれまで通り南東方向に向かおうと思うけどどうかしら?」
「任せる」
「私も」
そこは旅上手なケイトに任せる二人だった。
「やっと軽くなったわね」
町に寄り、魔物を売り捌いたケイトは漸くスッキリした馬車の荷台を見て呟いた。
「今日も野営か?」
ネイトの疑問に
「そうね。この町はまだ王都に近いのよ。だから念の為、宿泊はやめるわ」
その言葉に少し申し訳なさそうにネイトは頷く。
お金は十二分にあるから宿に泊まりたいのが人の気持ちだが、この3人は野営が嫌いではない。いや、これだけしても嫌いではないのだから好きという事だ。
野営地にて
「昼に寄った町で買った物で作ったのだけど、どうかしら?」
「美味しいー!」
「うん。美味いな!」
「良かったわ」
3人は楽しんでいる。
「ネイト。水頂戴」
ケイトの前の空コップに勝手に水が満たされる。
「ふぅ」
それを飲んだケイトは
「こんなに便利な魔法があるならもっと早くに言って欲しかったわ」
文句を言った。
「師匠には魔法は危険だから無闇矢鱈に使っても教えてもいけないって言われていたからな。
でも、今は仲間だけだからいいかなと、な」
「そう。確かに無闇矢鱈にこんなに便利な物を使っていたら人としてダメになりそうね…」
魔法は極力使わない方針に決まった。
「魔法のお師匠様はどんな方だったのですか?」
カーラの質問に少し答えあぐねていたネイトは
「うーん。とにかく教えたがりで、でも面倒くさがり屋でなんでも魔法で解決するような人だったな。
そのお陰で魔法が上達したとも言ってたな。
後、俺のスクァードって言う家名は魔法の師匠のものを貰ったものだ」
「さっき言ってた注意事項を全部してる人だったのね…」
話を聞いたケイトは呆れ
「名前を頂くなんて、凄く尊敬していた方なのですね」
カーラは羨ましそうにしていた。
「いや、名前を使わないと何となく怒られそうな気がしてな…」
ネイトは遠い目をしていた。
実際、剣聖の名前だけしか使わなかったら怒っていただろう。
「ほかにも何か聞かせてください!」
カーラはネイトの事は何でも知りたい。
「そう言えばこの前出した手紙の返事を受け取れなかったわね」
ケイトの発言に目を見開く二人は
「そうだわ!お兄様に手紙を出したっきりだったわ!」
「宿のおばちゃんはいいとして、ジャックとアリスは手紙を受け取れなかった事を知ったら面倒だな…」
二人はこの次の町まで言い訳の手紙の内容を考えていた。




