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57 謝罪?いえ、世間話です。







「済まなかった」


「いえ、済んだ事ですから」


貴族に頭を下げられて居心地の悪さに耐えられず、どうにか早く要件を済まさせて帰らせようと3人は結託した。


ここはネイト達の部屋だ。流石に貴族家当主本人がわざわざ謝罪に訪れるとは思っていなかったネイト達は、宿の人にお客さんと言われて、誰だろう?と思っていた。

そこに現れたのは見知らぬ中年男性でネイトがどなたか聞いたところ、オクタビア子爵だと言われてここでは流石に不味いと思い、部屋へと通したところだ。


「アンジーも言わなくてはならない事があるだろう?」


そう。子爵の後に現れた二人はもちろんレイナードとアンジェラだ。


「ひどい事を言ってごめんなさい」


酷いことよりしつこい方がこちらとしては問題だったが、そんな事よりも早く帰って欲しいネイト達は


「謝罪は受け取った」


とにかく、早く帰って欲しかった。


「ありがとう。ネイト君。借りばかりが増えてしまったね」


そんなのどうでもいいので早く引き上げてください。

3人は唯一まともに話した事があるレイナードにそんな視線を投げかけるが


「うん。そうだよね」


通じた!と思ったネイト達だが


「家の方でも何かしらの罰はちゃんと与えるよ」


違うそうじゃない!と、ネイト達は諦める事にした。




暫く話した後

「そうなのか。ネイト殿は魔法も一流であると…」


「そうなの!お父様も見たらビックリすると思うの!」


親子がネイト談義で盛り上がっている。

そして謝罪の為にフードを取ったアンジェラは幼かった。

本人と家族に確認したところ、まだ12歳だった。

これであの幼い行動をした事を、ネイト達は納得は出来なくとも理解は出来た。


「ねぇ。お父様。私も剣聖様達と旅がしたいの。お願ーい!」


子供らしく親にねだる。ねだったものは可愛らしくないが。


「それはダメだ。旅とは自分の事は全て自分で出来た上に、困難に陥った時に仲間と協力して乗り越えて行かなければならない。

今のアンジーだと、足手纏いにしかならないからそれはダメだ」


ちなみに今更だが子爵の口調はよそ行きのものだ。


「…はい」


こちらは子供らしく萎れる。


「子爵。来てもらって申し訳ないが、私達はこの後次の旅の準備をしなくてはならない」


「そうだったのか。わかった。謝罪に伺ったのに長居をしてしまって申し訳ない。では、失礼する」


子爵は聞き分けが良い。


「父上とアンジーは先に戻っていて下さい。

私は申し訳ないですが、ネイト君達に話しがあるので」


「わかった。行くぞアンジー」


席をたった子爵はアンジーを伴い、最後に一礼して退室した。


残ったレイナードのお目当てはケイトだと知っているが買い出しや準備はケイト主体の為、着いて来てもらい一緒に行動する事にした。






「じゃあ、明日見送りに行くよ」


「わかりました。お気をつけて」


結局最後まで準備に付き合ったレイナードは宿の前で別れた。


「ご飯でも食べて来たら良かったんじゃない?」


カーラが聞くと


「変な未練を残したくないのよ。お互いにね」


少し大人の返事が返ってくる。


「あなた達は?王都最後の夜なんだし、デートでもして来たらいいんじゃない?」


殴っていいやつは、殴られてもいいやつだけだ。

カーラは手をパタパタ振りながら顔を真っ赤にしている。


「ネイト。偶には男を見せたら?」


矛先がネイトに向かった。


「…そうか。カーラ、ご飯でも食べに行かないか?」


ケイトにケツを叩かれて漸くネイトがカーラを誘った。


「はい!喜んで!」


満面の笑みを浮かべるカーラを見て微笑むケイト。


「私は宿で済ませるからごゆっくり」


二人は王都に繰り出す。







「ここも美味かったな」


ネイトの感想に


「はい!沢山の香辛料を使っていて初めて食べた味でした」


ネイト達は夕食を食べて街をブラブラしている。

丁度宝飾品店があり、カーラがそちらを気にしているのに気付いたネイトは


「寄って行こう」


と言った。


「いいんですか?」


ネイトがこういう物に興味がない事を知っているカーラは驚いて聞き返した。


「興味があるんだろう?俺にはそういうものはよく分からないが、それでもいいなら行こう」


ネイトが自分の為に提案してくれたと理解して


「はい!行きます!」


元気に答えた。


店内

「わぁ。綺麗ですね」


カーラはシンプルなデザインに小さな宝石が嵌め込まれたブレスレットを見ている。

値段を確認したネイトは『これくらいなら買えるな』と思い、店員に聞いた。


「これが欲しいのだが」


「はい。ありがとうございます。付けて行かれますか?」


そう聞かれたネイトは


「あぁ。彼女が付けて帰る」


といった。


「ではお付けしますね」


サクサク進む話しに


「えっ?」


カーラは驚いて思考が止まる






「ありがとうございました」


店員が深々と頭を下げていた。




思考を取り戻したカーラは


「ネイトさん!こんな高価な物は…」


ネイトからの贈り物は欲しいが値段が高いので遠慮したい気持ちも大きく、葛藤が言葉を詰まらせる。


「俺からの贈り物だ。受け取って欲しい」


何やら悩んでるカーラを見て、押し込んだ。


「は…い。ありがとうございます」


カーラは嬉しすぎて感情が天元突破してしまい、涙が止まらない。

そんな時、どうすればいいのか分からないのがネイトだ。

暫くオロオロしていたネイトは


「泣き止んで欲しい。笑顔が見たくて贈ったんだ」


ナチュラルに良いセリフが出るのもネイトだ。

涙を拭ったカーラは


「はい!大切にしますね!」


「ああ」


とびきりの笑顔をネイトに贈った。







宿にて

「凄いじゃない!ネイトもやるわね!」


女子会が始まっていた。

ネイトは同室なんだから止めろ、と言いたいが言えるわけもなく、寝たフリをしている。

そしてその内、ホントに寝るのがネイトだ。


「そうなの!でもこんなに高価な物…本当に私なんかが貰ってもいいのかしら」


カーラはまだ迷いが残っていた。


「いいに決まってるじゃない。贈り物は気持ちよ!偶々ネイトがお金を持っていたから高価な物になっただけよ。

ネイトが贈りたいって、言ってたんでしょ?じゃあ、貰うのが一番相手も嬉しいんじゃないの?」


「そうね。ケイトの言う通りだわ」


カーラは自分が贈った側になった時を想像して大切に受け取る事に決めた。

そもそもお嬢様のカーラが戸惑う値段とは気になる。


「カーラがそこまで言うなんて一体いくらだったの?」


商売人の魂に火が付いたケイトはカーラを問いただす。


「120,000ガースよ」


「は?」


ケイトはカーラがおかしくなったのかと思った。


「ええ!!そんなにしたの!!??」


「しーっ!起きちゃうじゃない!」


叫んだケイトはカーラに怒られる。


「いくらか知らないけど確か褒賞にお金も貰ってたし…いえ、そもそもネイトはお金を使ってないのだから当たり前にあるのね…」


「そうね…」


二人はネイトの稼ぎはだいたい知っているので、それがほぼ全て貯蓄になっていた事に今更気付いてしまった。

そんな王都最後の夜。

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