55 剣聖
『えぇー最後の攻撃について観衆からの魔法を使った反則じゃないのか?との声が多いのでこれより協議致します』
ネイトが飛ばした斬撃が不正を疑われた。だが対戦相手だったレイナードは魔法ではないと確信しているようで、顔を伏せたまま微動だにしていない。
『余はレイカード王国国王のリチャード・フェルト・レイカードだ』
審判と同じ魔道具とおもしき物を使って告げられた言葉に観衆は静けさを取り戻す。
『先程のネイトが放った斬撃については余は見たことがある。
余がまだ王太子であった昔、外国に公務で赴いた時に斬撃を飛ばす猛者がいた。それは魔法ではなく剣術を極めて始めて到達出来るものという事であった。そしてネイトが放った『それ』は演舞で見た『それ』とそっくりであった。
いや、折れた模造剣で事を成したのだからそれ以上か…。
誠素晴らしい技術だ。まだ疑うものはおるか?』
鶴の一声に疑いを掛けられる者などいない。
『優勝はネイト・スクァード!』
「あめでとう!」「きゃー!私は信じてたわぁ!!」
「すげぇもんが見れたぞ!」
観衆は大盛り上がりである。
『では、表彰と褒賞の授与に入らせてもらいます』
サクサク進める司会に
『褒賞は余が直接渡そう』
国王の声に会場は静かになる
『ネイト・スクァードよ』
「はい」
ネイトは地声だが静かな場所では地声でもよく通った
『斬撃を飛ばすなど、もう見れぬと思っておったわ。
余を楽しませてくれた事も踏まえて、
そなたに【剣聖】の称号を与えよう。
何者の権力にも抗えるものだ。大昔の遠い国にいた剣聖も同じ事が出来たのもこの称号に由来しておる。これからも研鑽をつづけてくれ』
国王の話しが終わりネイトが返答すると会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「負けたよ。まさか未知の手段で攻撃されるとは…修行が足りなかったようだね」
控え室でネイトはレイナードにそう言われて握手を求められた。
「こっちも驚いた。あの光は『氣』だろ?」
握手に応じたネイトがレイナードの防御について聞いた。
「知っていたか!ではあの斬撃は…」
答えにたどり着いたレイナードにネイトが肯首する。
「そうだ『氣』を飛ばした」
「そんな事が出来るんだね」
そんな会話をしている二人の元に
「ネイトさん!おめでとうございます!!」
カーラがネイトに飛び付いてきた。
ネイトは異性に抱きつかれたことはなく挙動がおかしくなる。
「カ、カーラ。喜んでくれるのはありがたいが…」
ネイトの言葉に我に返ったカーラは恥ずかしさのあまりに控え室を飛び出した。
「お、おい」
手を伸ばしたネイトだが間に合わずカーラは遠ざかる。
「カーラを探してくる」
そう言ったネイトに頷いてケイトは促す。
この場にはレイナードとケイトしかいない。
突然
「済まなかった。ケイト嬢には要らぬ心労を掛けた」
頭を下げるレイナードに驚いたケイトが告げる。
「いえ!頭をあげてください!近衛騎士さまが小娘に頭を下げるなど…」
「想いを寄せる相手であれば頭などいくらでも下げるさ」
爽やかレイナードが帰ってきた。
「ありがとうございます。ですが…申し訳…」
ケイトの謝罪を遮り
「ありがとう。君が謝る事は何も無いよ」
レイナードがケイトの気持ちに感謝を述べて応えた。
「これからも想いが色褪せるまで私はケイト嬢を想うよ。だが、もう無理強いはしない。これからは友人として付き合ってくれたら嬉しい」
真摯な言葉に
「はい。こちらこそよろしくお願いします。ですが剣術大会が終わりましたので、旅立つ日も近いと思います」
「そう言えば君は旅人でもあったな。君のような美しい人が旅をしているなんて誰も信じないだろうね」
爽やかな笑顔でストレートに褒められたケイトは顔を真っ赤にしていた。
この数日すれ違っていた二人は出会った頃のように話に花を咲かせていく。