50 不条理な過去と今
食堂にて
「昨日で王都で高く売れる物は粗方売れたから、今日からは王都の名物などの仕入れをするわ。
だからネイトはお役御免ね。また依頼をこなしたりお金あるんだから遊んだり自由にしててね」
朝食の席でいきなりケイトが言ってきた。
寝耳に水のネイトは
「あの騎士が原因か?俺の事を敵視していたから避ける為なら俺は平気だ」
ネイトの言葉に
「こういう時は感が鋭いのね。でも半分正解で、もう半分は本当に万が良かったのよ。
だから気にせず自由にしてね」
カーラが心配そうに
「ケイト…大丈夫?私は味方だからなんでも言ってね」
「カーラにも心配掛けてごめんね。
でも、本当に大丈夫よ。ネイトもバザーに付き合ってくれてありがとう」
ケイトは本当に大丈夫そうだったので二人は納得して新たに決まった予定を考えるのだった。
「俺は良い依頼がないかギルドに行ってくる」
そう言い残してネイトは出ていった。
「仕入れにはこれからすぐ動くの?」
「そうね。まだバザーをしてるから安く良いものを買って道中の街や村で高く売るわよ!」
ケイトは本当に元気そうだった。
「ケイトって旅が目的で行商はついでよね?」
カーラの呟きを拾うものはいない。
冒険者ギルドにて
「日帰りの村への護衛か…まだ募集しているな」
依頼を見つけたネイトは依頼票を持って窓口へ向かう。
「はい。こちらですね。丁度依頼人様が来られているので聞いてみますね」
そう言って受付嬢は席を外した。
暫く後
「お待たせしました。受理されましたのでギルド入り口にて依頼人様がお待ちですのでよろしくお願いします」
「ありがとう」
ネイトは初めての護衛依頼が受理されて少しホッとした。
ギルドの入り口へと向かい、踵を返した。
ギルド入り口
「あなたがBランクのネイトさんか。よろしく頼むよ」
40過ぎの商人が挨拶してきた。
「ネイトだ。必ず守る」
ネイトがそう返すと商人とは違う方から
「何が守るよ。剣しか能がないくせに」
ローブを着てフードを目深に被った少女がネイトに突っかかってきた。
「これこれ、アンジェラさん。仲良くしろとは言わないけど喧嘩をするならギルドに報告するよ?」
商人がその場を抑える。
「ふんっ」
「ご主人、この少女は?」
ネイトの疑問に商人が答える。
「もう一人の護衛のアンジェラさんと言う人だよ。依頼書にも記載していたが護衛は複数だ。
今朝までアンジェラさんしか捕まらなかったから、依頼を取り止めるか延期するかギルドの人に相談していたところ、君が受けてくれたからお願いしたのだ」
「理解した。よろしく頼む」
ネイトの差し出した手を見たアンジェラは、すぐに視線を外した。
行き場を失ったネイトの右手だったがネイトは何事もなかったように対応した。
その後は順調だった。
「いやーネイトさんは若いのに剣の腕はピカイチだな」
商人のヨイショに
「この辺は魔物が多いな」
ネイトはスルーした。
「剣なんてしょーもないわ」
少女はぶつぶつ独り言を言っている。
無事に目的の村に昼前に着き、商人は用事を済ませる。
昼過ぎに帰路についた。
帰路の途中
「様子がおかしい」
ネイトの呟きに
「何か異変があったのか?」
商人が疑問に思う
「魔物に囲まれている」
「なに!?」
「何でそんな事がわかるのよ!嘘じゃ無いでしょうね!?」
少女は食って掛かるがその時ネイトの言葉が真実になる。
(拙いな。一斉に襲い掛かられたら剣だけでは守れない。この少女に頼ってもいいが実力がわからんからここで一か八かする理由はないか…)
諦めたネイトは魔法を使う事にした。
ネイトが覚悟を決めた時森から無数の魔物が飛び出してきた。
『ストーンバレット』
無数の石礫が魔物達を襲い範囲外の敵は剣で倒した。
(ふぅ。流石に強い魔法は避けたが…そのせいで撃ち漏らしがあったな)
心でため息をつき周囲の様子を伺っていると
「な、なにそれ!?あんた何者!?」
少女がネイトに飛び付くが
「何をしている!まだ魔物がいるかもしれない!警戒しろ!」
ネイトは珍しく怒鳴った。
「大丈夫よ!一匹や二匹くらい私が倒すわ!」
全然堪えていない。
少し後
「魔法まで凄いのだな。これは次回の依頼は指名しないとな」
商人は手放しで褒めたが
「あんなに構築が早くて威力もある魔法なんて見たことがないわ!教えなさい!アンタの知っている魔法を全て!」
少女は気が狂った様にネイトに詰め寄る。
「やめろ!依頼中だぞ!」
「じゃあ王都に帰ったら教えなさい!必ずよ!教えなかったらパパに言いつけて捕まえさせるわ!」
漸く黙ったが最後の脅しを聞いてネイトは絶対教えないし関わらないと心に決めた。
不条理なジョンの過去がある為、ネイトはこの人生では不条理な事は跳ね除けると心に誓うのであった。
その後、一行は無事王都につきネイトは依頼を達成させた。