39 世の中新しい物の方が大体良い
「おはようございます」
朝の食堂にカーラの声が響いた。
「準備は出来たかしら?」
「もちろんよ!」
ケイトの確認にカーラが答える。
「じゃあ行こうか」
ネイトの号令で宿を立つ。
馬車に乗り込んだ三人は門を目指す。
門前にて
「領主様達じゃない?」
「うちの者もいますね」
「厄介ごとか?」
「見送りじゃない?」
失礼な考えのネイトをケイトが正す。
「待っていたぞ」
「師匠!出ていくの早すぎるぞ!」
「そうよ!私たちがDランクになるまで待ちなさいよ!」
騒がしい二人もちゃんといる。
「カーラ!立派になったな…」
涙ぐむカーラの兄。
「お兄様…」
「ところでネイト君。お礼の品を持ってきたよ」
そう言って渡してきたのは2頭の駿馬だった。
「いや、俺は馬には乗れない」
「それも織り込み済みだよ。領主様!」
そう言うと領主が前に出て
「私からも褒美があるといったろ?
こいつだ」
そう言って指をさした方を見ると
「立派な馬車ね…」
そこにあったのは二頭引きの馬車だった。
「今までの馬と馬車はこちらで引き取ろう。
これなら今までよりもたくさんの荷物も積めるし
馬が若い為、買い替えの心配も当分ない。
見た目よりも頑丈さに力を入れた馬車だから過酷な行商の旅にも耐えれる。
どうかな?」
ネイトは門外漢なのでケイトに託す。
「ありがとうございます。この様な立派な馬車なら行商にも箔がつき、よく売れる事でしょう」
「ありがとうございます。領主様。お兄様」
「では、有り難く頂きます」
3人がそれぞれ礼を言った。
「師匠!いつか追いつくからちゃんとどこにいるか手紙をよこせよ!」
「そうよ!毎日書きなさい!」
ジャックは師弟冥利な事を、アリスは無茶な事を伝えた。
「とりあえず王都に行って剣術大会に出てくる。
二人も冒険者ばかりじゃなく朝夕の鍛錬もちゃんとしろよ」
みんなに見送られながら3人は旅に出る。
新しい馬車にて
「凄いわね。揺れがここまで違うなんて…」
「一頭より二頭引きのほうがやっぱり力強いな。
あとお尻が痛くない」
二人は早速満足していた。
「ケイトもお尻に今まで何も敷いていなかったの?」
カーラの疑問にケイトは
「そうよ…こんなに違うなら初めからケチらずクッションを買えばよかったわ…」
クッションどころか備え付けの折りたたみベッドまで付いている。
旅が豊かになってきた。一度贅沢を知ると人は戻れなくなる。
「ネイトさんちょっといいですか?」
「見張りは良いから行ってきなさい」
馬車で暫くいくとカーラに呼ばれた為、馭者席から中に入る。
「ケイトとは沢山話しをしたけど、ネイトさんの事はあまり聞いていないのでこれまでの事とか教えてください!」
そう言ったカーラは馭者席をチラ見してこちらにウインクしているケイトを見たのだった。
楽しい話し声を背にケイトは馬車を操る。
野営地にて
「村には泊まらないのですか?」
カーラの疑問に隣にいたネイトが
「ああ、この方が早いらしいからな。
旅のプランはケイト任せだから、気になるなら聞いてくればいい」
「いえ!ネイトさんのそばがいいです!」
カーラは顔を朱に染めてネイトを見つめる。
「大丈夫だ。ケイトのいる辺りでも守れるから行ってきたらいい」
ネイトはカーラが初めての野営で怖がって強者のそばを離れられないと勘違いした。
「ネイトさんはケイトの言った通り難しいです…」
「何か言ったか?」
「いえ、何も…ケイトの手伝いをしてきます」
カーラはこの場は諦めた。
二人が仲良く野営の準備をしているのを見つめながら
「賑やかになったな」
これまではケイトの就寝の少し前に予定を話す程度しか会話がなかったが、カーラのお陰で二人にも笑みが増えた。
この事を嬉しく思うのと、何故かカーラを視線で追いかけている自分を理解できていないのであった。