37 認めざるを得ん
「起きてください!!」
ダンダン
扉を叩く音で目が覚めるネイトとケイト。
「開けるぞ?」「ええ」
「どうした?」
そこに飛び込んだ報せは二人を領主邸に走らせた。
急いで領主邸にやって来た二人はすぐに領主の元へと案内される。
そこで明かされたのは
「縄張り争い?」
「ああ。時々起こるのだ。魔物同士がお互いの縄張りを主張して辺りが臨戦体制になる事が」
領主の言葉にケイトが反応した。
「聞いた事があるわ。ですが範囲は広くないとも聞きます。場所はどこでしょうか?」
「あの山の麓だ」
領主が示したのはジャックが向かった山の麓だった。
「「!!」」
「3年ほど起こっていなかったのだが今朝になってからギルドマスターが報告に来た」
説明を続けた領主にネイトが
「わかりました。助けに向かいます」
ネイトは躊躇することなく、自分が任されるであろう任務に先回りして返事をした。
「あまりに危険でどの面を下げて頼めば良いのかわからん。だがどうか息子に会わせてくれ!!」
領主の、いや父親の息子を思う気持ちが全面に出た嘆願に
「冒険者の事を教えた私の責任でもあります。必ず連れて帰ります」
ネイトは飛び出した。
宿への途中アリスとすれ違いなんの騒ぎと聞かれたが時間がない為ケイトに聞けと言っておいた。
宿に着きすぐに準備を終えたネイトはジャックの元へ急ぐ。
アリスサイド
「私も行くわ!!」
話を聞いたアリスは条件反射で宣言した。
「やめなさい。ネイトが行ったのよ?貴女が行っても足手纏いよ」
ケイトの言葉に歯噛みする。
「くぅ」
「それにジャックは強いのでしょ?」
「そうよ!ジャックは強いわ!魔物なんかには負けないわ!」
「じゃあここで待ちましょう?ジャックが帰ってきて貴女がいないんじゃカッコつかないでしょ?」
「…わかったわ」
もっともな事を伝えられたアリスは、了承する他なかった。
山の麓まであと少しのところ
「凄い殺気だ。気配を殺して移動しないとすぐに魔物達に囲まれてしまう」
ネイトは魔物包囲網に阻まれて中々進む事が出来ずにいた。
もちろん魔法を使えば殲滅する事は可能だが、どんな被害が出るのか、その後にどんな影響があるかわからない為、ここまで半日できたが一度範囲外まで下り次の日の朝から一気に山まで行く事に決めた。
「急いでいる時こそ焦るなか…」
剣聖ではなく魔女から言われた言葉を思い出していた。
「まだ山から降りるなよ」
そう呟きその場から消えた。
翌朝寝起きのネイトに
「気配が近づいてきている。だがこれは…」
ガサガサ
草むらが揺れる。
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「あれ?師匠?何してんだこんなとこで?」
ジャックが草むらから現れた。
「はぁ。無事だったか…」
一気に力が抜けるネイトだった。
「そうか。気配察知が使えたか」
「ああ。でもかなりの殺気だったから分かったくらいで師匠の気配はわからなかったな」
魔物達の普段は隠している気配が今の状況では丸見えだった様だ。
「それでも進歩だ。やったな!」
ネイトはジャックの背中を叩いて弟子が無事にやり遂げた喜びをあらわした。
「おかえり(なさい)」
領主邸に帰るとまず声をかけてきたのはケイトとアリスだった。
「ただいま!やったぞ!ドラゴン草だ!」
そう言ってジャックが掲げたのは真っ赤なドラゴンの様な形の草だった。
「よく…よく無事に帰ってきた!」
感極まっている領主が何とか涙を堪えて無事を祝った。
「親父!約束だからな!」
「…しかし今回は…」
ジャックの言葉に言い淀む領主に
「私は手助けをしていません。
ジャックが自力で突破して帰還してきたところに遭遇したに過ぎません」
「本当か?」
「ホントだよ!」
その言葉を聞き、ため息混じりに
「…認めざるを得んな」
「やったわね!」
「おめでとう」
「頑張れよ」
「うぉおお!!」
領主の諦めの言葉と3人のそれぞれの祝い、本人の叫びが邸宅を包んだ。
こうしてこの街に新たな冒険者が誕生した。
二人…




