36 ケイトの告白
「おはよう。今日は休みなんでしょ?どうするの?」
寝起きのネイトはケイトに今日の予定を聞かれる。
「5日は暇だからな…森にでも行って剣を振ってくる」
「そう…」
返事が優れないケイトにネイトは理由が分からず
「ん?どうかしたのか?」
と、聞いた。
「何でもないわ。休めて羨ましいだけよ」
「まぁ。頑張れ」
しょうもない理由だったので全く感情の篭っていないエールを返した。
ケイトは会頭に頼まれて、仕事はじめ早々にカーラの様子を見にいく事になった。
「調子はどう?」
「調子はいいけどネイトさんに会えないのは寂しいの」
「ふふっ。これが恋煩いね」
「もう!こっちは真剣なのよ!」
怒った顔も可愛いのかと驚愕するケイト。
そんなカーラを見たケイトは
「…ごめん。カーラ」
「どうしたの?急に?」
「カーラの事は友達だからはっきり言うね」
そう前置きしたケイトはカーラに思いの丈をぶつけた。
「友達のカーラとネイトの仲を応援したいのだけど…」
言い淀むケイトに
「ネイトさんの事が好きなのね…素敵な人だから仕方ないわ…」
俯きながらケイトほど美人になら負けても仕方ないかと思うカーラだが
「?何言ってるのよ。あんな女性の事を何も知らない朴念仁はタイプじゃないわよ」
否定するにしても言い方が…と思うカーラだが
「じゃあ何故?」
「カーラは美人で可愛いからネイトも満更じゃないと思うわ。でもね、私の旅にはネイトが必要なのよ。
ネイトとの便利旅を経験したらもう前の魔物や護衛の男たちに怯えたり…
何よりお金に困らないからよ」
ケイトの告白に訳がわからず固まるカーラ
「だから二人が上手くいってネイトがここに留まると言われたら…私とネイトのコンビは解消されるの。
そしたら私は…」
話しながらケイトの顔が絶望に染まる。
それを聞いたカーラは
「そうだったの。教えてくれてありがとう。
でもネイトさんはケイトを選ぶと思うわ。
…いえ、正確には旅を選ぶが正解かな?」
「確かにネイトならそうしそうね…」
「でしょ?だから考えたの…」
カーラの作戦を聞いたケイトは
「なるほど!それはいいわね!!
私はこれまで通り旅ができて、カーラはネイトと一緒に居れてさらに私は友達の恋を応援出来るのね!」
一気に顔色を良くしてテンションが上がった。
「そうよ!これしかないわ!もちろん協力してくれるわよね?」
「当たり前じゃない!任せなさい!」
三人集まっていないが文殊の知恵が出たようだ。
二人が向かったのは会頭のいる場所だ。
「お兄様!うんと言わないと私はここで死ぬわ!」
「待ちなさい。文鎮じゃあ首は切れないよ」
そこには会頭と文鎮を首に添えたカーラとケイトがいた。
「話しはわかったよ」
ため息を吐いて会頭が話しを続ける。
「確かにケイトさんの言う通り家にずっと閉じ込めとくわけにはいかないし
そもそもカーラの人生なのだからカーラに選択権があるね。
二人の話しは、
カーラは嫌な思いをしたこの街を出たい。
その為に仕事としてカーラの商家の娘としての技能を生かしてケイトさんと行商をする。
護衛はネイト君がいるから安心、ケイトさんも女性のカーラがいた方が助かる。
だね」
しばし考え込む会頭だが。
「カーラの覚悟は決まっているみたいだし止めても無駄だね」
「ありがとうお兄様!」
「ありがとうございます会頭」
二人は気持ちを込めて礼をした。
「ただネイト君と話しがしたい。呼んできてくれるかな?」
「わかりました。今日は森に出ているので明日でも宜しいでしょうか?」
ケイトが答える。
「勿論だとも」
翌日
「やあ、ネイト君。この前ぶりだね」
「ああ。話しは聞いた」
二人きりで会頭室にいる。
「それで君の考えはどうだった?」
会頭の質問にネイトは
「ケイトの行商だからケイトとカーラが納得しているのであれば問題ない」
答えるが会頭はさらに
「守る人が増えるが?」
「それは助け合える人が増えたと考えている」
ネイトはそれにも淀みなく答えた。
「流石の回答だね。じゃあこれなら?
『カーラは君の事が好きでそれで過酷な旅についていくみたいだ』」
「…それは本人がそういったのか?」
予想外の質問に言葉が詰まったネイトが疑問を口にした。
「いや、あくまで私の予想だが…
こういった予想は外した事がないものでね」
結局予想の域を出ないので
「本人にそう言われたなら返す言葉も色々あるが…
結局はカーラ本人がどうしたいかが大切だ。
俺たちは友として出来る事はしてあげるだけだな」
「わかった。大切にしてきた末の妹だ。よろしく頼む」
真剣なお願いにネイトも礼節を持って返す。
「どうでしたか!?」
カーラが食い気味にネイトに聞いてきた。
「大丈夫だった。カーラを頼むと言われた」
「それってどう言う意味でかしらね?」
からかい口調でケイトが茶化す。
「?」
ネイトは気付かない。
カーラは対照的に真っ赤になる。
「もう!ケイト!大事な話しなのに茶化さないでよ!」
「ごめんごめん!」
まったく悪びれる様子もない。
3人の…2人の会話は弾む。次の日の朝の報せをまだ知らないから。




