35 初恋と試練
場所は変わりジャックは領主にアリスの事とは別の頼み事をしている。
「冒険者になりたい?」
ジャックの要望を聞いた領主が聞き返した。
「ああ。冒険者として師匠に近づきたいんだ」
「お前には剣の才能も、それを支える貴族家の実家もあるのだから騎士ではダメなのか?
剣士として強くなるなら騎士の方がいいのではないか?」
領主が諭そうとしている。
「確かにそのほうが剣士としては対人戦において強くなれると思う。
でも。人が斬りたいんじゃないんだ。
冒険者になっても人は守れるし魔物を狩ったり旅も出来る。
出来ないことより出来る事が増えるんだ。
ここまで心配掛けた親父には申し訳ねぇと思ってる。
でも、俺は俺のやりたい事に挑戦したいんだ!」
しばし考え込む領主。
「そうか。ジャックの気持ちはわかった。
だが、一人の親としても、領主としても、はい。そうですか。とはいかない。
条件がある」
「条件?なんだそれは?」
「ドラゴン草を取ってくるんだ」
「!!」
その言葉にジャックは驚いた。
場所は戻り、カーラの自宅にてネイトは聴取を受けていた。
「わかった。では、これで。
事件の解決に協力してくれてありがとう」
衛兵長は礼を取り踵を返した。
「お疲れ様でした」
そう言って会頭の秘書がよく冷えたお茶を出してくれた。
「ありがとう。二人はどうしている?」
「お嬢様とケイトさんは中庭でお茶をしてます」
それを聞いたネイトは領主邸に報告に行くと伝えてもらい屋敷を後にした。
領主邸に着いたネイトはさっそく領主と会って詳細を伝えようとしたが、こっちでも違う出来事が起こっていた事を知らされる。
「冒険者?ドラゴン草?」
「ああ。ネイトに任せて上手くいっていたが上手くいきすぎたようだ。
完璧にネイトに影響を受けていて冒険者になりたいそうだ。
そこでなるなら結果で示せとドラゴン草の採取の条件を出した」
「そうでしたか。私への依頼は剣の指導と生意気な鼻っ柱を折る事でしたから問題ないですよね?」
「たしかに…。
まぁ、実はそこまで悲観していない。
騎士になってこの街を盛り上げてくれれば文句なしだったがそれはわたしの身勝手な思いだからな」
一呼吸おいた領主はお茶を口にする。
「それでドラゴン草とは?」
ネイトは気になっていたもう一つの疑問を問う。
「ああ。大層な名前だが実際はドラゴンの様に派手な見た目なだけの草だ。
ただ生息している場所が問題だ。この領都に一番近い場所はこの窓からも見える山の頂上付近だ」
領主が見上げた先の山はかなり切り立っていてその難易度を物語る。
「大丈夫でしょうか?」
「確かに安全ではない条件だが、この程度の事を達成できなければ許可は出来ない」
「そうですね」
領主は獅子と同じく谷底へ我が子を突き落とす。
一通り昨日の顛末を話したネイトはジャックが帰ってくるまで鍛錬は中止だと告げられて少し暇を持て余す事になる。
「あの少女はどうするのだ?」
「私は知りません。ジャックと気が合う様で二人して剣術を研鑽したいのでは?」
「そうか。とことん面倒ごとは無視していくスタンスだな…」
「そもそもジャックだけで精一杯なのに無理では?」
「…親としては息子にできた新しい友達にも優しくして欲しいが」
「私も歳はかわらないし、少々過保護では?」
「すまん…」
ネイトにアリスを押し付ける作戦が失敗に終わり項垂れる領主だった。
ギルドマスターにも報告してから宿に帰ったネイト。
「あら?ここにいたのね」
ケイトが帰ってきた。
「おかえり。カーラの様子はどうだった?」
「カーラはもう落ち着いていたわ。ネイトが来るのを今か今かと待っていたけど来ないことを知ってガッカリしていたわ」
申し訳ない顔をしながら
「そうか…また機会があれば顔を出すか」
「ギルドは辞めるそうよ。
お兄さんがギルドの管理体制を責めない代わりにカーラは辞職するみたいよ」
「そうか。わかった。
ところでいつの間に呼び捨てになったんだ?」
色々知れたネイトだが気になっていた事を聞いた。
「昨日の夜にたくさん話して仲良くなったのよ」
ふーん。そんなもんかと思ったが食事の時間になったので食堂へと向かう。
しばらく前のケイトとカーラは
「私、気づいたんです…。ネイトさんの事を好きだって…」
「やっぱりね。私はそうじゃないかと思ってたわ!」
「えっ?私が気付いたの昨日ですけど?」
「その前から怪しかったわよ!でも自分で気付いて、こうしてそれを言えるならもう大丈夫そうね」
事件の後でも恋する乙女は強いのだ。それを知っているケイトは安堵した。
「はい!ケイトさんにはお世話になりました」
ペコリと頭を下げるカーラ。
「ねぇ。歳も2つしか違わないし敬語も敬称もやめない?」
笑顔を向けて
「わかったわ!ケイト!これからもよろしくね」
「こちらこそ!カーラ!」
(友達だからネイトとの仲を応援してあげたい…
けど…)
ケイトは葛藤していた。




