34 大金持ちの真髄
ここは人が寄り付かない場所。そこで少女の悲鳴が木霊する。
「いやーー!」
「うるせぇ!!黙るまで蹴るぞ!」
ボグッ
「ガハッ?!」
「はははっ!聞いたか?ガハッだってよ!」
顔を殴って醜くなれば興醒めだと思い、男はカーラの腹を蹴った。
「ぐるちぃ」
鳩尾を蹴られたカーラは呼吸困難に陥る。
「まだ喋るか?」
男が聞くが苦しむ声が上がるだけだ。
「おらぁっ!」
別の男が蹴った。
ボキッ
お腹を庇っていたカーラの腕が折れた音が聞こえた。
「がっ!ぎゃぁあ!いや!いたぁ!」
もはや痛みで混乱している。
「おい!腕折るなよ!またうるさくなってめんどくせぇな!」
また腹を蹴る。
暫く後
「やっと静かになったな」
「よし!やるか!」
「俺が最
「はははっ!焦って舌でも噛んだか?」
男二人が言葉が切れた男を振り返ると
首がなかった。
「「えっ?」」
理解の及ばない現象に男達は声が出なかった。
時は少し遡る
「あれ?声がしなくなったか?」
目線の先には廃屋と廃屋に挟まれる形で残っている掘建て小屋がある。
「まぁ、気配の数は変わっていないから行ってみるか。
勘違いなら帰ればいいし」
ネイトが近寄りそっと中を確認した。
時は戻り
「な、なんだ?だれだ!!」
「ひっぃ!お前は」
二人を見たネイトだがもはやお喋りする気はない
二人の首を一瞬で切り飛ばす。
この男達は幸運だったかもしれない。
ネイトが人を殺すのに慣れていれば、こんな一瞬ではなく苦しめて殺したはずだ。
カーラに駆け寄るネイト
「ひっひっ」
痛みと恐怖で過呼吸を引き起こしているカーラをそっと抱き寄せ
『我の身の内に潜む魔を糧にこの者を癒し給え』
「ハイヒール」
治癒魔法を使った。
カーラの身体が優しい光に包まれていく。
5分程で光が消えて無傷のカーラが現れた。
「遅くなって済まない。怪我は治したつもりだが、どこか痛むか?」
ネイトは精一杯慈しみの感情を声に乗せてカーラに伝えた。
「あぁあああ!!」
痛みから解放されてやっとネイトを確認したカーラはネイトに縋り付き声を大にして泣いた。
暫く後
「落ち着いたか?」
ネイトの言葉に
「はい…助けていただいた上に怪我まで治して下さってありがとうございます」
はっきりとカーラが答えた。
「いや、礼はいいよ。
それよりもこいつらの死を、衛兵に説明しなくてはいけないけど出来そうか?」
「…今はまだ」
震えるカーラが答える。
「そうか。では暫くこうしてもう少し落ち着いたら家に送ろう。
明日にでも衛兵詰所に来てくれ」
ネイトの説明にカーラは
「ネイトさんはご一緒してくれないのですか?」
一人で行く不安を口にした。
「俺は早く伝えてこの死体を片付けて貰いたいからな。殺人は証人がいないと解放はされないと思う。
だから明日まで詰所にいる」
「え…!そんな事ダメです!助けてくれたネイトさんがそんな仕打ちを受けるなんて!」
「俺は平気だ。カーラの身体は治したが精神までは治せない。
ゆっくり休んで明日顔を出してくれ」
人の優しさに触れたカーラは
「ありがとうございますっ」
そういってただ泣く事しか出来なかった。
「落ち着いたか?」
再び同じ問いをかける。
「はい…見苦しいところをお見せしました」
「カーラは綺麗だから見苦しいとこなんかないぞ」
ナチュラルナンパ野郎が出た。
「後、治癒魔法は使ってない事にしたいんだ」
カーラは黙って頷く。
頷いたカーラに方法を伝える。
「こいつらには誘拐されて、いざ襲われるところでたまたま散歩していた俺がカーラの悲鳴に駆けつけてやむなく殺したって事にしてくれないか?」
「はい。ネイトさんは私が何かされる前に倒してくれました」
物分かりのいいカーラだった。
「ありがとう。こんなところにいつまでも居たくないから帰ろうか」
「はい!」
少しだけ元気を取り戻せたカーラはネイトの腕を掴みながら帰路につく。
カーラを家へと送り届けてネイトはカーラの兄に事情を説明していた。
「いや、それには及ばないよ。
衛兵を呼べ!」
「はい」
その言葉で全て理解したように秘書は動いた。
「いくら短い間とはいえ恩人を犯人扱いさせるわけにはいかないからね」
カーラの兄が言った。
「助かる」
短いネイトの感謝に
「助かったのはこっちさ。妹を助けてくれてありがとう。
すぐにでもお礼がしたいが、ネイト君も落ち着いてからのほうがいいだろう」
大店の会頭は人の機微にも鋭いようだ。
「ケイトさんは今日はカーラの部屋で泊まっていくそうだ。
二人には足を向けて寝れないな」
その後は衛兵が来て、ことの顛末を話して後日聞き取りさせて欲しいと頼まれたに過ぎなかった。
これが大金持ちかとネイトは慄いた。




