33 廃墟と美少女
その日、ネイトは街の中を歩いていた。
「アリスよ」
ネイトに少女が名乗った。
「ああ」
「何かないの!?」
「俺は前に名乗ったぞ?」
「知ってるわよ!ネイトでしょ?」
「知ってるじゃないか」
ネイトは先を急ぐ。
アリスは金髪でネイトも金髪の為、知らない人からは兄妹に見えるかもしれない。
「待ちなさいよ!」
実はあの大会から2日後だ。
それ以来ネイトはストーカーされている。
ようはアリスに付き纏われているのだ。
領主邸にて
「なんだ?またお前も来たのか?」
ジャックがため息混じりに告げた。
「お前じゃないアリスよ!」
「うるさい。喋りに来たなら帰れ。鍛錬の邪魔だ」
ネイトは面倒くさく粗雑に扱う。
「黙って見てるならいいの?」
ネイトはジャックを見る。
「いいんじゃねぇの?邪魔しなけりゃ」
「邪魔はしないわ!」
「わかった。喋ったら追い出す」
ネイトはそう言うと素振りを始める。
ジャックもそれを手本に素振りを始めた。
アリスはそれを黙って見ている。
キリが良いところでネイトが号令をかける。
「よし。今日はこれまでだ」
「はい!ありがとうございました!」
そこに待ったが掛かる。
「ちょっと待ちなさいよ!!
昨日は組み打ちしてたじゃない!
アンタたち私に訓練を見させたくないならそういいなさいよ!!」
「黙れと言ったが?」
ネイトはアリスを見てから最後にジャックを見る
『説明するのか?』と
「あれは週一だけだ。これから実戦の鍛錬に行く」
説明するのかとため息を漏らすネイト。
「何よそれ!?私も行くわよ!!」
「黙っているなら勝手にしろ」
面倒くさいネイトはそう言うと準備を済ませてジャックを伴いギルドを目指す。
道中
「師匠。着いてきてるけどどうすんだ?」
「どうもしない。見るのは許可したが他は知らん」
もはや面倒な事は見て見ぬ振りをするネイトに
「あいつも強くなりたいだけだし一緒に教えてくれないか?」
「ん?…領主から許可が降りたらな」
心底めんどくさそうに答えたネイト。
「わかった!帰り道にでもあいつに聞いてみる」
「ああ」
ネイトの足取りは重くなるばかりだった。
依頼の帰り道
「それでどうする?」
ジャックの問いに
「どうするも何もするに決まってるじゃない!」
即答で答えた。
「よし!じゃあこの後親父に直談判しに行くぞ!」
「わかったわ!頼むわよ!!」
「はぁ」
同じ志を持つ二人と荷物が増えそうな一人とでは温度差が凄い。
すると獲物をジャックから奪ったネイトが
「じゃあ、今日はここまでにする。
二人で行ってこい。ギルドには俺だけで行く。
素振りはちゃんとしとけよ」
「ありがとう!行こうぜアリス!」
「待ちなさいよ!私を呼び捨てにしていいのは私より強い人だけよ!!」
騒々しい二人が去っていく。
ギルド受付にて
「あれ?カーラは休みか?」
「いえ、先程ギルドの用事で出掛けました」
「そうか」
ギルドの用事を済ませたネイトは早い時間に暇になったので街を散策することにした。
散策中にて
「この辺は来た事ないな…」
そこは街の外れで人も少なく建物は古い。
「廃墟が多いな…」
「…」
「なんか聞こえるな…」
声のする方に足を向けると
「い…や…て」
「ん?叫び声か?」
気配と声がするほうへ走るネイト。
「騒いでもこの辺は人っ子1人きやしねぇよ!」
「早くヤろうぜ」
「俺が先だぞ!」
「いや…やめて…」
そこにはあの3人組の冒険者とカーラの姿があった。
「お前が俺たちの事を誘惑したんじゃねぇか!」
「そうだ!散々焦らしやがって!!」
「焦らした挙句こっちの誘いには乗らなかったくせに!こうなりたかったんだろ?」
「やめて…乱暴しないで…」
もはや恐怖とこの後何をされるのか想像してしまう事で同じ事しか喋れない。
「うるせえ!」
バシン
「きゃあ!」
「おい!顔はやめとけよ」
「そうだぞ!殴るなら腹にしとけよ!」
カーラにとって何の慰めにもならない言葉しか聞こえない。
「痛い…やめて…誰か助けてぇ!!」
悲痛な叫びが響いただけだった。