3 楽園と禁断の果実
声が聞こえなくなっても、暫くその場で声がもう一度聞こえるかもと待っていたが何も起きないので、ジョンは当てはないが歩く事にした。
「ここは天国って奴なのか?」
歩きながらこれまでの事を考えていたジョンはこの不思議な世界を天国かもしくはそれに近いものだと考えた。
「地獄なら生ぬるいもんな」
さらに休む事なく歩き続けるとちらほらと人らしき影を視界に捉え出した。
「人がいる…話しを聞いてみようかな…」
これまでの人生と今の状況がおかし過ぎて、ジョンは疑心暗鬼になっていて人に話しかける事が出来ないでいた。
「さっきの声が良い人しかいないって言っていたんだ!頑張れジョン!」
気持ちを奮い立たせて、他の人が確認できてからおよそ3時間に及ぶ葛藤を終わらせた。
「すまない。聞きたいのだがいいか?」
「ん?何かな?」
優しい笑みを浮かべた老人が答えた。
「変なことを聞くけどここは天国か?
もし違うなら忘れてくれ…」
ジョンは意を決したが
「ああ!君は新人さんか!
そうだとも楽園という天国だとも!
最初は皆さん戸惑うがここは良いところだから安心しなさい」
老人は優しく、それでいて嬉しそうに答えてくれた。
「!!…わかった。ありがとう」
ジョンが安堵したところに
「それと注意事項だが、ここで故意に物を壊したり
暴力を振るったりしてはいけないよ。
この世界から、楽園から追放されてしまう。
最近では見ないが250年程前に追放された者がいた。
急に消えてしまった」
「…」
中々理解が及ばないがなんとか老人の言葉を飲み込む。
「ありがとう。また会ったらよろしく頼む」
そう老人に伝えると深々とお辞儀をしてその場を後にする。
「来てしまったものは仕方ない。ここで暮らすか」
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3年後
「ありがとうございました!」
「うむ!ジョン殿は十分努力されとる!」
身体が痛くないことで、現世でやりたかった剣術を、ここにいた500年前に剣聖と呼ばれていた人に習っていた。
「ジョンさん次はこちらですよ」
柔らかい声に振り向けば
「よろしくお願いします!」
こちらは800年前に魔女と呼ばれていた、魔法使いの老女にも魔法を教わっていた。
魔法にはそれ程興味は無かったが、時間もあった事だし
「あの人だけずるいわ!私も教えたいの!」
と言われてはジョンは断る術を持たない。
ちなみに2人に聞いたところ、暴力ではなく鍛錬や修練であれば剣術も問題なく、破壊でなければ魔法も問題ではないらしい。
さらに2年の時が流れ
「そう言えばここにきて空腹も感じないから何も食べていないが、前世では腹一杯たべるのが夢だったな…」
ふと気付く
「ここ楽園なら、迷惑にならない事ならしたい事をすれば良いってみんな言っていたな。
それで剣術や魔法を習ってたんだし…
食い物探して食べよう!腹一杯な!」
そう決意したジョンは、二人に目的を告げて歩き出した。
歩き続けることひと月
「こう疲れもしないし眠くもないと、動き続けられるのはいいが見つからないな…」
さらにひと月後
「ここは…」
ジョンがいたのは最初にあの声が聞こえた場所だった。
「あれは!?」
木が見えるがただの木ではない。
真っ赤で大きな果実を実らせた木だ。
「あれは美味そうだな!あれを食べてみよう!」
木に登ることもなく腰の剣を一閃。
「遠当ての剣技がこんなところで役に立つとは…」
落ちて来た実を空中で掴みじっくり見る。
「真っ赤だな。ツヤもあるし美味そうな匂いもしている」
戸惑いはなかった。
シャキシャキ
シャキシャキ
シャキシャキ
ゴクリ
「美味い!これならいくらでも食べたい!」
そう意気込んだジョンだが
久しぶりにあの声を聞いた。