25 弟子の過去
ネイトの指導が終わった頃、領主がジャックに告げる。
「ジャック、今日は晩餐会があるから汗を流してきなさい」
「何でだよ!師匠を見送るのは弟子の勤めだぞ!」
父の言葉に反発したジャックだが
「いや、ジャック。俺の事は良いから汗を流してこい。
明日は朝に素振りをしたら冒険者ギルドに連れていくからな!」
師匠の言葉には反発などない。
「!!わかりました!師匠ありがとうございました!お気をつけて!」
ペコリとお辞儀したら走って屋敷へと入っていったジャックだった。
それを見送る二人。始めに口を開いたのは
「それで、お話しは何でしょうか?」
ネイトがこのような場を作った理由を聞いた。
「そんなに畏まらなくて良い。伝えたい事があっただけだ」
「はい」
「ジャックは私の4人目の子供だ。一番上の長男はすでに政務をこなしており、二番目の娘は別の貴族に嫁いでいる」
言い淀む領主
「…3人目の。ジャックの兄は8年前に死んだ。
その時、俺は政務に追われていてロクに次男の相手をしてやれなかった。
病だった。
もっとちゃんと見てやれてたら助けられたかもしれないと今でも悔やんでいる。
元々、妻はジャックを産んだ時に身体を壊して亡くなっていてジャックは親の愛情を知らない。
そして、ジャックは兄が死んだのは私のせいだと今も思っている。
私もそう思う。
そんなジャックだから誰も信じれず周りに強く当たり孤独になってしまった。
なまじ才能があり強かったのもそれに拍車を掛けた」
領主の話しを真剣に聞いているネイトだが、ネイトも家族の愛情には疎いので領主が何を言いたいのかまだわからない。
「そこにネイトが現れた。歳も一つしか変わらないが自立していてさらに剣の腕はジャックより遥かに高みにいる」
深呼吸した領主は
「先程から屋敷で二人を見ていたがあんなに真剣でそして笑顔を見せるジャックは次男が死んでから初めて見た。
初めはジャックを導く教導者を求めて依頼したがあれを見て変わった」
言葉を区切った領主は改めてネイトを力強く見つめると
「これからも師弟関係は変わらないかもしれないが、良き友としても宜しく頼みます」
領主が深々と頭を下げた。
「ま、待ってください!頭を上げて下さい!」
テンパったネイトは力づくで領主の頭を上げさせる。
「はははっ!そんなに強く掴まないでくれ」
笑いながら領主はいった
「すみません…。そうですね。自分にも友人は少ないのでこちらからお願いしたいくらいですね。
しかし、友人は誰かに与えてもらうものではないと考えます」
「はははっ!確かにな!過保護が過ぎたようだ!
これからもジャックを頼む!」
そう言って領主は屋敷へと帰っていった。
(自分が知らなかっただけで色んな人がいて色んな関係があるんだな)
自分の知らない人達の営みを感じて色々な考えを飲み込んで行くネイトは帰路につく。
宿にて
「へぇ。そんな事があって、曲がった子になったのね」
「曲がったって…まぁ、人当たりが悪いのは間違いないな」
ケイトの辛辣さにネイトは言葉を柔らかくした。
「私はどんな理由があってもそんな子守は無理だわ」
あんまりな言いように苦笑いになるネイトだった。
「そっちはさらに、順調みたいだな」
「そうなの!この調子だと後5日くらいで完売間違いないわ!」
このテンションの上がりようを見てネイトは
(旅人じゃなく行商の方が向いてるんじゃないか?)
と思うのであった。
話しが進み明日の話しになったところでケイトが
「じゃあ、明日は別の依頼も受けるのね?」
その問いに
「そう言う事だな。多分討伐系の依頼になると思う」
ネイトの答えを聞いたケイトは
「あぁ。それならその子に変な勘違いさせないようにしなさいよ?」
「ん?どう言う事だ?」
理由が分からず聞き返すネイトに
「簡単に言うと貴方の狩りはずるいのよ。
普通はあんなに簡単に獲物を見つけられないし
もっと警戒して時間が掛かるものなのよ」
答えを聞いたネイトは
「気配察知か…俺も気付いたら出来る様になってたからジャックにどうやって教えるか…」
もはや話しが変わっている。
「はぁ。貴方も立派な先生ね」
「ん?なんでだ?」
自分が何を優先しているのか理解出来ていないネイトには何も言えないケイトだった。