24 教育の賜物
翌朝、顔を洗ったネイトは何気なく鏡を見た。
「こんな曇りのない鏡なんて初めてみたな…」
驚愕した顔が鏡に映る。
「えぇ!俺って金髪だったのか!?」
以前水の反射でみた時は反射のせいだと思っていた。
「しかもあの時歪んだ水鏡で見た時より男前だな…」
ジョンの時から自分の見た目に興味がなく初めて知るのであった。
「ジョンの時は元々見た目に頓着無かったことと、度重なる不摂生や労働で汚れても気にしなかったから気付いたら燻んだ茶髪?だったもんな…
元々はこんなに綺麗な色だったのか…自分で言うのもなんだけど…
そもそも誰も髪については言ってくれなかったし…こんなに綺麗な金髪なのにその程度なのか…」
驚いたり喜んだり落ち込んだり、朝から忙しいネイトだった。
そもそも全体の見た目がいい為、髪をとりわけ褒める人がいなかったのだ。
ジョンの時は頓着がなかったと言うより、気にする余裕がなかったのだ。
食堂にて
「なぁ。俺の髪って綺麗か?」
「は?朝から何をいってるのよ?昨日の事で精神的にやられちゃったの?」
辛辣な言葉がネイトを襲う。
「いや…それは無いと思う」
苦笑いをしながら返したネイトに
「確かにネイトの金髪はサラサラで綺麗よ。
でもね。普通は女性の髪を褒めるものよ!」
たしかにケイトの髪は、長くサラサラで綺麗な髪に朱みが挿した茶髪だ。
「綺麗な髪だよ…」
「褒めるのヘタクソね…」
「…悪い…」
二人の間にかつて無い微妙な空気が押し寄せる。
居た堪れなくなったケイトが
「今日からでしょ?頑張りなさいよ」
ネイトを激励した。
「ケイトもな!沢山売れよ!」
「大店だから私が頑張らなくても勝手に売れるわ」
ネイトの激励は空回りした。
「そんなもんか」
「じゃあ、また夕食でね」
二人はそれぞれの職場へ行く。
領主邸にて
「おはようございます!」
「おはよう」
元気に挨拶したのはもちろんジャックだ。
ここは昨日試験をした領主邸の中庭だ。
「今日から教えるがまずは素振りからだ。
本当は走り込みや身体作りが最初だがジャックはすでに剣が振れる身体だからな」
昨日の試験である程度状態を把握したネイトは指示を出した。
「はい!」
「まずは自分なりの素振りをして見ろ」
「はい!」
壊れたレコードみたいに同じ言葉しか言わない優れた弟子だ。
昨日の教育(体罰ともいう)が効いたようだ。
壊れたレコードが素振りを始めたら
「わかった。やめていい。
次は俺の素振りを見るんだ」
そう言って腰の剣を抜き素振りを始める。
「す、凄い…全くぶれてなく全ての素振りが同じだ…」
素振りをやめたネイトは
「一目見ただけでそこまでわかるのか…
教えがいは無さそうだな。
俺の動きを真似てしてみろ」
優れた弟子の動きを見たネイトは、以前の自分と比べてしまい、舌を巻く。それからは二人は素振りを続けた。
昼前
「一通りの素振りを教えたがどうだ?」
優秀な弟子に感想を求めた。
「はい!師匠の教えに従えば素早く、強い剣が振れているのが分かります!」
「持ち上げても何も出ないが、そこまで違いがわかるのは凄いな。
俺は最初の頃は全然わからなかったからな」
剣を間近で初めて見たのが、剣聖の素振りだったネイトにはわかるはずもない。
逆に言えば何にも染まっていなかったからネイトは剣聖の動きを素直に吸収出来た。
「そろそろ昼か…休憩にしよう」
「はい!」
ネイトの提案に壊れたレコードが答える。
「昼はあまり食べずに水分を補給して、午後の為にしっかり休めよ」
ネイトの言葉に
「師匠はどうするんですか?」
疑問を呈する。
「俺は…そうだな。そこの木陰で休ませてもらおう」
ネイトは庭にある大木の根元を視線で指す。
「そんなとこではダメです!
師匠!ついてきてください!」
そう言われて着いたのは
「ここは…」
「はい!俺の部屋です!すぐに軽食と飲み物を用意させるので師匠はそこのソファに座って待っていて下さい!」
ジャックは出て行ったがネイトはキョロキョロしている。
「俺の泊まってる宿も良い宿の筈だが…
ここはベッドから何から何まで宿の何倍も凄い…」
ネイトは休めるのか?と疑問に思いながら深くソファに沈む。
暫く後
「師匠!お待たせしました!一緒に食べましょう!」
元気なジャックは嬉しそうにネイトの向かいに座り軽食を一緒に摘む事に。
朝と同じ稽古場所にて
「今日はこれくらいにしよう」
「はい!ありがとうございました!」
夕刻稽古を終えて雑談をしている二人がいた。
「ではあの宿に泊まってるんですね!
いいなぁ。俺もいつか旅に出たいなぁ」
ネイトの事を聞いたジャックは感想を漏らした。
その感想にネイトは
「ただの根無草だ。色々な景色、見たことのないものも見えるかもしれないがな」
「冒険者ってどんなことするんですか?」
ジャックの疑問に
「気になるなら今度連れていってやるよ。
領主様の許可が降りたらだが」
口で説明するのが難しい事なのでネイトは見させる事にした。
楽しく話している同世代の元へ何者かがきた。
「私の話しか?」
「親父!邪魔すんなよ!」
口の悪いジャックに
「おい!ジャックの為に、俺を雇ってくれた領主様に対して口が過ぎるぞ!」
たまにはまともな事を言うネイトだが親子関係については無知だ。
「ありがとうネイト。ジャックとはこんな会話だから気にしなくて良いぞ」
「領主様がそう言われるのであれば」
ネイトは聞き分けがいい。
「ところで何を話していた?私の許可が、とか聞こえたが…」
それに答えたのはネイトだった。
「はい。ジャックを冒険者の狩りに同行させようかと思いまして、その許可を領主様にと」
ネイトの提案を聞いた領主は
「ネイトの腕は信用している。余程危険が無ければ構わないぞ」
全幅の信頼にネイトは
「では、そのようにします」
礼をとった。
「ありがとう!これで師匠の実践がみえるぞ!」
喜ぶジャックを見つめる領主の目には何が映っているのか。




