2 ジョンの死
森に向かう中ジョンは考えていた。
(俺が若かったら、身体を壊していなければこんな惨めな思いをしなくて済んだのかもな…)
ジョンの目的である薬草は森の奥の方にある。
戦う術を持たないジョンは当たりを警戒しながら森を行く。
(よし。今日も上手くかわせているな)
何も魔物の攻撃を躱しているわけではない。
魔物の気配を感じればそこから道を変えているだけだ。
しかしこれがジョンが二年間生き延びてきた唯一の武器だ。
先天的なものなのか過酷な人生の賜物なのかはジョン自身にもわからない。
だがこの気配察知の技術の高さは熟練の狩人を超えるものだった。
昼前、森の奥にジョンの姿があった。
(ここの群生地で採取するか)
ここにくるまでにいくつかの薬草の群生地を見つけたが、どこもまだまだ採取するには若すぎたり日が当たらなくて上手く育っていなかったりしていた。
無言で周りを警戒しながら黙々と作業を進めていく。
(粗方取り終わったな)
手持ちの籠を一杯にしたジョンは、少し休んでから帰ろうと考えていた。
ジョンが腰を上げようとした時、気配察知が反応した。
(何か来る。それも一つではなく複数の気配だ)
「こっちに逃げるぞ!」
「わかった!」「うん」「はい!」
ジョンの視界に入ったのはこちらへ走ってくる冒険者たちの姿だった。
(あいつらは昨日の…)
ジョンは昨日のギルドであったことを思い出した。
それも良い話しでは無い。
昨日も変わらず薬草取りを終えたジョンがギルドに行くとそこで馬鹿にされたのだ。
『おっさん!薬草とりしかしないなら冒険者辞めろよ!お前みたいな奴のせいで俺たちまでバカにされるんだよ!』
ジョンとしてはただ生きていく為に必要な事をしているだけであったが、実際耳の痛い話しでもあった。
(こっちに向かっているが…あれは…)
冒険者の後ろから魔物が追いかけて来ていた。
それもこの辺りでは圧倒的に強い猪タイプの魔物である。
「おい!あのおっさんに擦りつけるぞ!」
不穏な言葉がジョンの思考を支配する。
(あんなのに来られたらどうしようもないぞ!!)
ジョンは逃げ出した。
「お前はここでアイツの餌になって時間稼ぎしてろ!」
そう言って四人の少年の冒険者たちがジョンを追い越していく。
「くそっ」
ジョンも走るが鉱山の仕事で膝と腰を壊していたジョンは速く、長くは走れなかった。
『ブモォッ!』
「ぐあっ」
猪の魔物の突進を受けて10メートルは吹き飛ばされたジョン。
「く、くそっ」
悪態はつけるが…
腕は本来あり得ない方へ曲がり腰が折れたのか下半身の感覚がない
『ブモォッ!』
魔物が再度ジョンへ向かってくる。
それがジョンの最後に見た光景だった。
「うっ…!?魔物は!?」
飛び起きたジョンが目にしたのは
「何処だここは?というかあの怪我は?」
身体の痛みもなく
空腹も感じない
それどころか全ての苦しみから解放された様な
「腰の痛みも感じないのはいいが…ここは…」
『ようこそ人の子よ』
声が響いた
「誰だっ!?」
先程の事で疑心暗鬼になっているジョンは辺りを警戒した。
『私はここを管理している者。ジョン。貴方は死にました。
そしてここ楽園へと来たのです』
周囲には誰もいない。
「何の事…あれは夢じゃなかったのか…」
誰もいないのに声だけが聞こえる不可思議な状態も加わり、
ジョンは自分の死を受け入れた。
『物分かりが良くて助かります。
普通の人の子は中々時間がかかりますが貴方は違う様ですね』
「あんたは誰で、どこにいる?」
辺りをキョロキョロと探すがジョンの目には誰も映らない。
『それは申し上げれません。私はここへ来たものに説明するだけのもの。それだけです。
ここ楽園は生前の行いが清らかだった者しか来る事は叶いません。
貴方が来れたのは生前の行いのお陰です。
ここでは苦しみも痛みも空腹も有りません。
あるのは綺麗な物と心が綺麗な者のみ。
それでは説明は終わりです』
「待ってくれ!理解できないんだが!」
もはや誰も何も答えてはくれなかった。