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17 受付嬢の葛藤、名前はまだ無い







門番が異変に気付いて町長に報告に行って、ギルドマスターが話しを聞いて職員と冒険者に指示を出していた頃、ネイトは爆睡していた。


「女将さん…もう食べれないよ…」


ネイトは幸せな夢を見ているがそこに


ドタドタ

ガチャガチャ


「ふえっ!?なに!?泥棒!?」


寝起きでパニックになった。


ドンドン!


「ネイトさん!!私です!!開けてください!!」


ここにいるはずのない受付嬢の声が聞こえた。


(なんだろう?…まさかこれが夜這い?)


全然的外れな予想だった。


「どうしたの?」


ガチャ


鍵を開け、扉を開けながら聞いた。


「大変なんです!魔物の大群がこの町に押し寄せて来ます!」


息を切らしながら頬を紅潮させてネイトに伝えた。


「大変な事が起こってるのはわかったよ。

俺はどうすればいい?」


受付嬢のただならぬ気配に、ネイトはすぐ様意識を覚醒させて答えた。


「門前に冒険者が集まっています!

そこにギルドマスターもおられるので指示を仰いで下さい!」


「わかった。とりあえず君はこれを飲んで落ち着いて。

俺は出る準備してるから」


そう言って水が入った器を渡す。




「よし!準備出来た!俺は急ぐから君はゆっくり来たらいい」


ネイトは宿を飛び出した。


「名前…まだ覚えてくれてないんだ…」


こんな時だからこそ、そんな想いが浮き上がる。







ネイトはすぐに門前に到着した。


「来たか!」


ギルドマスターが確認する。


「うん。何か物々しくなってるね」


ネイトの軽い挨拶に


「近くで魔物の氾濫スタンピードが起きた。

丁度門の方角で起きたからこちらを全力で死守する。

ここが破られたら町は無くなる」


「そんな事が…」


ネイトは事の重大さに言葉を失う。


「規模は…数はどれくらいでどんな魔物がいるんだ?」


言葉使いがジョンの精神に引っ張られる。


「種類はネイトがこの町で狩っていた奴らだろう。

数は…逃げた村人の情報だからあまり当てには出来ないが、目測で目の前の景色が魔物で覆い尽くされていたと言っていたから1000は超えていると思う。

何故か魔物の氾濫は500体以上の集団行動になるからな」


「…わかった」


何かを考え込んだネイトは返事を絞り出した。


「なんだ?早まった事をするなよ?

この町の命運はネイトに掛かっているんだからな!」


ギルドマスターの言葉に引っかかりを覚えたネイトは疑問を呈する。


「どういう事だ?」


「この町で一番強い冒険者は間違いなくネイトだからだ」


「!」


「だから早まって早々に倒れられたら困るんだ」


それを聞いたネイトは


「…話がある…」


覚悟を決めたネイトがギルドマスターに打診した。


そこに別の冒険者が


「ちょっと待てよ!そんなガキに構ってるなんてガインさんはおかしくなったんじゃないか!?」


「そうだ!俺たちの方が強いのに何言ってんだ?!」


外野が騒がしくなったところで


「静かにしろ!!」


ギルドマスターが一喝した。


「こいつはこの町で最高ランクのCランクだ!

それもハンデを課して昇級試験を突破したんだ!

黙って俺を信じてくれ!

文句があれば終わってからいくらでも言ってくれていい!」


辺りが静まり返った。


「ガインさん。俺は魔法が使える。

周りの被害を気にしなくていいなら辺り一面の魔物達を消し炭に変えるくらいは出来る。

もちろんこの辺の魔物のレベルなら、だがな」


「う、嘘だっ!そんな事ができる奴なんていねぇよ!」


ポツポツとそんな声が上がるがガインがそれを制する。


「黙れ!お前達の命の責任は俺が背負う!

こいつが嘘を言っていたら俺の命をやる!

だから今だけ俺についてこい!」


ガインにはネイトの言っている事が嘘か本当かはもはや関係ない。出来る対策が少なく、それほど追い詰められていた。そしてガインの悲壮な感情を殺した、熱い想いが周囲に伝播していく。

静かにそしてそれは大きな唸りとなる。


「ぉぉおおォォォオオおおおお!!」


冒険者の覚悟が一つになった。


「ネイト、やってくれ!後の事は俺たちがどうとでもする!」


ネイトという藁に縋ったギルドマスターは、覚悟を決めて『藁』に頼った。


「わかった。大規模魔法だから発動に時間がかかる。

俺は見晴らしのいい門の上から魔法を発動させる。

発動までの時間はそちらで何とかしてくれ」


ネイトの言葉に自分たちにとって一番重要な事を聞く。


「…どれくらいの時間だ?」


「300を数えるくらいだ」


「そうか。それまで時間を稼いで発動直前に離脱すればいいのか?」


ついで、皆の安全と対策を聞く。


「…いやなるべくど真ん中に魔法を放ちたいが

帰還したら町中に少数でも魔物が入ってしまう。

かと言って冒険者を死なせたくないから少し遠くに魔法を放つ。

その後は個々で生き残った魔物を狩るしかないな」


当然の疑問をギルドマスターは投げ掛ける。


「…それは外の冒険者は大丈夫なのか?」


ネイトはその疑問に躊躇なく答える。


「確証はない。威力は知っているがどこまでの範囲が死なないかなんて試した事はないからな」


「…そうか。

聞いていたかお前たち!!

俺について来れる者達だけで構わないからついてこい!!」


冒険者は皆、声を張り上げた。


「じゃあ任せた」


「ネイトこそ頼むぞ!」


「ああ。作戦を知らない衛兵は邪魔だからどうにかしてくれ」


ネイトが唯一の懸念を伝えた。


「任された。武運を」


「そっちこそな」


お互い一つ頷くだけで別れた。







ガインは町長に作戦の内容を伝えるが、町長は顔を強張らせて告げる。


「そ、そんな事は認められないぞ」


「町長。失敗しても衛兵にも町にも被害はない。

最初に少し俺たちに時間をくれるだけでいいんだ」


その言葉に考え込む町長。


「わかった…言ったら聞かないからな。ガインは」


「ありがとよ。無事に解決したらギルドの宴会の費用は町長に請求するからよ」


こんな時にも冗談を言うガインに頼もしさを感じた。


「はぁ。わかった。死ぬなよ」


「お互いな」





始まりの町ユーゴスにて決戦の火蓋が切って落とされた。

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