16 急報
あれから全ての依頼をこなして二人は町に帰ってきた。
「へぇーこの町ってユーゴスって名前だったんだ」
「お前…自分のいる町の名前も知らなかったのか…」
呆れ顔なギルドマスターとケイト。
「とにかく!予定より早かったが依頼達成だ。
ネイトならそんな気もしていたから報酬もすでに用意している」
褒めているのかどうなのか分からない発言だった。
「私も予定より早く帰れたから言うことなしだわ」
みんな早くばかり強調していて、せっかちだなぁと思うネイトであった。
「ネイトのお陰で割りのいい仕事だったわ。
これで次の旅に出る目処も立ったわね」
ケイトの言葉を聞いたネイトは
「あれ?ケイトはこの町を出ちゃうんだ?」
「そうね。この町は過ごしやすいけど、私の趣味であり夢は世界中を旅する事だもの」
若く、綺麗なケイトが何故旅をしているのか、理由が垣間見えたネイトは
「壮大な夢だなぁ」
「何年寄りみたいな事を言ってるのよ。夢は大きい方がいいに決まってるじゃないの。
ネイトはないの?」
ケイトの疑問に
「俺は…とりあえずの目標はSランクだね」
「そっちの方がとんでもないじゃないのよ。Sランクは国に一人くらいしかいないのよ!」
「そうなんだ…」
自分がとんでもない目標を掲げている事に、初めて気付いた瞬間だった。
ギルド前
「それじゃあこれで解散ね。
多分10日もしないうちに町を出るわ!
それまでに一度くらい町の料理屋でご飯でも食べましょう」
「うん!またね!」
その約束は果たされる事はなかった。
宿に帰ってきたネイトは元気に挨拶をする。
「ただいま!」
「おかえり!ネイト君!
怪我はないかい!?」
真っ先にネイトの身体に異常がないか確認する女将と
「大丈夫だよ!それより何もなかったかな?」
お互いがお互いの事を心配している。
ネイトが記憶にも知識にもない、『本当の』家族のようだ。
宿の食事ではネイトが無事に帰ってきた事が嬉しかった女将が張り切り過ぎて、大量の食事を振る舞った。
「ふぅ。女将さんが張り切るからお腹一杯で動けないや」
自室のベッドに横たわり悪態を吐くが心では感謝している。
次第に眠くなり、そのまま寝落ちしてしまった。
夜の帳も降りて暫くたって町を静寂が支配した頃
異変は言葉になり広がっていった。
少し前、宿直の門番
「今日はヤケに静かだな」
そこに騒動がやってくる。
「なんだあれは…?」
遠くに松明みたいな灯りが見えた。
それも尋常じゃない数だ。
「急いで報告しないと!」
慌てた門番は持ち場を離れた。
ところ変わってギルドマスター室
「ふぅ。漸くネイトの依頼達成の書類がおわったな」
「どうして私まで…」
ギルドマスターの呟きにさらに小さい声で応える受付嬢。
そこに急報がもたらされる。
ドタドタ
ガチャ
バンッ
「なんだ夜中に騒々しい!」
「大変です!門番からの報告でこの町に魔物の大群が迫っているとのことです!」
宿直のギルド職員がもたらした報せにギルドマスターが声を荒げる。
「なに!?それは本当か!?」
「はい!門番の報せによると、近くの村の住人達が魔物の大群が村に押し寄せて来てこの町に逃げて来たとのことです!」
ギルドマスターは確認の後、呟いた。
「魔物の氾濫か…」
「はい…どうしますか?」
その疑問に情報を頭の中で整理したギルドマスターは指示を出す。
「ここで喋っていても仕方ない。
町長は衛兵をかき集めて指揮を執るだろう。
我々も冒険者をかき集めて対策をとるぞ!」
「はい!」
「二人は冒険者と職員全員をかき集めるんだ!
集合場所は門前だ!
走れ!」
「「はい!」」
二人がギルドマスター室を飛び出した。
果たしてユーゴスの町はこの危機を乗り越えられるのか。
そしてネイトはどう動くのか。
まだ誰も知らない。




