1 ジョンという男
ここは剣と魔法が飛び交う異なる世界。
人々は魔物と争い、田舎町は木造家屋が目立つ。文明レベルは中世ほどか。
ここからは一人の冴えない男にスポットを当てる。
朝日が差し込む事で寝ている男が目を覚ます。
「くぁー。もう朝か…さっき寝た気がするが歳かな?」
ジョン・タイラーは粗末なベッドから身体を起こした。
朝日は何も明かり取りの窓から差し込んだのではない。
隙間だらけの壁から差し込んだのだ。
そうここは粗末な小屋。
人が住んでいるとは思えない様な。
「腹が減ったな…ロクなものを食べれていないが
今日を休めばそのロクなものすら食べられないからな…」
昨日町の井戸から桶に汲んでおいた水を粗末なカップで掬い自身の喉を潤す。
「ぷはっ!水だけは腹一杯飲めるな。
たまには飯を腹一杯食いたいが…今の稼ぎだと無理だな…」
下を向くと薄汚れた中年男性の顔と燻んだ焦茶の髪が水面に映っている。
ジョンはこの世界では有名な職業として確立されている冒険者をしている。
職業としては有名だが底辺の冒険者は底辺の暮らしをしている。
一握りの成功者のみが有名で裕福な暮らしが出来る職業だ。
この日もジョンは冒険者の仕事を斡旋してくれる冒険者ギルドに仕事を貰いにいく。
ジョンの住んでいる町は人口5000人の小さな田舎町だ。魔物や野盗などから守る為に町は壁で覆われている。
町では下を向いて歩くジョン。いつも下を向いて歩いている為、不揃いの石畳から、今どの辺りを歩いているかもわかる。が、寂しい特技だ。
ジョンは元々普通の町人の両親から生まれた。だが両親は普通ではなかった。
ジョンが働ける年齢(12歳)になれば有無を言わさず商家に丁稚奉公に出させられ、町の仕事に鉱山が出来れば給金が高い為そこに放り込んだ。
それは両親が事故で死ぬまで搾取させられる人生だった。
そんな両親は2年前、鉱山にジョンの給料をもらう為、訪れようとして魔物に襲われて死んだ。
38歳まで鉱山で働かされて何も残されていないジョンは、町に戻りなけなしの金でこの小屋を譲ってもらい日銭は冒険者で稼いでいる。
この日も食べる為に冒険者ギルドへ向かうが
「うわぁ、あの人あれじゃない?」
「そうそう、たしかジョンって名前の…」
町ではジョンを汚いモノとして見る者で溢れていた
「この依頼を受けたい」
ギルドに着いたジョンは目当ての依頼書を取って空いている受付に提出した。
「はぁ。またですか?正直この手の依頼は新人の若い冒険者の方に受けていただきたいのですが…」
不服そうにジョンから依頼書を受け取ったギルドの受付嬢はジョンにそう返した。
「すまない。前にも言ったが鉱山で身体を壊してしまってロクに戦えないんだ」
ジョンは悪い事をしているわけではないが受付嬢に謝って依頼の受注を促す。
「では、辞められたらどうですか?」
「他に出来ることもないんだ」
普通なら自分の半分くらいしか生きてない人にこんな事を言われたら怒るか泣くかするだろう。
だがジョンは普通の生活を知らない。
ずっと搾取され続けてきた人生がジョンにその感情を忘れさせている。
受付嬢は渋々依頼を受注した。
受付はギルドの花形だ。他の冒険者も受付嬢を困らせているジョンを見て、次第に表情を曇らせていく。もし難癖を付けられたらジョンが悪く無くとも、ギルドにとって不要なジョンの方を処罰するだろう。
処罰とは最下層の冒険者であるジョンはクビという事になる。
依頼が受理されたのを確認したら、ジョンにとっては死活問題の揉め事を起こさない様に足早にギルドを後にする。
ジョンが受けた依頼は森の中にある薬草の採取依頼であった。
受付嬢の言った通り戦う術を知らない新人の冒険者が受ける依頼だ。
気を取り直して町を出て森に向かう。
町を出る時にも門番に訝しげに見られた。ここまでみんなにそういう視線を向けられるとジョンも何か悪いことやおかしな事をしているのでは?と考えてしまう。
しかし生きる為にはできる事をしなくてはと思い返して森へ急ぐ。
この後起こることを何も知らずに
2作目始めました。
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拙い小説ではありますが、よろしくお願いします。