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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
9/20

(09)白黒魔法(初歩)


 食事を終え、夜着に着替え定期連絡をする。これが カイムの日課、いつものパターンである。この日は スライムの事を話した。


 『……そうなんですか。何で種類が変わったんでしょうね』

 『石を食べてるスライムの食性が、突然 肉食に変わるって、何かがあったんだろうけど、その辺が さっぱりだ』

 『……ひょっとしたら』

 『何か 心当たりがあるの』

 『ふむ。思い付きですが、数ではないかと』

 『一定数以上になると 別のタイプになると』

 『数が、とっても多いのでしょう』

 『確かに そうだね。ふむ、あり得る。じゃ、次には どんなのが出来るんだろう。ちょっと楽しみだ』

 『どういう意味でしょうか』

 『今は 3色共、ほぼ同じ数なんだ。だからさ』

 『次の色が生まれる可能性が高いと』

 『可能性だけなんだけどね。義父とおさんの「感」が、正しければ』

 ――この人って、こんな場合の『感』は 良く当たるんだよな。

 『じゃ、お休み』

 『おやすみなさい』


 ■■■


 「何だ これは」

 そこには 鳥が大量虐殺され、その遺骸が放置されていた。


 まだ森の入口から 少し奥まった場所、雑木の森だ。カイムが 薬草を採取しながら進んでいると、積み上げられた倒木の奥に 空白地帯が突然現れた。

 その中心部が爆心地なのだろう。円周状に樹木が薙ぎ倒され、外縁に積み重なっている。そこに巣があったのであろう鳥の死骸が、あちこちの 倒れた樹木の隅に集まっている。

 ――もし これがヒトの行為だったらなら、絶対に許さない。


 これは 間違いなく、生態系に悪影響を及ぼす行為だ。当然だが、重大な犯罪行為だ。

 しかし 死骸から魔石を抜いていない事を鑑みると、ヒトが行った可能性は低いかも知れない。

 カイムが図鑑で調べると、それは皆 同じ種類で、『花梟はなふくろう』と呼ばれる小さな魔物だった。


 徐々に 紫色スライムが集まって来て、その死体を食べ始めた。

 『おい、ま……』


 止めようかと思ったカイムだが、傍観する事にした。このまま 放置する方が、余程 環境に悪く危険だからだ。


 スライムが食事を終え 居なくなった後には、大量の魔石と 花梟が数頭が残っている。

 「何だ……、生きているのか」

 診ると、重傷だが 8頭生きている。


 ――普通の治癒や回復魔法では、魔物には効果が無い。あれを使ってみるか。『先に読め』に記述してあった、白魔法の初歩を。


 「えっと、…………」

 本を開いて、その手順通りに施術していく。


 ――傷は完全に治ったようだが、まだ動きが鈍い。『先に読め』にある『初歩』じゃ、完治までは無理というわけか。


 取敢えず 従魔にして、収納に入れて休ませておく事にした。それよりも大事がある。

 カイムは、白魔法が魔物に有効な事を知った。多分、黒魔法も同じだろう。

 従魔を持つ者にとって、これは重要な事だ。

 今迄の常識では 魔物の怪我や病気を治療するのには、特殊な薬剤しか効果が無かったからである。


 その時 カイムの頭に、実父の言葉がよぎる『自身の持つ能力は、なるべく隠しておけ……』。

 「そうだったな。これは安易には発表すべきじゃない。それに これは、サテン語圏では一般的なモノかも知れない。

 まずは あの本を読破してからじゃないと意味が無い。後の事は 読了後に考えよう」


 しかし、別の興味が カイムの胸に浮かぶ。

 ――この魔法、人間にも効くのだろうか。


 採取した花梟の魔石は小さい(ゴブリンのモノと大差ない)が、非常に高品質だった。全てを収納に仕舞っておく。


 瞬間、カイムは 魔法の発動兆候を感じ取った。かなり大規模なモノだ。

 風魔法で 10メートルほど空中に浮いて、方向を確認する。

 「あっちか」

 その方向に移動すると1人のヒトが見えた。まさしく、そこが起点になっている。

 魔法を放とうとしている方向には 大した魔物はいない。小物ばかりだが、それでも数が多い。

 「こいつか」

 女性冒険者である

 カイムに怒りが噴き上がる。


 これは 彼のトラウマ。元凶は母親だが、いては 女性全般への嫌悪と憎悪が燻っていた。


 女性冒険者が魔法を発動する前に、速度を重視した『火球』をぶつけた。

 魔法発動に集中していた冒険者が それに気付いて振り向いた瞬間、火と水の魔力が衝突して爆発した。

 小規模な水蒸気爆発である。

 冒険者は 5メートル以上は吹き飛んで、転がり、そのまま 起き上がって来ない。

 「ちっ。何やってるんだ。このバカは」

 カイムは転がっている犯罪者を、魔力を込めて 力強く蹴とばした。

 「気絶したフリをしても無駄だ。さっさと起きろ」


 ソレは 更に2メートルほど飛ばされて、それでも フラリと立ち上がり、抗議する。

 「お前、それが 女性に対する態度か」

 カイムは一向に動じない。

 「俺は『男女平等主義者』なんだよ。お前こそ 何やってんだ」

 「ま、魔物を退治しててる」

 絶対、嘘だ。

 「……」

 「何で魔物を庇う」

 抗議の積りらしい。

 「庇う、だと。何も知らないのか バカめ。

 魔物も生物、生態系の1部だ。無茶な狩り、いや狩りじゃないな、これは『虐殺』だ。

 これは 該当者の殺害が、即刻 許されるほどの、重大な犯罪だ。

 もし、この儘 続ける気なら、今すぐ、この場で、俺が、お前を殺す」

 「……」

 「俺に 出来ないと思ってるなら、掛かって来い、お前の頭など一瞬で斬り飛ばしてやる」

 「くっ」


 「ふん」

 足元に転がっている冒険者は、まだ生きている。ワザと生かしているのだ。

 防具は千切れ飛び、衣類も残骸となって殆ど残っていない。半裸、いや もう全裸に近い。その全身は 浅くはない刀傷だらけになっている。致命傷こそ無いが、呼吸が荒い。

 そして その首には奴隷環が装着されている。

 

 カイムの持っている奴隷環は、正式なモノだ。

 アインスの養子になり あらゆる商業の勉強をした。その際、当然ながら 義父の働いている店の詳細も学ぶ。カイムは『奴隷商』については、一般人より遥かに多くを知っている。

 当然、『奴隷環』の使用法も、その意味も学んでいる。ソレについての勉学が済んだ時点で、その証として 環を10個貰っているのだ。勿論、自作する権利も持っている。


 血塗れだが ほぼ全裸で転がっている女性に対し、彼が思った事は、この年齢の少年には 決して相応しいモノではなかった。

 ――ほぉ。都合が良い実験材料が出来た。


 カイムは その冒険者から没収した装備品の内、収納袋から冒険者カード取出し 記載内容を確認して、破棄した。

 これも奴隷の主人が持つ権利だ。

 「ふーん、Cランクって この程度だったんだ」

 苦痛には何とか耐えていた彼女だが、屈辱に涙が浮かぶ。

 「……」


 カイムは 元冒険者だった女性に向け、名指しで命令する。

 「ダイセ。その儘じっとしてろ、動くんじゃない」

 ――この状態で 動けるわけないだろうが。


 カイムは収納から『先に読め』を出して 白魔法を発動する。


 装備品を返され 替えの衣服を着けていくダイセを、カイムは 何の感情も表さず観察している。科学者の目だ。

 ――跡が残るような傷は、……特に無いようだな。

 「今の 回復状況を説明しろ」


 目前の男性、カイムからは 性的な関心が全く感じ取れない。彼女からすれば、非常に不気味だろう。

 「状況って。治癒魔法1回なら、普通に この程度だろうが」

 「ふむ、(初歩で、治癒魔法と同程度)成程。そうか」

 ――白魔法はヒトにも効果がある。


 「お前が『虐殺』したのは、俺が見た花梟だけじゃないだろう。全部回収する、案内しろ」


 元冒険者、ダイセは 苦痛を我慢するかのようなフりをして立ち上がる。それを見たカイムは、不愉快そうに指摘する。

 「お前には 奴隷環が装着されている。その初期設置、絶対命令は『主人を害してはならない』になっている。

 バカな動きは無駄だ、さっさと案内しろ」


 虐殺現場は12箇所もあった。皆 弱小な魔物ばかりだ。時が経っていたので、生存しているモノは居なかった。

 死体を スライムに処理させながら、ダイセを詰問する。

 「何の積りだ、大型魔物による『魔物の大量発生(スタンピード)』を狙っていたとしか判断出来ないのだが。

 これで お前の奴隷環は、もう、生涯外せないな」

 その言葉に、女性冒険者の口から つい本音がこぼれ出る。

 「そ、そんな。単なる魔法の実験だったんだ」


 事の重大性を知らなかったようだが、これは犯罪だ。そして これは、超国家的は大犯罪なのである。

 罪を犯せば罰せられる、それは絶対の道理だ。

 罰の内容も ほぼ決っている。知らなかったで済ませるような問題ではない。カイムは それを実行しただけだ。


 「下らん。そんなモノ、全く酌量の余地はないな。

 ところで、どんな魔法を練習していたんだ」

 「……広範囲の水魔法だ」

 「えーっ、何だって。そんな簡単な魔法を、12回も暴発させてたのか。それに まだ、未完成みたいだし」

 「か、簡単だと」

 「それで、他に どんな魔法が使えるんだ」

 「火魔法だ」

 「その威力は」

 「広範囲は……まだ出来ない」

 何だか 哀れになって来たカイムだった。

 「まっ、まぁ。水と火か、それでも生活魔法があるから 大丈夫ってわけか」

 「……生活魔法も同じだ」

 「えっ」

 驚きで 次の言葉が出ないカイムである。

 「生活魔法も 水と火だけだ」


 「……なぁ。お前って 本当にCランクだったのか」

 呆れた顔をされて、ダイセは憤慨する。

 「私は魔法使いじゃない。剣士だ」

 「それで」

 「それでって」

 彼女は 無意識に、深ーい墓穴を掘っている。

 「俺って 冒険者じゃない。この格好かっこう通り 魔法使いだ、見習いだけどな。剣士の君って そんな俺に、剣で負けたよね」

 「……」

 元Cランク冒険者・ダイセは、恥ずかしさの余り 項垂れて黙ってしまった。


 この日 カイムは、現役の冒険者レベルが、実際の強さとは 全く関係無いモノである事を、初めて知ったのだった。



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