(08)スライム
少しの間 不機嫌だったカイムも、「まぁ、金庫が開いたんだし。良いか」と、前向きに考える事にした。
――そもそも、こいつ等 何で色が違うんだ。
今、カイムの目前には色違いのスライムが1頭づつ居る。他は放置だ。何故なら、スライムは『収納』さえも 自在に出入り出来る事が分かったからである。
従魔だし、巣は収納内にあるので あまり気にしない事にした。
『えーっと、お前たちは皆 別の種類なのか』
『〇』『〇』『〇』
『おーっ、意思疎通が出来るんだ。青色は普通のスライムだよな。紫色や緑色とは何が違うんだ』
『△』
『何だ それは。通じていないって事か』
『〇』
『じゃ、金庫に穴を明けたのは どいつだ』
『〇』を示した紫色がジャンプした。
『おぅ、お前か。どうやったんだ』
紫色が カイムの右側に置いてある金庫に近付き、何かを吹き掛けた。すると金庫側面の表面がドロリと溶け落ちたのだ。
まだ穴こそ明いていないが、溶解液を吹き出せるようだ。
『あっ、分かった。もう良いぞ』
『〇』
『で、緑色は何が出来るんだい』
『△』
『質問が分からないか。じゃ お前も何か吹き出すのか』
『〇』
『おーっ、そうか。じゃ、これに少し出してくれないか』
そう言いながら、収納袋から 比較的小さい深皿を出して、地面に置く。
『〇』そして緑色は、皿の中に薄緑色の液体を吹き出した。満杯にならないよう調整したようだ。
『ありがとう、後で調べるから、これくらいで丁度良い』
『〇』緑色がジャンプした。問題ないらしい。
すると、青色がジャンプしながら『×』を出している。
『お前も何か出すのか』
『×』
出さないようだが、ジャンプしている。何か伝えたいようだ。
『うーん。分からないな』
すると こっちへ来い、というように叢に入って行く。カイムが付いて行くと 青色スライムが、何頭かで何かを追い立てている。
『……虫か』
『〇』
『お前が これを食うのか』
『×』
元に居た場所を ジッと見ている(ような動き)。
『あっちに持って行けってか』
『〇』
『分かった』
虫だが、中には毒虫もいるので 分けて袋に入れ、さっきの2頭がいる場所に戻る。座って青色に尋ねる。
『これ 毒虫も居るんだが、分けた方が良いのかな』
『〇』
虫が逃げ出せないような大皿を2枚出して、虫を分けて入れていく。何だか青色スライムが、4頭付いて来た。体内に何か入っている。
『何だ それは』
石ころだった。
『えっ、青色は石を食べるのか』
『×』
特別な石ではない。そこらに一杯転がっているモノだ。
『何かが含まれているのか』
『〇』
『それが青色の食餌なんだな』
『〇』
『何だろう』
付近に転がっている石を拾って尋ねる。
『これにも入っているのか』
『×』
『じゃ、食べる前の石を持って来てくれないか』
別の青色スライムが 体内の石を出して、ジャンプしている。
『それなんだな』
『〇』
手に取って鑑定する。
――花崗岩。
別の青色もジャンプしている。そっちの石も鑑定する。
――こっちは片麻岩。何か共通点があったかな。
『この中の成分を食べてるのか』
『〇』
『じゃ、食べた後のを見せてくれ』
――石英が無い。
『石英、水晶が食餌なのか』
『〇』
カイムが ふと気づくと、皿にスライムが群がっている。普通の虫には紫色のが、毒虫には緑色スライムが。
――まさか。
『緑色って毒を吹くのか』
『〇』やっと分かったか。と言うようにジャンプしている。
『本来 お前達は収納内が住居なんだが、外に出て自由にしてて構わないぞ。ただ、俺が移動する時には 収納中に戻っておくようにしろよ。お前達の数までは 確認出来ないからな』
『〇』『〇』『〇』
『じゃ、解散』
スライムが夫々に散って行った。
カイムは 緑色の吐いた毒を知らべて『出血毒』と『神経毒』を確認した。テトロドトキシンやシアン化カリウム、アルカロイド系の致死毒物等が 十数種類、個別に存在していた。混ざっていないのだ。
――こいつ(緑色)、無茶苦茶 危ない奴だった。
「スライムに あんな特性があったなんて知らなかった。あ、何で色が分かれたか聞き忘れてた」
だが、それは無理な話だ。何故なら、スライムには口が無く、話せないからである。
「じゃ、金庫の中身を調べるか」
■■■
金庫の中には3冊の本が入っていた。表紙を確認する。全て、サテン語で書かれているようだ。
1冊は 薄い本だ。表紙に『先に読め』とある。
――クソ、薄いくせに生意気な。
他の2冊は、上下に分かれている 続きなのだろう。かなり分厚い。
タイトルは『白黒魔法書』とある。カイムが聞いた事の無い魔法だが、サテン語圏では一般的なのかも知れない。
カイムは『先に読め』を開いた。
「うわっ、読み辛い」
手書きの 筆記体というか、崩し字というか、そんな感じで 酷く読むのが面倒だ。何だか まるで、解読しながら読んでいるようだ。
4分の1ほど『先に読め』を読み進んだ。
「……ふぅ。要するに 白魔法は無属性、治癒・回復の強化版で、黒魔法は 酷い状態異常を起こす魔法だと。それは表裏一体なので 分けて習得する事は出来ないって事だな。
細かい説明もあるが……、って あれ、初歩の魔法発動方法が書いてある」
少し戻った部分から読み返し、改めて先に進める。興味が増したようだ。
単なる説明書の筈なのに、1日では読み終われなかった。
丸2日かけて『先に読め』を読み終わったカイムは、近くに 魔法を使えそうな相手が居ないかと、周囲を確認したが 何もいない。
「残念。まぁ、見つかった時に試してみよう」
続けて 本文、『白黒魔法書(上)』を読み始める。これは じっくり読み込む積りだ。こちらも 手書きだが、崩されておらず、活字体で丁寧に記されている。
読書に耽っていたら いつの間にか、日が暮れ始めていた。
カイムは 慌てて栞を挟んで本を閉じると、全ての本を 収納(無生物用)に収め、野営準備を始めた。
スライム達は、カイムの気付かない内に収納に戻り、巣の中で寛いでいた。
カイムの野営準備は簡単だ。
特に場所を選ばず(地盤が あまりにも緩い場所は好ましくない)、土魔法(地魔法ではない)で 半径1~2メートル、高さ5~8メートルの円柱を建て、半分から上部に括れを付けて広げる。
上部は 半径3~5メールに広げ、柱部表面を滑らかに仕上げる。
そして 天辺も平に仕上げ、収納から取出した 1辺が約3メートルの立方体を乗せる。それがテント代わりである。そこで 柱全体に結界を張る。
立方体の内部には、ベッドと机、それにキッチン等の水場がある。窓もあるし、魔法具による照明も点いている。
この『箱家』も アインスから貰った物である。