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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
7/20

(07)エイミ


 エイミ・ソーレンは、もう3箇月以上 眠り続けている。


 その間に、あの拉致事件は 一応の決着を見た。

 しかし その後、国家間 そして貴族間で大いに揉め、完全な収束には 未だ至っていない。


 最初は 次期国王の第1候補である、第2王子側に大きな失策があった。その最大の被害者がエイミ達である。

 貴族の別荘を襲い、その子女を拉致したのは 第2王子側の最大支持者である、上院の首班だった。彼の娘が王妃だったからである。

 理由は嫉妬。

 誰から見ても、第2王子は第1王子より劣っていた。

 第1王子は文武両道に秀でており、更に 魔力は、質・量共に 魔法使いに匹敵し、人柄が良いのも有名だ。そして、既に 王者の風格を備えていとの評判まである。


 第1王子関係者への襲撃には、遠国から来た側室の『血』を厭う 軍部の一部も関わっており、それについての詳細は 未だ公開されていない。

 その首班は、即刻 職を解任されて処断された。王妃に付いては 保留となっている(王は 余程でない限り、離縁出来ない)。

 だが 関与した軍部関係者に付いては明確にされていない。内々で処分されたという噂もある。

 第1王子支持派の貴族達は 大いに浮かれた。その中には 当然、ソーレン侯爵家も含まれている。


 もう 第2王子は、王位継承権争いから脱落するかと思われていた。


 ところが、拉致事件から2箇月が経った頃、またもや事件が発覚した。今度は 第2王子への暗殺計画が明らかになったのだ。

 これで エイミの婚約者であった第1王子は失脚し、彼女との婚約は、エイミの意識が戻らないまま 消滅した。


 第1王子支持者は 実施には至らなかったものの、時期的に、第2王子側より前の計画だったこと。

 毒物の製造方法が 既に確立していたこと。

 そして最大の問題は 証拠から、第1王子が 現王の血を引いていないとの疑いが浮上し、それが真実だと証明された(魔法で調査した)ことだ。

 彼は 側室だった母親と共に、母国へ強制送還されたのである。

 これで 第1王子支持派は壊滅した。


 だが後に、ソーレン侯爵を始めとする 大貴族達の『異議申し立て』により、暗殺計画に付いては証拠不十分で否定された。

 彼等は 元盟主が、現王の血を受け継いでいなかった事に付いては、一切言及していない。

 しかし 貴族の誰1人も、第2王子の器量に付いては無言で通し、彼の支持者が犯した罪に付いては いつの間にか有耶無耶になった。


 貴族とは こういう魑魅魍魎達の集まりなのである。


 エイミと同時期に 拉致された者達は、エイミを除いて 全員死亡している。エイミが生きていたのは、彼女だけが、なぜか呼吸困難には至ならなかったから。ただ それだけである。

 彼女は 治癒魔法や栄養剤の投与によって、辛うじて生存し続けているが、親と 親族全員が、第1王子派だった事で もう社会的には死んだも同然である。


 エイミが目覚めたのは、拉致事件から4箇月近く過ぎてからだった。


 目覚めたのは、魔法具が放つ けたたましい警告音が耳に響いてやかましかったからだ。それと 強烈な消毒薬の臭い。

 ――うるさいな。


 エイミは 最初、瞼を開けようとしたが 酷く重くて開かない。

 それどころか 体を動かそうにも、その存在を感じる事さえ出来ない状態だった。

 聴覚と嗅覚以外の感覚が、全て麻痺している。

 口を開く事も出来ず、当然だが 声も出せない。


 彼女は 足音で、大勢の人が来たのを知る。

 「どうした、目が覚めたのか」

 「脳波は検知したようですが、体の反応が全くありません」

 ――何とか意識がある事を知らせないと。


 「器械の不具合か」

 「すぐ調べます」

 ――あぁ、どうしよう。

 そうだ、魔法だったら。……でも呪文が唱えられない。


 「……器機には 何も問題ないようです」

 「じゃ、なぜ こんな反応を」

 ――そうだ、生活魔法なら。


 その時、エイミの顔の上 20センチメートル程の空中に 小さな炎が発生して、10秒ほどで消えた。

 「えっ」

 「今のは 何だ」

 再度 同じ場所に炎が発生し、消失した。

 「……もしや。エイミ嬢、もし聞こえているなら、2回続けて炎を出して下さい」

 すると 3秒間隔で、2度続けて炎が発生。

 「おーっ、目が覚められたのですね」

 2度続けて 炎が発生。

 「急いで侯爵様に連絡を」

 「はい、分かりました」

 ――良かった、伝わったわ。


 エイミは安堵して、そのまま意識を失った。


 これは カイムの使った睡眠薬の効果である。

 彼女等は拉致される際 麻痺毒を吸飲させられていた。それは非常に強力で、エイミ以外の者が死亡した原因である。

 問題なのは、その毒の解毒薬が この国には無かったからであり、その事を 全ての医師が知らなかったからである。

 彼女が助かったのは、カイムの睡眠薬を最も吸引し易い位置、罠の近辺に置かれて(・・・・)いたからに過ぎない。

 カイムの薬には 睡眠効果以外に害が出ないよう、解毒作用が加味されていたからである。


 エイミが家族の元に戻ったのは、目覚めてから 更に2箇月後であった。

 しかし 彼女には『下半身不随』という後遺症が残った。この症状により エイミの、ソーレン侯爵家における存在意義は 全く無くなったのである。


 ■■■


 「あれ。出て来ない」

 収納に放り込んだ筈の『金庫』が出て来ない。


 アインスに封筒を預け、スリ組織を 追加で幾つか潰した後、そのまま旅を続けていた ある日。

 ふと、錬金術に魔法を併用すれば 解錠出来るのではないかと思い付いた彼は、再挑戦しょうと 金庫を取出そうとしたら、消えていた。

 1辺が約1メートルもある 鋼鉄製の立方体だ。紛失するには大き過ぎるし、重過ぎる。

 もしかしたらと思い 収納袋も探したが見当たらない。

 ――捨てた覚えはない、よな。ひょっとして……。


 まさかだった。もう1つの収納、従魔術を施行した生物を飼育するための亜空間。そこで見つかった。

 ――何を バカな事をやってるんだ俺は。逆だったら、従魔を殺していた。


 だが、取出した金庫は 半壊状態だった。と、言っても扉が開いたわけではない。本体の上面に 直径10センチメートルを少し超えるくらいの穴が2つ空いている。

 これで、金庫は破られたも同然だ。

 ――何かで、明らかに内部(・・)から開けられたモノだ。


 カイムが 穴を覗いてみると、薄暗い中で 何かが蠢いている、ように見える。

 ――何か居るのか。


 カイムの持つ収納は 2種類ある。生物用と無生物用である。

 その 生物を飼育する事が出来る(主に魔物)方は、あの教師達から指導を受け、その教師達から 少しづつ、魔物の飼育に適した環境を整えた土を譲って貰い(勿論 殆どは自作だ)完成させたモノだ。

 最終チェックも して貰い、何の問題も無かった筈である。


 ――ひょっとして 教師が持っていた魔物とかが、何かの拍子に混ざり込んだのか。それだと ちょっと厄介だ。

 流石に教師の従魔術を解除する分けにはいかない。


 その時、開口部から その穴と同じくらいの短径を持つ楕円体が飛び出して来た。地上に落ちて潰れ、元に戻った。

 「えっ、スライム」


 そう スライムだった。

 だが、普通のスライムに 耐魔法処理が施されている金庫を破るだけの能力があるようには、到底 思えないカイムは、とにかく 全てのスライムを収納から出し(勿論、金庫内からも)、確認する事にした。

 ――どうやって金庫の中に入ったのも、気になる。

 『全スライム、ここに集まれ』


 すると、思っていたより多くのスライムが ゾロゾロ出て来た。

 『えっえっえっ、何で こんなに多いんだ』

 ――確か 猫と同じ40頭しか入れてなかった筈なのに、今は色違いが 各百頭づつくらい居る。


 カイムが 入れたのは、青色だけだった。なのに現実は、普通の青色と、紫色、緑色のもいる。

 呆然としていたカイムだったが、次第に疑問が膨れ上がる。


 『お前達の中に、この金庫に入れるモノは どれくらい居るんだ。

 もし入れるなら、そうだな 色違いで1頭づつ入ってみろ。あっ、穴は使うなよ』

 すると 青色と紫色のスライムが金庫に向かう。どうやら 緑色のは出来ないよう……、じゃなかった。緑色は青色と合体して(色は緑のまま)、結局3色共 金庫に向かった。

 そして、扉と本体の隙間から 3頭共、スルリと入ってしまった。

 カイムは眼を見開いて驚いた。

 ――えっ、嘘だろ。俺だって調べたのに、何で。


 カイムも、本体と扉の間には 絶対にある筈の隙間から、魔法を撃ち込めないかと。出来れば 内側から扉を破壊出来ないかと、試行錯誤したのだ。

 だが そこには、強力な結界で防水・防塵処理がしてあって、実行出来なかったのだ。


 ――そう言えば スライムには『火』系統以外は、全然 魔法が効かないんだったよな。結界まで効果が無いとは思わなかったけれど。

 それに こいつ等は基本、楕円体だけど伸縮自在だったなぁ。あんなに狭い隙間に入れるとは思わなかったけれど。


 ――くそっ。今迄の 俺の努力を返してくれ。



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