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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
5/20

(05)サテン語


 「うーん、やっぱり開かない」

 色々試したが。カイムは 金庫を開ける事が出来ないでいる。強力な耐魔法処理が施されている事もあり、もう手詰まりだ。

 収納に放り込んでおく。

 ――やっぱり、あの文字が問題なんだろうな。きっと手紙に解錠法も書いてあるに違いない。


 手紙に記されていた文字、そう 文字そのものが、この国や周辺国のモノとは かなり違う。

 なら、遠国からの書簡が何でここにある。

 ――だめだ、気になる。


 ■■■


 カイムは、外国語なら ここで調べるのが1番。と思って来たのだが、どうも思わしくない。


 ちなみに 現在のカイムの服装は、商人風のモノだ。

 アインスから貰ったに物には 商人風の他に、一般的な冒険者風、軍人風、傭兵風と、汎用ともなる庶民風の衣類が数種類づつある。


 あれから 港湾都市に来て1週間。実際は 都市を囲む外壁の外にあるいちだ。

 ここには 多くのテントが並び立ち、多種多様な店からは、大声を張り上げる呼び込み等で喧騒に包まれており 商売に励んでいる者達が溢れている。

 とにかく喧しいて うるさい。

 ――ここに本屋でもあれば。


 だが、識字率の低い この地方では望みは薄い。

 「はぁーっ。疲れた」


 ヒトと接する機会の少ない生活をしていたカイムには『人酔い』しそうなほとの混雑。

 連日 探しているのに、それらしいモノは何も見当たらない。

 ――もう 多分、全体の5分の3は探索が済んだだろうに……。


 座り込みそうなった カイムの目に、何だか可怪おかしなモノが映った。

 「えっ。あれは……建物だ」

 テントではなく、石造りの建物。この地に来て初めて見る、本物の建物だ。


 カイムは そこにフラフラと近付いた。

 そして、見上げた門に掲げられている看板には『海洋航海術の基礎及び海外商取引きの国際基準を教えます』と、大きな文字で書かれていた。

 「わぉーっ」

 カイムは その建物に飛び込んで周囲を見渡す。パンフレットのようなモノが並べられている。各国の案内だろう。

 その中に「あった」。間違いなく あの文字だ。


 「これは何処の文字ですか」

 パンフレットを持ち、カイムが受付に行って 真っ先に聞いたのが、それだ。

 「サテン語の文字ですね」

 受付嬢は淡々と答える。

 「そのサテン語を、ここで教えて貰えますか」

 そして あっさりと否定する。

 「確かに サテン語の講習もありますが、ここは『航海術と海外商取引き』に関する塾なのです。

 ですから 語学だけでは受講出来ません」

 「じゃあ、『海外商取引き』の講座を受けます。それにはサテン語の講習も含まれています、よね」

 今度は肯定、続けて勧誘も。

 「はい。選択科目として確かにあります。では、どのコースを受講されますか。最短で2週間の……」

 「最短のコースで お願いします」

 余りの食い付きに 受付嬢が引いてしまう。

 「は、はい。では泊まり込みになりますので、勿論 食事付きですよ。金貨1枚になります」

 「はい」

 急いで対価を支払う。

 「では、こちらへどうぞ」


 その30分後から 激烈な授業が始まった。


 ■■■


 中々、ハードなスケジュールだった(1日に16~18時間の勉強。食事、睡眠時間は除く)。しかし カイムは、しっかり卒業証を貰った。

 トップの成績である。

 カイムの手元には 教科書があるし、講師の持っていた資料も複写した。ついでに、その塾にある 他の資料も閲覧、複写して 多くの事を学んだ。

 その後、サテン語だけでなく この塾で履修可能な、他の3言語も(読み書きだけは)習得した。

 これ等は 高速・完全記憶術と記録用魔法具の賜物たまものである。


 『これは凄い。これで 海外とも取引出来るじゃないか』

 卒業証をアインスに送ったら そんな事を言われた。思ってもいなかったが、確かにそうなる。

 『えっ。あぁ……、そうなるのか』


 それは置いておいて、これで謎の手紙が読める。カイムが 途中で読まなかったのは、誤読を避けるためだ。

 外国語は その点が難しい。途中で変な先入観が入ると、正しく理解出来なくなる場合があるのだ。


 港湾都市から 少し離れた場所、探知でヒトがいない事を確認して、文書を取出す。ページ順に並べ直して読み始めた。

 ――何々……。


 読み終わったカイムは 著しく顔色を変えて呟いた。

 「これ、持って来たのは間違いだった。そのまま 放置しておけば良かったんだ。

 今から差し出したら、中身を読んだのがバレバレだよな」

 ちなみに、金庫の開け方は書いていなかった。


 そこで、困った時の義父頼み。

 『ちょっと教えて欲しいんだけど』

 『はい。何でしょう』

 『この国で サテン語が堪能な、そうだな かなり高位の貴族かもしれない。誰が知らないかな』

 『サテン語とは かなり珍しい。そんな言葉は……、多分 貴族にはいないだろうね。

 それ以外だと、留学していた第1王子か その母親、側室様くらいだろうな。

 そうだな 外務官のトップなら、問題なく分かるだろうけれど』

 『えっ……』

 ――マズイマズイ、これは最悪だ。

 『ところで、何で そんな事を聞くんだい』

 もう、隠すのは無理だ。カイムは覚悟を決めた。

 『うーん、この前、野盗のアジトから収奪した物品を処分して貰ったよね。

 そこに「謎の書簡」があって、封蝋がしてあって、それがサテン語で書かれていて、どうしよう。俺、それを読んじゃったんだよね』

 『ぶっ。内容を読んだって、まさか』

 『あぁ、かなりヤバい』

 アインスは頭を抱えた。「何でまた」との思いと、「でかした」という思い。

 『その書簡と、中身を翻訳したモノを持って来て下さい。ちょっと探ってみます』

 『あーっ。1枚目は良いけど、2枚目以降は読まない方が良いんだけどな。探るって、無理しないでよ。本当にヤバいんだから』

 『分かっていますよ。とにかく こっちに来ておくれ』


 カイムは 翻訳しながらアインスの住む町に向かったので、到着まで1週間掛かった。


 ■■■


 アインスは カイムから受取った書簡の訳を、サラリと読み、すぐに焼却した。

 「ふぅ、確かに1枚目は良いけれど、いや、全然 良くはないんだけれど、2枚目以降は本当にヤバいですね」

 ――へえ、アインスも「ヤバい」なんて言葉を使うんだ。

 「えっと、現実逃避してませんか」

 「は、はい。いえ、すみません。どうしましょう」

 「こ地に住む国民として 放置は出来ませんね。……何とかしないと、とんでもない事になります」

 「それは分かる」

 内乱か、それ以上の事が起こりかねない。


 「うーん。中身、手紙の……、指紋とか 貴方が触れた痕跡だけを選択して消す事は出来ませんか」

 「あぁ、それなら 簡単に出来る」

 カイムは それを速攻で処理して、手紙を封筒に収める。勿論 封筒の内部や開封部も処理した。

 「この封蝋、元に戻せそうですが」

 「あぁ、それも簡単だ。注意深く開いたからな、少し熱を加えれば元通りになる」

 生活魔法、『加熱』で封蝋の形状が変わらいよう注意して、処理する。これで 見た目は元通りだ。

 「封筒にある 貴方の痕跡だけを消して下さい」

 「オーケイ」

 「じゃ、指示するように跡を付けて……」


 「では港湾都市に戻って、スリの本拠地を10件ほど処分、いえ壊滅させたら連絡して下さい」

 「分かった。けれど その書簡、本当に大丈夫なのか」

 「問題ありません。むしろ よく見付けてくれたと、褒めてあげますよ」


 アインスは カイムが去ったのを確認し、指袋を着けて 書簡の隅を少し破り、それを自身の プライベート用収納袋にしまった。


 翌日の昼過ぎ、カイムからアインスに連絡が入る。

 『スリの本拠地を、14箇所、確実に全滅させた。これだけで良いのか』

 『えっと、凄く早いですねぇ。後は 私に任せて下さい』

 アインスは あまりの素早さに驚いたが、早いに越した事はない。

 急いで執務室に戻ると 通信用魔道具を取出し、暖簾親のあるじに連絡した。


 「ご無沙汰しております、アインスでございます。実は……」



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