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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
3/20

(03)旅立ち


 カイムは 幼い頃から、父親に生活魔法を教わって、物心付いた頃には自在に扱えるようになっていた。4歳の年までは、体力強化はストレッチ程度の軽いもので、主眼は 魔力の増強を目的とした訓練を行い、同時に 読み書き、算術(四則計算)を習った。

 基礎は この時点で、ほぼ出来ていたのだ。


 彼は以降も、基礎鍛錬として 魔力増強と、読み書き、算術の勉強を、ずっと続けている。


 5歳の年から 引退した冒険者8人を教師として学び、14歳の年に卒業した。実は この時点でカイムは、最低でもDランク冒険者の登録資格を持っている。

 卒業証明書には その旨も記載されているのだ。


 ある時から(操剣技術が合格と判断した時点)、教師が 野盗討伐にカイムを同行させるようになった。

 その際 彼自身が、野盗を複数人討伐している、担当教師が そのように仕向けているからだ。

 この討伐同行は 冒険者随行の代替として行われ、その後 何度も行われた。

 この件は 教師全員の合意で行われた鍛錬の一環である。

 ある意味 魔物より脅威となり得るヒトへの対処に、戦う者として、不要は躊躇を持たせないためのモノである。本人に自覚はないが、十分な成果を得ている。


 そして卒業に際し、最後の教訓があった。

 「お前の親父も言ってたろうが、整理・整頓・清潔は忘れるな。それと、自分自身の洗浄もだ。これは とても大切な事だ」

 「そんなに大切なんですか」

 「あぁ、とても大切だ。

 それを きっちりしていると、自身が寝起きする場所に 無断で何者かが侵入した場合、違和感という形で分かるようになる。それだけでも安全性が大きく高まる。

 自身の洗浄は防疫、病気の予防だ。体臭を消し 気配を絶つのにも役立つ」

 「確かにそうですね。しっかり心に留めておきます」

 「じゃ、これで別れだ。無駄死にだけはするなよ」

 「ありがとうございました」


 義父、アインスは 3年前に暖簾分けがあり、独立して 他の町へ引越しした。それからは 商業組合銀行を通して、生活費が送られて来ている。

 カイムには アインスの身内という立場で、組合銀行に口座が設けられている(受取りだけで、他の貯蓄等は出来ない)。


 アインスは、何でも 奴隷商以外にも、食品や嗜好品の売買、薬品の卸しや各種素材の販売など、色々 手広くやっているらしい。

 素材の調達などは、カイムも手伝っている。


 カイムは 予定通り冒険者組合に登録するか、それとも商業組合に登録するかを迷っている。彼には 両方と言う選択肢はない。

 調べてみると商業組合にも自衛組織が存在していた。

 考えてみれば 当然の話で、いくら商会であっても、自衛は必要不可欠なのだ。

 それは同時に 高額な冒険者を雇う余裕のない商店向けに、引退した冒険者や元軍人、元傭兵などで構成されている部署でもあるのだ。


 引越しする前から アインスには「遠慮は不要です。困った時、いえ そうでなくとも『報告・連絡・相談』を必ずする事。絶対ですよ」と、念押しされていたのだ。


 『……どうだろうか』

 カイムは 今、アインスに『念話』を使って相談している。もう冒険者に魅力を感じられなくなっていたからだ。

 『さて、どうだろうねぇ。私は 商業組合で護衛を頼んだ事がないから、比較は出来ません』

 『実際の護衛には、どのランク辺りを依頼対象にしているのかな』

 『Aランクが基本です。最低でも Bランクですね』

 『やっぱりそうか。冒険者のA、Bランクは信頼度が違うんだよな。

 商業組合に聞いたところでは、Cランク以下だと 組合に所属する護衛の方が良い場合もあるらしい。数さえ揃えれば、Aランクにさえ劣らない場合もあるってさ』

 アインスが食いついた。

 『それは、中々 興味ある情報だね』

 『あーっ、でも それには大きな問題があるんだよね』

 『問題って、何かな』

 『商業組合の護衛には「ランク」が無いからね。玉石混交って事なんだよ。個人的に知ってる場合にだけ有効かな』

 『そうなのかい』

 『そうなんだ。元冒険者だと ランクがバラバラだし、元軍人や元傭兵でも、その戦力なんて調べる基準さえ無いそうだからね。

 各町の組合によっても 大きな差があるらしい』


 カイムは これでは商業組合の批判になっている事に気付いた。冒険者組合には もっと大きな問題があるのだ。


 『そうは言っても、冒険者組合にも 大きな問題があるんだよな』

 『ほう』

 『さっき言ってたように、Bランクに満たない者には護衛を任せられない。AやBランクになると、対価は かなりのモノだよね』

 『まぁ、確かに高額だね。だけど 安全には替えられないからね』

 『そのランクが問題なんだよ』

 『どういう意味ですか』

 『Cランク以上は、本部管理になるんだ。つまり個人データが丸見えになる可能性がある』

 これは大問題である。

 『……』

 『同時に、貴族との間に「ヒモ」が付く事が多い』

 アインスの雰囲気が固くなる。

 『貴族ですか。それは困りますな』

 そう、困る。個人データが 本人の知らない内に、誰とも知らない者に、それも貴族に、公開されている可能性があるのだ。

 『で、俺は 冒険者を諦める事にした』

 アインスと話している内に、カイムの心は決ったようだ。

 『良いのかい。幼い頃からの夢だったんだろう』

 『確かに そうだったけれど、もう夢から覚めた。デメリットが大き過ぎるからね』

 『私も その方が助かります。後継者と貴族が繋がっていると言うのは、とても大変な問題ですからね』

 『引退すれば 関係が切れ、問題は無いのかも知れないけど、「ヒモ」の残滓が残ってたらら 厄介事に巻き込まれ兼ねないからね。止めておく』

 『冒険者にならないなら、こちらの町に来ますか』

 『あぁ、明日にでも出発する』

 『えっ、明日ですか』

 急な話だ。

 『1人だからね、1年くらい掛けて のんびり向かうよ』

 『ま、待ちなさい。1人でなんて……』

 『問題ないって。俺は冒険者ランクだと「C」相当の能力は十分にあるって太鼓判を貰ってるから』

 『誰からですか』

 『知ってるだろ、あの教師達だよ』

 『あぁ、あの方達なら確かですね』

 ――あの方達の保証。それなら間違いない。

 アインスは 一先ひとまずは安堵したが、それでも単身と言うのには問題がある。

 『ダメだよ単身は。それこそ冒険者を護衛に付けよう』

 『要らないって。俺だって危険性は知ってるさ。

 でもね 中途半端な集団だと反って危ないらしい。これも教師から教わったんだけど、1人の方が 逃げるのは楽なんだってさ』

 カイムは 自然に危険から回避する判断んが出来るようになっている。『逃げる』の選択は その最たるモノである。

 そして 逃げる事を選択した場合、連れが居ると 意思決定から行動までに、必ずバラ付きや逡巡しゅんじゅんが生じる。そして単独の場合は、決断も その後の行動も、格段に速くなる。

 アインスも ソレが分かったようだ。

 『あぁ、そういう事でしたか。確かに 逃げる場合は、単身の方が身軽ですね』

 『そういう事だから安心して欲しい。じゃ、おやすみ』

 『くれぐれも気を付けて下さいね』


 翌朝 早くに、カイムは生まれ育った町を発った。

 彼は1度も振り返る事なく徒歩で出て行った。未練は 全く無いようだ。


 向かうのは、目的地(アインスの住む町)とは違う方角であった。


 カイムにとって これは、生まれて初めての、1年間限定だが、目的を決めていない自由な旅である。

 薄茶色のローブを纏い フードを被った彼は、景色に溶け込んで いつの間にが姿を消していた。


 ■■■


 『どうかな』

 『ふむ、中々のモノだね。10キログラム当たり、銀貨5枚でどうだい』

 『甘いな、多めに見ても銀貨2枚だろう。ちゃんと観てくれよ』


 カイムとアインスは 鉄素材の価格交渉中である。サンプルを送っているので、それを評価して貰うためだ。

 ――問題なのは 買い手が高目の価格を提示して来る事なんだよな。


 『ちゃんと評価してくれないと 勉強にならないじゃないか』

 『すまんすまん。じゃ、手間賃も含めて3枚でどうだ』

 ふぅ。

 カイムは溜息を吐いて『了解』を打診する。

 ――銀貨2枚でも 過ぎるくらいなのに。

 『それで、どのくらいの量を売ってくれるのかな』

 『うーん。純度70パーセントだからな。

 採れる量は 8百から、多くても25百キログラムになるかな』

 そう、純度70パーセント。これが現時点いおける、カイムの限界である。錬金術的には。

 ――まだまだだな。

 『分かりました 全て頂きます。(収納)袋は空けておきますね』

 『毎度ありぃ』


 カイムは 対話しながら、手元では ずっと錬金術の準部をしていた。


 役立ちそうな薬草を採取しながら、鑑定を起動して歩いている時とき、偶然 赤鉄鉱の鉱床を発見したのだ。規模は小さいが、放っておくには勿体ない。


 錬金術の準部が出来たので、掘り出した赤土を 一定量以上、鍋に放り込む。術を発動させると、鉄分と不純物の分離工程が始まる。


 旅は すこぶる順調である。

 毎日 念話で報告するのは面倒だが、魔物や野盗の討伐。さっきのように 色々な物資の採取なとをしている。

 彼の採取した物は 殆どをアインスに送っている。ある意味、原料供給の一翼を担っている事にもなっている。


 カイムは収納袋を2つ持っている。

 1つはプライベート用。もう1つは アインスの持つ収納袋と亜空間を通して連結している。こちらの袋に入れた物は あちらの袋でも取出せる、逆もまたしかなりだ。

 この収納袋は 購入品を改造した特注品で、空間魔法を付与したモノだ。容量も 一般品より大きい。

 アインスから、引越す時に渡されたモノの1つだ。


 手際よく作業を進め、2時間ほどで 全工程を完了した。集中していたカイムが ふと気付くと、もう日が暮れかけている。


 客観的に見ると、これは凄い事だ。純度70パーセントは 決して低い純度ではないし、その作業速度は尋常ではない。

 アインスの評価は正当だった。決して贔屓ではなかった。

 鉄(金属全般が同じ)の生成に『熱を使わない』錬金術は貴重であり、仕上がり状態も『均一な純度』『均一な形状(延べ棒)』と、そこから派生する『均一な質量』は、それだけで価値があるのだ。


 薄明りの中、夜目の効くカイムは 手早く野営の準備を始める。魔法(生活魔法)を使っているので そんなに手間ではない。

 それでも 食事を済ませ、就寝したのは それから更に2時間ほど経ってからである。

 辺りはもう暗闇に包まれていた。



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