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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
19/20

(19)帰郷

 後部を一部変更。


 花は 落下した衝撃で、種子を撒き散らす。

 『この種は硬うて食えん。放置すれば 2箇月ほどで発芽し、その次の雨が降るまで待っておる』

 話している最中にも、戦闘蜂は攻撃を続けている。茎を折り、葉を千切り、地表に出ている部位は全て破壊するが、それ以上はしない。根は残しているようだ。

 『根は わざと残しているのか』

 『あぁ、あれには歯が立たん。多分 火事があった場合の自衛措置なんじゃろうな。普通は芽も出ん。我にも よう分からんが、そういう事じゃ』

 蜂は、切り倒した花(茎、葉を含む)に、何か吹き掛けている。その液が沁み通ると腐敗が始まる。

 そして 見る間に土に戻っていく。


 『あの腐敗液は、種や生きとる植物には作用せんのじゃよ』

 『生きている植物って』

 『あぁ、あの花は 成長が早い分、根から取れたら死ぬんじゃ』

 『栄養が 一気に途切れるからか』

 『そうじゃよ。それに あの液は、見ての通り、腐葉土を造るに適しておるからのう』

 『確かに。だが、あの液って動物には どうなんだ』

 『少なくとも 虫系には無害じゃな。スライムにも効かんかったがのう。そう言えば、小型の四足動物には問題無かったが、ヒトには試した事が無いのう。ククク』


 『次の雨は いつ頃になるか分かるか』

 『そうじゃのう。正確には分からんが、2週間から3週間の周期で降っておる』

 『最短で2週間か。まさか季節に関係なく、1年中雨が降るのか』

 『そうじゃが、何か可怪しいか』

 『……』

 ――ここは とんでもない過酷な場所だった。


 仮に 花を焼き払っても、強靭な根があるから、直ぐに再生するだろうし、そもそも1年中 花は咲くのだから、この島の広さを考えたら、そんなモノを 根絶するのは不可能だ。

 もし(無理だろうが)大蜂を全滅でさせたら、それこそ この島全体が、出口の無い大迷宮になるだろう。


 カイム達は、急いで出発の準備をした。次の雨が来る前に、さっさと移動する事にしたのだ。


 ■■■


 「もう1箇月ほどで 今年も終りだね」「そうですね。たった半年足らずでしたが、とても充実していました」

 ――そうか、この年は もう終わりなんだ。


 「エイミ、テイナ。俺は一度 家に戻る必要がある。義父との約束なんでな」

 「何か ご用事なのですか」

 「いや、この年を越えれば 俺も15の年になる。成人するからには、ちゃんと働かないとな。多分 商業組合に登録する事になる」

 「そうなんだ」

 「旅は終わりなのですか」

 「その辺りは まだ決めていない。もっと遠くにも行ってみたいからな。義父と相談して決めるつもりだ」 


 そう。カイムは まだ物足りていない。

 そう広くない この国でさえ、まだ行った事のない地域が多い。まして外国などをや、である。


 現在 3人は、綱で繋いではいるものの、一人づつ馬に乗っている。魔物ではない。普通の 茶色い体毛をした馬である。

 テイナはともかく、驚いた事に エイミも乗馬を嗜んでいた。

 「あの事があるまでは、良く乗っていたのですよ」

 「へぇ、貴族の令嬢って 何もしないと思ってたわ」

 「確かに そんな方もいらっしゃいましたね。

 それにしても、こんなに元に、いえ、元以上に元気になれるとは、あのストレッチって 凄い効果があるのですね」

 「あれは、全身の筋肉を解す効果がある。本来は準備体操に近いんだが、リハビリテーションには向いてたようだな」」

 「私も やってみたけど、体が軽くなったような気分がするよね」

 「テイナには、長い間 付き添って貰ったものね。ありがとう」

 「いえいえ、私は その間に文字を教えて貰ったから、こちらこそ感謝してるわ」

 ――あれは 実父から教わった、訓練前に必ず行った、正しく準備体操だ。俺も朝 起きた時にしている。もう それが習慣になっている。


 久し振りの のんびりした道行きである。

 このままの歩調で進んでも、年が変わる前には アインスのいる町に着ける。

 「何だか、久し振りに ゆったりした気分だわ」

 「今年は暖冬なのかしら。雪も降らないし、風も 冬にしては冷たくないわ」


 だが、こいう時に限って 何か大事が起こるものである。


 『主様、緊急事態です。急いで アインス様の元へ行って下さい』

 「黒色ね」「何でしょう、緊急事態って」

 「そんな事は関係ない。跳ぶぞ。馬を降りろ」

 「はい」「はい」

 『白色、家へ』

 『☆』白色スライムも 何か緊張しているようだ。


 カイムが現出した場所には アインスを含め、多くの者が倒れていた。

 カイムは愕然としたが、急いで現状確認を行う。

 『アインスの黒色、説明しろ。先ずは 倒れている者の状態。そして原因だ』

 「きゃっ。これ、どうしたの」「えっ、何これ、何なの」

 エイミとテイナが声を上げるが、カイムは無視した。当然だ、優先順位が違う。


 『ご報告します。全員に呼吸器不全が見られ、危篤状態です。

 原因は食事に盛られてた毒です。種類は麻痺毒、この国には解毒薬が存在しません』

 カイムは チラリとエイミを伺う。

 彼女は真っ青な顔である。

 『それは、サテン語圏で使われているモノか』

 『はい。間違いなく』

 カイムは、ホッと息を吐く。

 「大丈夫だ。それなら直せる」

 「直せるのですか」「まさか、エイミと同じ毒なの」

 『その通りだ。その毒入りを盛られたのは、ここに居る者達だけなのか。それとも、もっと多いのか』

 『この邸内にいる、奴隷も含む全員です』

 ――危篤状態。解毒薬を造っている余裕はない。

 ならば……。

 『新しく覚えた魔法を使う。従魔は全員、黒色も含め収納に戻れ。エイミとテイナは 俺の手を握っていろ。どんな反作用が起こるか分からないからな』


 カイムは これまで、誰にも大きな魔法は見せなかった。

 あの『塔』は、土の生活魔法を応用したに過ぎないし、エイミを救った時でも中級程度の魔法だった。


 眼を閉じたカイムは、頭に中で『広範囲・白魔法』の術式を組み立て始める。

 掌で2人の存在を確認して、ソレを発動させる。


 カイムの体温が スッと下がり、色を失うほどに輝き始めた。


 従魔達を元に戻し、呼吸が安定したアインス達を敷物の上に移した。実際に作業したのは 大鬼や、他の従魔なのだが。


 カイムは犯人の特定を急いでいる。再発の可能性と、他の者に同じ事が起きている可能性だ。

 『犯人は分かるか』

 『直接の犯人は特定出来ていますが、既に死亡しています』

 その時、はっと気付く。

 『黒猫。アインスを見張ってた黒猫は居るか』

 『〇』3頭の猫が カイムに擦り寄って来る。

 『犯人以外に怪しい者が居たか』

 『〇』

 『ソレを特定出来るか』

 『△』

 難しいようだ。

 『じゃ、ソレを追跡出来るか。現在の居場所とかは どうだ』

 『〇』頭を擦り付ける。

 『もう、分かっているんだな』

 『〇』

 『花梟と協力出来るか』

 『〇』

 『花梟、3頭で詳細を調べろ。悪いが翼竜鳥も付いて行ってくれ』

 『分かった』『具体的には どんな情報が必要なんだ』

 『実行犯と 犯行を指示を出した主犯。だが 他に被害者がいないかの確認が優先だ』

 『分かった、任せろ』


 カイムは全ての指示を終え、一息吐いた。

 「こういう時、ヒトの手下が欲しくなるな」

 小さな呟きだ。

 しかし、これに反応した人物がいた。

 「見張っていたのは、きっと『陰』でしょう。指示を出したのは貴族か、それに類する権力を持つ者です。しかも ソレが、単数とは限りません」

 エイミである。

 貴族の事情に付いては 彼女が1番よく知っている。

 「その『カゲ』って、何なんだ」

 カイムの知らない 初めて聞いた言葉だ。

 ――その立場か身分、職業、役職名の事なのか。


 「詳しい事は 私も知りませんん。

 しかし 彼等は『見張り』から『暗殺』まで、何でもこなす存在だと聞いた事があります」


 『黒猫、見張ってたモノは単体だったか、じゃ分からないか。

 じゃ、見張りは1人だったか』

 『×』

 『全部 追えているのか』

 『△』全部では無いという意味か。

 『じゃ、追跡員は足りているか』

 『×』

 『足りないのは鳥か』

 『〇』

 『どのくらい足りないのかは、無理か』

 その時、翼竜鳥が返事をした。

 『あと3組、欲しいそうです』

 『えっ、お前 通訳が出来るのか』

 『勿論です』

 カイムは頭を抱えたくなった。しかし、そんな場合じゃない。

 『花梟と翼竜鳥、追加で応援を頼む』

 『わかった』『了解』

 ――後は、アインスへの確認だな。


 カイムは 義父が目覚めるのを待つ間に、茶色スライムを呼び出し、該当する麻痺毒の解毒薬生成を命じた。

 茶色は 既に抗体を持っている、対処は容易だ。

 『ここにある瓶に入れてくれ。あっ、出来るだけで良いからな、無理は絶対するなよ』

 『〇』『〇』……『〇』


 アインス達は 翌朝、目を覚ました。

 従業員達は 当然ながら混乱している。皆が それぞれに動き出そうとした。

 カイムが 大きな声で指示する。『威嚇』を込めて。

 「今は動かないで、静かに。まずは落ち着きなさい」

 全員の動きが停まり、静寂が辺りを包む。皆がカイムの 次の言葉を待っている。

 ――こういのは好きではないが、仕方ない。


 「まず、危険なので、指示があるまで 絶対に外出しないこと。店内での作業は問題ありませんが、外部との接触は厳禁です。

 義父さん。奴隷商会は、安全が確認出来るまで閉店です。貴方も外出禁止です、良いですね。

 ここから離れた場所にある店の営業は 問題ありません」

 「わ、分かりました」



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