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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
15/20

(15)見知らぬ町で


 「ここは どこですか」

 テイナは不安そうに カイムに声を掛けた。

 周囲の植生が 今迄と全く違う。彼女の活動範囲には無かったモノばかりだ。


 「白色は 本当に、距離に関係なく移動出来るようだな」

 カイムは、スライムの能力について話している。良い実験が出来た、そんな感想だ。

 全然 話が噛み合っていない。


 「あの地から どのくらい移動しているのですか」

 エイミが 現状の確認をする。

 テイナより理性的であるかのようだ。この地へ移動する準備中に、自身の衣服が 全部無くなっていた事に気付いて、大騒ぎした彼女とは別人のようだ。


 「そうだな。あの場所からだと、おそらく 3つ、4つか それ以上の領地を離れた どこかだ。

 何も分からないので、これから調べる必要がある。取敢えず、情報を集めるためにも あそこの町に行こうか」


 カイムは、8頭の花梟に 同数の白色スライムを乗せ、適当な方向に飛ばせた。命令は『国内で、お前(梟)達が 2日間で到達する事が出来る、なるべく ここから離れた町の近くに、白色スライムを落とせ』だ。

 そして 梟が適当だと判断した地点まで飛んで行って、白色を1度落として、白色の能力で共に帰って来たのだ。

 カイムは その中で、一番遠い場所を選んで移動した結果が、ここだった。ただ それだけだ。

 勿論 あの塔は土に戻してある。


 ところで 白色スライムは、他のスライムより かなり小さい。直径5センチメートルの球体、質量は3グラムほどだ。この大きさだからこそ、花梟で運搬出来るのだ。

 そして 白色スライムの一部は、収納外に居る場合、(指示しない限り)常に花梟と一緒にいる事を決めていたようだ。

 この事をカイムは知らない。


 ■■■


 「大きな町ね」

 立派な、とは言わない。エイミの言葉は、連れである 2人の感想も代弁している。

 ――広大な土地、だが それだけだ。


 ここは 本来なら、副王都とでも呼ぶべき町になる筈のモノだろう。

 何でも 王弟である公爵が統治しているそうで、治安は安定している、らしい。

 そして この町は、王都から 最も離れた距離にある。

 つまりは そういう関係だ。

 3人共 その王弟に拝謁したり、話をした事が無いので断言は出来ないが。


 カイムは花梟を飛ばし、また、自身の足で確認しながら 町の状況を脳内で構築していく。

 「色々な意味で 特殊な町のようだな」

 「えっ、何がですか」「そうだよね」

 女性陣の意見は割れた。

 「テイナは この町には来たことが無いのか」

 「ここって かなり辺鄙ですよね」

 「まぁ、確かに」

 カイムが あの地から離れるために選んだのだ、辺鄙になるのは仕方がない。

 「私が根城ベースにしていた町で聞いた話では、ここに着くまでが大変みたいですよ。

 なんでも 強力な魔物が多くて、やたらと出現率が高いのよね」

 「ふーん」「そうでしょうね」

 今度はカイムとエイミで 感じる事が異なるようだ。

 「何か納得しているようだが、心当たりでもあるのか」

 「父が、侯爵が よく言っていました。『今の陛下は器が小さい』って。ヒトの事は 好きなように言えるようです」

 「確かに 他者の批判は簡単だよな。では、公爵は 一種の島流し状態ってわけか」

 今頃になって気付くカイムは やっぱり鈍いのか。

 「この辺りは 他国と接していないのです。インフラも 故意に整備していない。逆に悪化しているらしいのです。

 ここの住人は、別の土地からの移住者が半数以上、それは公爵が連れて来たそうです」

 「あぁ。公爵の関係者と それに準ずる者を選択して、丸ごと連れて来たって事か。

 エイミの家でも 同じ事が起きてるってか」

 「国ほど大規模じゃありまし、陛下達ほど仲が破綻しているわけでもありませんでした。

 けれど、妙な緊張感が常にありましたたね」

 「王侯貴族は 大変だねぇ」

 自分には関係ないので、テイナが心底 呆れたように呟く。


 午前11時過ぎ。元から住人の数が少ないのか、この時間帯のせいなのか 人通りは多くない。3人は カイムを中心として、左にテイナ、右側にエイミが並んでいる。小声(念話を混ぜているので雑音にしか聞こえない)で話ながら、ヒトの流れに乗って歩いている。


 エイミは 全く気付いていない。だが カイムとテイナは とうに察知しており、対処法も決めている。

 『野次馬が多い、殺すのは拙いな』

 『そうですね』


 後ろから カイムの左右を狙って 走る抜けようとする者達が来た。

 その時、エイミは 自身の体が浮いたように感じ、フワリと尻餅を付いた。

 カイムは 何もしていないように、テイナは 素早く身を躱した、だけかに見えた。


 カイムの両脇を通り過ぎた男達(まだ青年)が、大声で喚きながら倒れ、転げ回っている。

 その傍らには 彼等の片腕が落ちており、切り落とされた腕、その手には 両方共に財布が握られている。


 スリの腕を斬り落としたのは 勿論、カイムとテイナである。

 腕の断面は焼かれており 出血は無いが、もう元に戻す事は不可能である。

 カイムがエイミを助け起こしている間に、テイナは 2つの財布を回収した。

 それには 小遣い程度の、たいした金額は入っていないが、スリに施す気は無い2人だ。


 人混みの中から 数人が、この場から離れようとしている。

 『追跡しろ』

 カイムの頭上にいた花梟は、彼の手に小さな魔法具を落とし、そのまま 走り去ったスリの仲間を追跡した。


 カイムは 喧しいく喚くスリ供を気絶させ、綱で縛り上げ、木片にメモを書いて その近くに立てた。


 「じゃ、昼飯を食いに行こうか」

 「は、はい」「そうだね。私も お腹が減って来た」


 夕方と呼ぶには少し早い頃。

 冒険者組合に隣接した宿泊施設に向かうため、3人は 早めに散策を切り上げた。

 大抵の、中規模以上ある町の冒険者組合には、無料で宿泊できる場所があると聞いているカイムは、テイナの案内で その場所に向かう。

 テイナがカードを示し、そこに入る。


 何も無い。天井さえ無い、高い柵で囲まれた ただの空地である。

 本来は 宿屋に宿泊出来ない、下位ランク(E、Dランクが該当)冒険者のために設けられた施設だ。屋根が無いので野営と何も変わらないのだが、最低限の安全だけは保障されている。

 この時間だと まだ誰も来ていない。


 テイナに確認し、カイムが ざっとした設置範囲を決める。

 「エイミ。土魔法で この範囲に入るよう、内側に6メートル×20メートルの空地を持った 高さ5メートルの壁を造ってみろ。強度も考えろよ。それが今晩の宿泊地だからな」

 「はい。頑張ります」

 これは 生活魔法の応用。彼女が カイムに魔法の指導を頼み、聞き入れられた。その一環、実習である。

 まだ このように、安全で 集中できる環境でしか使えないのだが。


 カイムは 出来上がった壁を確認し、表面を滑らかに仕上げて『結界』を張っておく。

 ――これで より安全だし、騒音防止にもなる。


 壁の中。3人で食事を終えて 食器の洗浄を済ませると、カイムが出掛ける旨を告げる。

 スリの本拠地アジトを殲滅するつもりだ。

 港湾都市のドタバタ以来、彼は 貴族と同等以上に、スリが大嫌いなのだ。狙われた以上、容赦はしない。

 「始末して来る。先に 夫々の箱家で寝てて良いからな」

 「分かった」「気を付けてね」


 カイムが 白色スライムで、テレポートした先の屋敷は かなり広い。中に入ると 多くの、高価だが 趣味の悪い装飾品がある。

 ――ほぉ、稼ぎが良いんだ。つまり被害者が多いって事か。


 ここは 彼の知るところではないが、この町の スリを統括する首領の1人が住んでおり、同時に 手下達の拠点でもあった。


 深更、3人は もう寝ていたのたが、壁の外では ちょっとした騒ぎになっていた。

 壁の前には『3人で使っています』と書かれた木片が立てられている。確かに、この壁は3人分の範囲内で造られている。

 規則上は 何の問題も無いのだが、周りとは隔絶した 異様な存在は、やはり気になるようである。

 「どうだ 上からは見えるか」

 声を掛けられた冒険者は、柵の頂上から 壁の内部を覗こうとしていたようだ。

 「ダメです。しっかり結界が張られていて『透視』も出来ません」

 「この結界は 音も通さないようだ。中に知らせる方法は無いな」

 組合長は 中を確認するのを諦めた。その時、この場に そぐわない人物の存在に気付いた。

 「ところで、警備隊の旦那達は、何で ここに来たんですかい」

 「この中にいる者達が、昼近い頃 スリを退治したようなんだ。

 ここで泊まると書置きしてあったので、事情を聞こうかと思って来たんだが」

 「間違いなく この中の奴等なんですか」

 「どうやら そうらしい。目撃証言と、入口の受付けで聞いた特徴とが一致している」

 「何で 事情聴取が必要なんです」

 そう。スリを捕まえて、そのまま放置していたのなら 何の問題も無い筈だ。

 「いや。犯人を斬ってて……」

 「殺して放置ですか、それは拙いですね」

 「いや。死んではいない、腕を切り落としただけだ」

 「それじゃ 当然の措置で、何も問題無いでしょうに」

 「まぁ、そうなんだがな……」

 「まさか、あの スリ組織の仲間なんですか」

 「正に その通りなんだ。注意するよう伝えに来たんだが、これなら心配なさそうだ」

 「そう、ですね」


 翌朝、カイム達は 壁をちゃんと整地して そこを出ようとした。

 何の問題も無い筈だったが、受付で「警備隊の詰め所に行くように」と告げられた。

 「警備隊。それが 俺達に何の用があるんだ」

 「知らん」

 カイム達にとっては、寝耳に水であった。



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