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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
14/20

(14)冒険者組合


 昼下がりの冒険者組合。十数人の冒険者が雑談に興じていた。話題は やはり『Aランク行方不明』の件である。

 何やら 新たな情報を持って来た者がいるようだ。


 「よう。また 集まってるのか」

 「本部からは Aランクの事、何て言って来てんだ」

 「やっぱり その事か。

 カードが破棄されたのは、全員 同じ時刻なんだそうだ」

 「そんなの あり得るか」

 「それに 野盗の襲撃があった場所からは、かなり離れた位置みてえだな」

 「ちっ。それって、何か可怪しくねぇか」


 『冒険者組合発行・冒険者権利保障証』これが、Cランク以上の冒険者に発行される、俗称『冒険者カード』または『組合カード』の正式名称である。

 それには 当人の個人情報、進捗中の依頼内容、現在の概略位置及び本人が死亡した場合には、その位置(誤差±百メートル)と日時(分単位まで)が分かる、特殊な魔法刻印が施されている。

 加えて カードが破棄された場合にも、その位置と日時を発信する機能がある。

 但し それ等の情報は全て本部管理であり、各地の支部が それを知るには、それなりの手順と時間を要する。

 参考。

 冒険者組合の支部が発行している D、Eランク用のモノは、冒険者権利保障予備(・・)証が正式名称であり、管理は各支部が行う。俗称は同じだが、何の機能も無い。

 理由は単純。やたら人数が多い事と、戦力的に力不足だからだ。


 今回 本部から送られてきた情報は、2箇月前から行方不明になっている 10人のAランク冒険者の件である。


 「あれには 死亡時刻も記載されてた。全員 同じ時刻だそうだ。カードが破棄される 26分前だ」

 「やっぱり死んでいたか」

 「原因……までは分からんか」

 「そんな機能は無いからな」

 「ドラゴンでも出たのかよ」

 「そんな目撃情報は ねえなぁ」

 「何とも、すっきりしねえなぁ」


 場が緩みそうになった その時、雑談中の誰かから、爆弾発言が飛び出した。

 それは、誰もが 一度は可能性を抱きながら、それでも口に出さなかった事だ。その声は 決して大きくは無かった。

 だが その建物の中にいた全員には、嫌に ハッキリ聞こえた。


 「じゃあ、全員が 誰かに捕まっちまって、同時刻に処刑された。その後、纏めて カードが破棄されたんじゃねえのか」

 「……」「……」「……」


 その時 ざわついていた冒険者組合の建物内が、一瞬で凍り付いたように静寂に包まれた。


 ■■■


 「伯爵様。消えた そちらの兵士様達は 見つかったんですかい」


 ソーレン伯爵邸の 身分差を考慮した、略式 謁見の間。

 そこにはエイミの叔父、ドラインと冒険者組合長が、捜索の進捗状況に付いて 相互確認している。


 挨拶も無しに、勝手に席付き 加えて詰問のように問いかけたのは組合長だ。

 ドラインは ピクリと肩を揺らしたが、落ち着いた声で応える。

 「分からない。全くの行方不明だ」

 「つまり、馬車と一緒に 消えちまったって事ですかい」

 「……」


 ドラインが出した54人の兵士、当然だが 彼の私兵である。実力は確かだし、彼個人への忠誠心も間違いない。

 それが 裏切ったとは、とても思えない伯爵だ。そして、兵士だけならまだしも、馬車と あの荷物。とても隠し切れるものではない。


 「馬車は見つかったのか」

 「いえ、どこにも。襲撃予定だった場所にも 何の痕跡もありやせんでした。伯爵様の兵士がいた形跡もです」

 「馬車が どこかに立ち寄った形跡も、無かったんだったな」

 「へい。周囲の町村を確認しやしたが、立ち寄った形跡は全くごぜえやせん。あの派手な馬車が、お荷物を乗せたまま、消えたんです」

 「……」

 「もう、組合は この件から手を引きやす」

 「そうか」

 これは、ドラインも予想していた。


 「ところで確認なんですが、伯爵様の兵士達は どこに消えちまったんでしょうか。

 俺んちの Aランク冒険者も消えち……、いや本部で確認したところ、死んじまったようなんですが。心当たりはございませんか」

 「何が言いたい」

 「いえね、噂になっちまってんですよ。兵士様が 組合うちのAランクを始末したんじゃねえかってね」

 「そんな事をして、兵士に何の利がある」

 「えっ」

 組合長には予想外の答であったようだ。


 「あれ等は 私の私兵だ。定期的に給金が出て、不自由なく暮せていた。あの馬車に乗っていたのは『ソーレン家のゴミ』ばかりだ。

 それを生かして、今迄の生活を捨てるだけのメリットがあると思うか。半分ほどは 妻子持ちでもあった」

 「……確かに(えな)」

 「仮に 裏切ったとしても、この先 どこにも行き場が無い。それに あの荷物は足手纏いにしかならない」

 「親御さんの、侯爵様のところとかは」

 「それも無い。この計画は、侯爵も黙認されている」

 「へぇーっ」

 ――ちっ。人情もクソもねぇな。これが貴族様の本性ってか。


 「それで、今回 伺った件なんですが、降りる理由は ご存じでしょう。組合は 貴族同士の争い事には、加担出来ねぇんですよ」

 冒険者組合本部は、この件を『貴族同士の争い』に巻き込まれた事件、と判断したのだ。

 「そうか」

 「ですが、Aランクを始末した奴の捜索は続けますんで、その辺りは ご配慮頂けますでしょうか」

 これは 襲撃場所と、冒険者が殺された場所が違う事からの判断だ。相手が貴族である可能性が高いという事もある。

 「分かった、騎士には引き上げるよう通達しておく。そうだな、3日もすれば全員に行き渡るだろう。それまでは 争い事が起らぬよう配慮するように」

 「分かりやした。明日から5日間、捜索を中止致しやす。で、今迄の『強制依頼』に対する報酬なんですが……」


 伯爵は 冒険者組合長が屋敷を出たのを確認して、小さく呟いた。

 「無能な ゴロツキ共め」

 『その ゴロツキ共の調査能力は、非常に優秀で正確ですよ』

 『結果が出ていない』

 『いえ、はっきり結論は出ております。

 あの54人の中には、我等「陰」の者が 4人含まれておりました。

 それ等からの連絡も「襲撃する」「予定通り進行中」と連絡があった後、一切の応答が出来なくなりました。まず 間違いなく死亡しております。

 加えて 冒険者組合本部の記録と照合した場合、兵が襲撃した時間と、Aランクが死亡した時間には2時間ほどのズレがあります。

 これは看過出来ません。何故なら襲撃が成功した事を意味するからです。

 ですが 結果として、全員死亡です。これ以上の調査は 意味がございません』

 『襲撃には成功したが、その後「陰」の者が 逃げる間もなく全滅させされた。Aランクは その後、何者かに抹殺された、と』

 『さようでございます。そして 相手の人数は分かりませんが、その強さは尋常ではありません。4人の「陰」を逃げる間も与えず殺害するためには、大魔法使いの広範囲魔法でも使わない限り不可能です。冒険者など 一溜りもなかったかと存じます。

 そして 恐ろしい事に、一片の痕跡も残しておりません』

 『それ程の者なのか。だが、もし荷物共が生きていて そのまま連絡が全く無いというのなら、戻る気が無いのだろうな。

 これでは まるで、我等が捨てられたようだ』

 『如何なさいますか』

 『元々 捨てるのが目的。それは十全に果たせている。捜査は取り止めだな』

 『侯爵様に確認願います』

 『分かっている』


 伯爵は、即刻 侯爵に連絡した。回答は「以後の捜索は不要」。捜索隊は解散する事になった。


 その後 この屋敷から、白い梟が飛び立った事を知る者はいない。



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