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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
13/20

(13)エイミの回復は順調か


 現場から かなり離れた森の奥。

 感覚的に丘より少し高く、周辺の町では山と呼称されている その頂上に、異様なモノが建っている。


 カイムが 毎晩、就寝時に作っている、土魔法で出来た くびれのある塔。だが それより遥かに大きなモノである。

 高さ20メートル、天辺てっぺんには、周囲を 高さ2メートルの壁で囲まれた 半径18メートルもある円形の土地が存在する。そこには 1辺3メートルの立方体、箱家が3個 置いてある(この内2個は アインスに頼み、追加購入した)。

 箱家以外の場所の一部には、芝生が敷かれている。くだんの3人は、そこで雑談中だ。


 「ここで 暫く待機する。ここからでも、あの場所や その近辺を監視出来るからな」

 「暫くって」

 テイナは不安気だ。

 「ほとぼりが冷めるまでだ。

 心配は要らない。この塔には 強力な『認識疎外ステルス魔法』を掛けている。

 しかし 54人の現役軍人と、Aランク冒険者が10人が死んでいると予想される事件だ。

 あーっ。本来の目的は こっちだったのに、忘れられてるが 貴族も6人。これは 目的から考えると、死んでいるのを確認かな。と言うわけで 簡単には諦められないだろうな」


 「私は どうしたら良いのでしょうか」

 エイミは自身の首に装着されているモノが気になるのか、指で手触りを確認している。

 ――思ってたより肌触りは良いのね。


 「この件が片付いたら 自由にして良い。俺が君を連れて来た理由は それの装着だから。

 言っておくが、装着している その特製・奴隷環は、もう外せない。

 なにせ 俺達に関係する情報は『生涯、如何なる方法によっても開示してはならない』が 唯一の条件だからな。

 その環は、1週間もすると 肉体と融合・同化して、視認出来なくなるし、それは 他の、どんな方法でも識別不可能だという事だ。

 そうなれば普通に暮らせる。そういう仕様なんだ」


 「私のとは 全然違うんだ」

 テイナは不満そうだ。

 「忘れたのか。お前のは『犯罪奴隷』用なんだから、違ってて当然だ」

 カイムが しっかり違いを示す。

 「エイミは、犯罪奴隷でも 借金奴隷でもないからな」


 話が このまま別の方へ行ってしまと困るので、方向転換を試みるエイミである。

 「ところで 私の麻痺は治るのでしょうか」

 「あぁ、そうだったな(忘れてた)。

 時間もあるし、これから調べようか。じゃ、邪魔だから そのビラビラの服を脱いじゃってよ」

 「えっ」「えぇーっ」

 女性2人は 大声を出したが、カイムには何の事か分からない。服を着た儘で 診察・治療など出来ないからだ。


 一言。

 カイムは 決して鈍感なわけではない。女性に対してだけ『無意識』に拒絶反応が起こり、性別の違いによる価値観が分からなくなるだけだ。


 「そういや、自力では脱着 出来ないんだったな。テイナ、手伝ってやれ。面倒だから全部 脱がせろ」

 「……」「……」

 女性2人が小声で相談する。

 「他意は無さそうですね」

 「何だか悔しくありませんか」

 「確かに。ですが、服の上からでは 診察・治療が出来ないのも事実です。済みませんが 手伝って頂けますか」

 「はい。良いのですね」


 カイムには、何を ゴチャゴチャ揉めているのか理解出来ない。

 何だか 時間が掛かりそうなのと、茶色の解毒液を使っての治療が可能な場合を想定して、準備する事にした。


 エイミが飲まされた麻痺毒を、茶色は知らないからだ。その対策が必要になる。

 そして その麻痺毒を、カイムは知っている。

 あの サテン語で書かれた手紙に記されていたモノだ。それを 少量だけ造り、茶色に与えて耐性を付ければ良い。

 ――茶色スライムは それに耐えられるだろうか。やってみないと分からないか。


 カイムは黙って席を外した。

 女性陣は それを配慮だと誤解したようだ。


 茶色スライムは、あの麻痺毒への耐性を付ける事が出来た。つまり解毒も可能になった。

 ――これで あの麻痺毒を茶色スライムの液で治せる。

 だが エイミの場合、原液では強過ぎる。彼女のは『後遺症』なのだ、希釈液を用意しておこう。


 もし これでダメだったら、白魔法による治療しかカイムは知らない。つまり、あの本を読破するまで 先延ばしにするしかないのだ。

 だが、それは杞憂に終わった。


 体内に直接魔力を流し込む方法で 診察を済ませたカイムは、真っ赤な顔をしている 素裸のエイミに、結果を告げる。

 「うん。これなら『麻痺』の後遺症は、完全に消せる」

 「本当ですか」

 「こんな事で嘘を吐いても意味無いと思うけどな。テイナ、エイミを抱いて 付いて来い」

 「は、はい」

 テイナも 真っ赤な顔をしている。全裸のエイミは 女性から見ても、綺麗で魅力的だった。

 カイムには分からないようだが。


 「俺が指示したら、この槽に エイミを入れろ。

 面倒だが、浸かってる間はテイナ、付き添ってくれ。支えてないと、倒れて溺れてしまうからな。

 そうそう、注意事項。液は絶対飲むな。麻痺毒より危険だからな。それと もし水温調整が必要なら、テイナが対処しろ」

 「それは 私自身で可能です」

 ――確かに そうだった。


 エイミも魔法が使える。むしろテイナより上手に。彼女には 生活魔法と四大魔法、その全てに適性がある事を カイムは知っている。

 ――魔法使い程ではないが、それでも 中々の素質だ。この娘を捨てるとか、そこまで無能とは思わなかった。

 貴族は上位でも 鑑定を使えないのか。


 「分かった。好きにしろ。

 エイミ。ここに2時間も浸かれば、『麻痺の後遺症』自体は完全に治る。

 だが、使っていなかった筋肉は そう簡単には戻らない。それは分かるな」

 「はい。半年以上 使っていませんから、かなり筋肉が落ちているのは自覚しています」

 「なら良い。後の リハビリテーションは大変だが、頑張れ。

 じゃ、後の事は テイナに任せる」

 「分かったわ。先ずは2時間の入浴だね」

 「はい」

 テイナが そっとエイミの体を 液に浸していく。尻が底に付くと、胸の下 辺りまで浸かる。

 カイムに向かって声を掛ける。

 「良いよ」

 「じゃ、始めるぞ」

 カイムは砂時計を 浴室の窓際に置いて、半回転させた。


 ■■■


 『義父とおさん。また面倒な資材を送るけど、処分してくれないかな』

 『ほう、また貴族の衣服や装飾品かい』

 『それも多少は あるけど、殆どは 軍関係らしい装備なんだ。54人分あるんだけど』

 『軍の装備だって。それが54人分もかい』

 『そうなんだだ。無理だったら、こっちで処分するけど』

 『いや、送ってくれ。こちらで返送するモノを調べて 対処するので、心配は要らないよ』

 『助かる。面倒掛けて ごめん』

 『いや、頼ってくれて嬉しいよ』


 カイムは その時、うっかり エイミのモノも一緒に送ってしまった。後日 気付いたが、それこそ『後の祭り』である。


 ■■■


 白色スライムは テレポート能力を持っている。魔法とは違い、技能としてである。

 白色を持ったまま(背負い袋(リュック)に入れてでも良い)だと、一緒にテレポート出来る。その距離は 初期設定では、視認可能領域内限定で5百メートル。

 そして 1度行った場所は記憶され、何度でも同じ場所に移動出来るようになる。これは距離に関係ない。

 加えて、その記憶は 全ての白色に共有される。スライムの記憶力が どの程度かは分からないが、今のところ 彼等は便利に使えている。


 これで カイムとテイナは、町に行って生活に必要な物資を調達する事が出来るようになった。

 エイミは 顔を知られている可能性と、なるべく リハビリテーションの時間を多く取るために、この場所から離れる事は出来ない。


 この塔に籠って1箇月が過ぎたが、捜索者の影は消えない。エイミのためには良い事なのだが、他の2人には退屈で、ほぼ毎日 外出している。当然、行先は違う。


 エイミは 快適にリハビリテーションに励んでいる。

 何せ ここには、可愛い猫と、銀色の綺麗な小鳥、真っ白で小柄な梟が 大量に居るのだから。そこら中を跳ね回る 色違いのスライムの存在も忘れてはいけない。

 楽しければ 何でもはかどるものだ。彼女のリハビリテーションは、予想より 遥かに順調である。


 エイミが今 着ている服は、テイナのモノを調整して使っている。この方が ずっと動き易いからだ。少しダブついてはいるが、大した問題ではない。

 彼女は 自身の着ていた全ての服が、下着を含め、既に存在していない事を まだ知らない。


 「大分 育って来たわね。この儘だったら 薬草畑が出来そうね」

 テイナは あちこちに飛んで、薬草の苗を運んで来ている。それを空地に植えたのだ。

 ――薬草の栽培か。思い付かなかったな。


 植物が育つのも当然だ。もう あれから2箇月に近い。


 そろそろ 諦めても良いだろうに、冒険者や騎士が 不定期に見回って、あの場所を通り過ぎている。

 ――本当に、鬱陶しい奴等だ。別の場所で もう2つ、3つの集団を全滅させたら、来なくなるかもしれないな。


 「カイム。何か物騒な事を考えてるんじゃないでしょうね」

 テイナの言葉に、カイムは はっと気付いた。

 ――どうも ヒトと関わるのが少ないせいか、ヒトと魔物への対処方法が混乱している。閉塞感からの焦りか。

 この儘だと こちら先に参ってしまう。そろそろ ここを離れた方が良さそうだ。


 「ふぅ。もう少しで 奴等と同じ舞台に上がるところだったよ。

 ありがとう、テイナ。

 ところで、町や村の様子に 何か変化は無いか」

 「そうね、町や村 そのものは特に変わっていないわ。ただ、(冒険者)組合が、殺気立ってるわ」

 「それは、Aランク冒険者の件だな」

 「そう。だけど、対象が変わってるのよね」

 「対象って。意味が分からないんだが、何が どう変わったんだ」

 「最初は騎士と同じ目的で動いていた、のは、知ってるわね」

 「あぁ。それが どう変わったんだ」

 「軍と騎士、いえ この場合は『貴族そのもの』を疑ってるわ」

 「意味が分からないが」


 テイナが ソレを思い出し、可笑しさに耐えて 目尻に涙を滲ませてている。

 「ククク……。つまりね、Aランク冒険者を過大評価してるのよね。吹き出しそうになって困ったわ」

 カイムは 何の事か分からなかったが、最も可能性の低い、普通に考えて無理がある事柄に気付いた。

 「……まさか それって、軍人5人掛かりで Aランク冒険者1人を倒したってか」

 「あら。良く分かったわね」

 「バカじゃないのか。明らかに軍人の方が強かったぞ。戦えば、1対1でも Aランクの負けだ」

 「軍人54人に勝った カイムが言うの」

 テイナは呆れ顔だ。

 「軍人は対人戦闘の専門家だ。あれは奇襲だったし、同時に全員を倒せたので勝てた。1対1で、勝てるわけがない」

 テイナが 上目遣いで、目を細めてカイムを睨む。

 「何だよ」

 「……本当かなぁ。(カイムなら 余裕で勝ちそうだけど)

 まぁ、それが認められないんでしょうね。カードが同時に破棄されたのも疑いの根拠、らしいわ」


 カイムが「はぁ」と、溜めていた息を吐きだした。

 「俺等には 良い情報だけど。貴族と組合が対立したら、困るのは組合側だけなんだけどな。

 隙を見て、そろそろ ここを離れるか」

 ――もう少し 積極的に調べるか。


 「で、エイミの状況は どうなの」

 「リハビリテーションは順調だよ。順調過ぎるくらいだね、猫と鬼ごっこしてた。遊ばれてたけど」

 「あーっ。何だか納得した」


 エイミは順調に回復しているようだ。



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