(11)飛竜鳥を従魔にした
「今度は 黄色と茶色のスライムか。個体数が 黄色は満杯で、茶色が半分より少し多いくらいだな」
テイナは あまりのスライム多さに腰が引けている。目の前には、概算で150頭は居るのだ。
『じゃ、代表を1頭づつ残して、他は 自由にしてて良いぞ』
スライムが 色違いの2頭を残し散って行く。テイナは、これにも目を見張った。
カイムはテイナにも『念話』を教えた。なので、波長っている彼女にも スライムへの命令内容は聞こえている。
実は テイナはカイムと同じ波長しか使えない。だから、スライムからの応えまでは 感じ取れていないのだ。
それが テイムが使える『念話』の限界である。
彼女は元から『魔力量』がカイムと比べて、かなり少ないのだ。
『さて黄色いの、お前の能力は何だい』
そのスライムは 横を向き、近くにあった樹木に 液体を吹き掛けた。すると、ソレが付着した部分が灰色に変わり、幹全体に拡散して十数秒で 木の全てがソノ色に変わった。
近付いて その表面軽く叩くと、軽い音がする。カイムが 感心したように呟く。
『石化か』
『〇』ジャンプしている。
『まだ何かあるのか』
『〇』
スライムが同じ木に、再度 液体を吹き掛ける。すると 徐々に石化が解除され、元の木に戻った。
『ほぅ、石化解除も出来るのか』
『〇』
『へぇ。やるじゃないか』
黄色スライムは ジャンプしながら仲間の元に行った。
『じゃ、茶色だな。お前は 何が出来るんだい』
『△』
『説明が難しいのか』
『〇』
『じゃ、説明出来るモノを持って来てくれ』
『〇』
少し待っていると、青色が虫を追って来た。普通のと毒虫が どちらも2匹づつ。
――そういえば、青色は気が利くなぁ。
『ありがとう』
『〇』
カイムは 虫を深皿に、分けて入れながら確認する。
『これがサンプルになるのか』
『〇』
茶色スライムが虫に液を吹き掛けると、ソレが仰向けになって動かなくなった。
『死んだのか』
『×』
『生きてるんだ。じゃ、どうなってるんだ。そうだ こっちの皿に少し出しててくれ、後で調べる』
茶色は言われたように液を出したが、何だか不満そうだ。
『△』そしてジャンプ。
『まだ 続きがあるのか』
『〇』
『よし、やってみろ』
茶色が 裏返しになった虫に、再度 液体を掛けると、ソレが元気に動き出した。
『えっ。まさか 麻痺毒だったのか』
『〇』
『治療も出来るんだ』
『〇』
『これは役立ちそうだ』
茶色が ジャンプしながら仲間の方に向かって行った。
「凄いですね」
カイムが茶色から入手した 液体の入った皿を、収納に片付け終えた時、それを待っていたように テイナが声を掛けて来た。
「従魔の数。それとスライムと会話が出来るなんて」
「あぁ。あれは 会話なんて代物じゃないよ。単なる意思疎通だ。合否しか分からない。質問の仕方を間違えると 全く通じないんだ。
スライムの総数は、ざっと 4百頭と少しくらいかな」
テイナにには視認出来ないが さっきの(黄色と茶色)スライムの他に、猫や梟がいる事を知っている。
他の色を持つスライムの姿は 彼女には全く確認出来なかったし、やがて 茶色スライムも姿を消した。
「放し飼いにしてても良いのですか」
「あぁ、問題ない。何かあれば連絡が来るし、狩りは自由にさせた方が良いだろう。それに、巣は こっちにあるからね」
カイムは 空間魔法として、収納もテイナに見せている。従魔の事を知っている彼女に、その住処(巣)を教えないのは不可能だったからだ。
突然、カイムの左肩に花梟が出現した。
「えっ」
とっさに テイムは身構えたが、ソレを見て緊張を解いた。彼女は右側に居たのだ。
今、真っ白の大きな翼を 三重に畳もうとしている。最近の彼が 肩当てをしているのは、このためだ。
体高 約15センチメートル、小さくても猛禽類の姿形をしている。鋭い爪は、普通の衣類だと簡単に突き破る。
ローブは問題無いのだが、梟か留まるのに不便だかららと 少し硬めのモノを着けている。
「本当に、全く気配を感じさせないな。テイナは よくこんなのを倒せたものだ」
「いえ。倒したといより、爆発したのです」
「爆発って。水の魔法だったよな」
「……はい」
ポトリ。
カイムの眼前に 何かが落ちた。
『うん、土産かい。これは鳥だね』
時々 花梟は、こうやって土産を持ってくる。虫だったり、こんな風に小鳥だったりする。魚の時もあった。
だが、今回のは 何か違う。
「生きてるのか」
花梟が カイムの頬に頭を摺り寄せて来る。
『珍しい、従魔に、する』
『おぅ。そうか、ありがとう』
カイムは 銀色の羽毛を持った、翼を含めて8センチメートル程度の小鳥を、そっと 手の平に乗せながら、梟の頭頂を掻いてやる。
そのまま 無詠唱で白魔法を発動。その消えかけた命の灯を復活させると同時に、従魔術を施した。
「これって、『飛竜鳥』じゃないか。良くこんなのを捕まえたな」
『どうやって捕らえたんだ』
『木、留まって、た』
「飛竜鳥ですって」
驚いたテイナが 大きな声を上げると、気絶していた小鳥が 跳び起き、そのまま 垂直に飛び上がった。
もの凄い速度だ。一瞬で視界から消える。
「あーぁ、飛んで行ってしまった。あれって、間違いなく音速を超えてるな。流石だ」
「あ、あの。あれって、飛竜より捕獲が難しいって言う、あの飛竜鳥ですか」
「小型な上に あまりに速過ぎて目で追えない。硬くて 鋭い嘴を持っているから、金属の網でも容易に突破する。罠を仕掛けても 超音速の衝撃波で破壊される。飛行中のアレは無敵だろうな。
ドラゴンの腹でも 突き破れるだろうと言われている」
「そ、それを この花梟が捕まえたの」
ブルリと 寒気がしたテイナだった。
それは まだ、彼女が普通の感性を持っているからに違いない。
「すぐ戻って来ると思うけど、ちょっと危ないかもな」
『危ないぞ、収納に戻るか 衝撃波に備えろ』
収納の外にいる従魔達に、落ち着いた念話で 注意を促すカイムは、少し可怪しな神経の持ち主なのかも知れない。
十数秒の後、結界内にいるカイムとテイナの外は 衝撃波の2連撃で、轟音と共に 直径約50メートル、地表からの深さ 約3メートルまでが粉砕されて、全てが消し飛んだ。その暴風で 粉塵さえ残っていない。
銀色に輝く小鳥は、小さく羽撃きながら カイムの目前でホバリングしている。
『おかえり』
『私、捕まったのね』
カイムは周囲を見回して言った。
『そう。だから、もう こんな事はしないでね』
『分かった、注意する。ちょっと出掛けたいけど、良いかな』
器用に首を傾げて 小鳥が問う。
『あぁ。(片付けでも あるのかな)好きにして良いよ』
『ありがとう』
飛竜鳥は 一瞬で姿を消した。
テイナは、この鳥なら きっと、本当にドラゴンを倒せるに違いないと思った。