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奴隷商人の養子になって  作者: うたり
10/20

(10)奴隷テイナは、Dランク冒険者


 花梟が、元気になって飛んでいる。


 この魔物は 昼間に少しづつ休んでいるのを見掛けたが、ほぼ昼夜関係なしに活動出来るようだ。

 昼前から 外に出ている。そして 日の落ちた今は、どうやら餌を求めて飛んでいるように見える。

 時々 急降下しているからだ。

 ――こいつも 放し飼いにしようか。


 「あなた、従魔術も使えるのね」

 「いけないか。俺は 見習いだけど、一応 魔法使いなんだ」

 出来て当然。そのように聞こえる。

 「いえ、別に……」

 「この前、スライムを見てただろうに」

 「あれも そうなの」

 「あいつ等、俺の言う事を ちゃんと聞いてただろ」

 「そうだったわね」


 ダイセの思いは複雑だ。

 未成年、多分 幼い頃から訓練を受けていたのだろうと想像できる。

 それでも 生活魔法、四大魔法に無属性の治癒魔法。それに加えて従魔術、剣の腕も彼女より上なのだ。

 自身が「冒険者失格だ」と宣言されているような喪失感がある。


 ――私だって頑張って来たのに。

 あの時 攻撃されたのは火魔法だった、広域の水魔法も披露された。剣技に至っては 全く相手にならなかった。

 野営の時には 土魔法を使って塔を造り、空中に浮いたのは風魔法だろう。

 「はぁ」

 小さく溜息を吐いた。


 ダイセは、カイムと会ってから もう何度も野営している。

 勿論 彼女は見張り役だから、結界の中ではあっても自身のテントで寝ている。


 他意があるわけではない。実は カイムの使っている箱家は狭い。

 1人用ベッドと 机などの最低限の家具、そしてキッチンを含む水場がある。これ等は 全て作り付けなのである。

 元より 2人分の広さは無いのだ。


 ダイセは、ずっと疑問に思っていた事を質問した。

 「野営ばかりしてるけど、町では泊まらないの」

 そう。カイムは 町に寄る事はあっても、そこに宿泊する事は、彼女の知る限り一度も無かった。

 必要な買い物を済ませば まるで家に帰るように、町外に出る。

 「こっちの方が ずっと安全だ。

 それに 町では、不愉快な思いしか感じた事が無い」


 まぁ。一番 恐ろしいのはヒト、特に犯罪者が危ない。そんな事はダイセも分かっている。

 だが それでも、ずっと ヒトと離れていて大丈夫なのか。

 彼女は カイムが毎夜、義父と話している事を知らない。それに 今は、絶対安全な(奴隷環を着けている)ダイセも居る。

 完全にヒトと隔絶しているわけではないのだ。


 「例えば どんな」

 「そうだな、貴族が1番不愉快だ。傍若無人というか、能力も無いのに 尊大で傲慢だ」

 カイムの貴族に対する嫌悪感は、ダイセが引きそうになるほど激しい。

 あまり深入りすべきでないと感じた彼女は、すぐ話題を変えた。


 「何で あなた、冒険者にならないの」

 「いい加減『あなた』は止せ。カイムで良い。

 俺にとって 冒険者には、全くメリットが無いからだ。

 第一 俺はまだ、14歳の年だからな」

 「まさか、14歳って」

 カイムは 彼女より、かなり背が高い。ダイセの身長は165センチメートルあるのにだ。

 「君に嘘を吐いても仕方ないだろう」

 「確かに……、そうね」


 奴隷環には そういう機能がある。

 環を外した時点で、装着されていた時の感情だけをリセットする魔法が作動する。

 理由は、理不尽な復讐を防ぐためだ。

 同時に、元主人の情報は『如何なる方法でも』開示する事が出来なくなる。これは 環を着けている今も同じ。

 だが 奴隷環を着けられたからと言って、初期設定を除けば、何でも言う事を聞かなくてはならないわけではない。

 それこそ 理不尽な要求は拒否出来る。更には反抗しても問題は無いし、逃亡だって可能だ。

 しかし 逃亡すると、奴隷環は 生涯外せなくなるのだ。


 ■■■


 彼等の 少し先にあるのは、かなり大きな町だ。今日は ダイセが、不足して来た消耗品の買い出しに行く。

 ――ここなら きっとあるわ。

 彼女には 消耗品の他にも、必要な物があるようだ。


 「そこの町で『冒険者登録』をして来ると良い。Dランク『固定』でな。当然 偽名でだけど。それが これからの、君の本名になる」

 「私には Cランクの資格が無いと言うのね」

 「そう。この命令が理不尽だと思うなら、従わなくて良いよ」

 ――従わない選択肢は無い。私自身が そう思っているのだから。


 実は違う。カイムは 冒険者組合が、Cランク以上になった冒険者の個人情報を管理している事を知っているからだ。

 身近に そんな存在を置けるわけがない。


 「この付近で採取しながら待っている。ところで 新しい名は決めたのか」

 「テイナにするわ。祖母の名なの」

 「オーケイ、テイナ。チャッチャと済ませて来な」


 門を抜けると大通りがある。

 道の両側に 商店等の建物が並び、賑やかしい。門から一番奥まった 人通りが少ない区画には、貴族の館群が見える。

 ――どこの町も大差ない構造をしているのね。


 ダイセ改め テイナは、町に入り そのまま防具屋に直行、中古の皮鎧を購入し装着した(元の防具は カイムに壊された)。この町は品揃えが良い。女性に合うモノは少ないのだ。

 その後 雑貨屋に向かい、使ってしまった消耗品の補充もしておく。その他 必要な買い物も済ませた。

 いよいよ 本命である、冒険者組合の建物に向かう。


 ――視線が痛い。

 それは、彼女の首に着けられた奴隷環を認識した者達の 好奇の目、憐みの目、蔑みの目だ。

 奴隷が冒険者になる事は さして珍しい事ではない。

 現時点で 彼女は24歳の年。この中途半端な若さで『奴隷』になる者が珍しいのだ。


 「新規登録を お願いします」

 そして この年齢での新規登録も珍しい。

 「文字は、どの程度使えますか」

 受付嬢が確認する。識字率の低い この世界である。

 「読めますが、名しか書けません」

 「では 聞き取り記入した書類で登録を進めます。読み上げますので回答して下さい」

 小声で幾つかの問答をして、その回答内容を 受付嬢が申請書に記入していく。


 「では 確認して頂き、問題が無ければサインをして下さい」

 最低限の項目を記入した新規登録申請書を、受付嬢が申請者本人に返す。

 元より 書類の内容など知っている彼女は、それを受取り ざっと確認して『テイナ』とサインした。


 「希望ランキングは ございますか」

 あるじに指示された通りに応じる。

 「Dランク『固定』で」

 受付嬢が 奴隷環をチラリと見て、確認する。Dランクでの固定は珍しいのだ。

 「Dランクで『固定』にするのですか。それは ご主人の意向なのでしょうか」

 「そうです」

 事実を述べる。嘘を吐いても仕方がない。

 「この魔法具に掌を乗せて下さい」

 「はい」

 ――そういえば 以前Dランクになった時にも同じ事をしたな。


 魔道具に装着されている水晶球が光る。これで『人殺し』の証明がなされたのだ。

 「資格は確認されました。

 では カードを作成しますので、暫く お待ち下さい」


 少し横に身体を移動させ、受付台を避けて場所を空け、待機する。これは冒険者にとって 受付けを待つ当然の態度、不文律のようなモノだ。しかし、彼女が それを知っている意味が分からない者は、ここには居ない。

 当然のように からむ輩がやって来た。

 「お前、元から冒険者だったのか」

 「……まぁ、そうだ」

 答える必要なないが、無視すると面倒事になる場合がある。

 「カードは 奴隷になって破棄された」

 不躾な質問に、カッと血が昇る。

 「その通りだ。何か文句があるのか。さっきのを見てたんだろう。私は『人殺し』だから、Eランクには戻れないんだよ」

 「そ、そう怒るな」

 「じゃ、話し掛けるな」


 彼女が目を閉じて 暫く待っていると「テイナさん」と、声が掛かる。

 受付へ行くと、カードが出来ていた。

 「確かに お渡ししました。失くさないように」

 「あぁ、問題ない。(収納)袋に入れておくので」

 これもまた 冒険者の常識である。

 テイナが 言葉通りに、全く迷いなく実行するのを見て、受付嬢が確認する。

 「再訓練を受けられますか」

 「いや。不要だ」


 ――これでダイセは居なくなった。

 新たに Dランク冒険者・テイナが誕生したんだ。『固定』だから、無理をして強がる必要も、実際に強くなる必要もない。


 テイナは 何だか、スッキリして全てが更新された気分になった。彼女は そのまま納品場に向かい、途中で採取したモノを清算する。

 この代金は カイムが取っても問題ないのだが「自分の事は自分でしろ」と言われた。

 財布や銀行内の預金(取出しだけは可能)に関しても、以前と変わないまま 自分の物として使うように言われている(勿論 預金は、全て引き出している)。

 この待遇は普通ではない。

 ――私は かなり変な『犯罪奴隷』だな。


 そう、彼女は犯罪を犯した。今は はっきり自覚している。


 該当地域における 一定範囲内の『生態系の破壊』と『魔物の大量発生』を誘発する行為を行い、それを阻止しようとした『人を攻撃』して、捕縛された。

 1件でも重罪なのに、彼女の場合は3件が該当する。

 犯罪奴隷の拘束期間は 元より長期なのが普通で、悪質な場合は無期限になる。最悪の場合は死刑だ。

 テイナの場合は、間違いなく『悪質』に該当する。死刑にならないのが不思議 程度には。



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