お忍びの旅
空にはエミル君とイアソーさんが乗っている天空船がのんびり進んでいる。一見すると雲に見える。
私たちは、書記のグレイ君、今回初参加なんだけど、名前を言っただけで自己紹介が終わった。准将に昇進予定のハーベスト元大尉、いちおう対外的にはハーベスト准将って紹介するけど。
私のお付きのゆきちゃん、今回やっと熊君たちの世話から外れてやや興奮気味。そしてヴィクターにウエルテルにマリアにニコラ。8人でお忍び旅ってないわ。このメンバーはかなり目立つ。
山の上に百人前後の兵士、山の下に同じく百人前後の兵士が睨みあっていた。両軍ともに動きがなく相手の出方待ちって感じがする。
ハーベスト元大尉の作戦は私たちが山の上の部隊の後ろを攻撃して、前方の部隊にぶつける。どちらの兵士もヤル気はないので、ケガ人は出てもよほど運が悪くなければ死人は出ないはず。
私は山の上の部隊の後方を襲撃したら、あっさり山の上から山の下の部隊に向かって、突撃ではなく、押し出されたって感じで山を下った。両軍が衝突したものの、出来れば戦いたくない人が多い。パニックで剣を振り回してる人がいたけど、力尽きて勝手に倒れた。
「ハーベスト元大尉、両軍の指揮官が見当たらないのですが」
「両軍の指揮官とも安全な洞窟に逃げ込んでいます、入口が二つあったのでそれぞれの入口に入りました」
「もっとも洞窟の入口は二カ所ですが出口は一カ所なので同時に撤退すると遭遇戦は避けられないです」
ヴィクターとウエルテルがそれぞれの洞窟に爆破魔道具を投げ入れて、煙の魔道具もその後放り込む。で、私が煙を内部に送り込んだ。
双方が出口で遭遇して「卑怯者」とお互いが言っている。「正々堂々戦え」とか口喧嘩をするだけ。私としては指揮官同士が決闘をしてその勝者の言い分を通したい。
いつまでも口喧嘩だけなので、私たちが登場して双方の言い分を聞いた。
「なぜ、両軍睨みあっていたのでしょうか?」
「我々の国境をアイツらが越境してきたからだ」
「アイツらが我々の国境の中に侵入したからだ」
「つまり、国境が不明ってことですね」
「国境ははっきりしている。アイツらがそれを認めないだけだ」
「なら新しい国境を天界の人に引いてもらいましょうね」
天空船から強烈な光が地上に放たれてはっきりとした境界線がひかれた。
「何を勝手な事をする」と双方の指揮官が叫ぶのでそれぞれの背中を軽く押して幽体離脱させて、天空船に乗ってもらった。
上から見る眺めは良かったようで、二人とも上機嫌で? 天空船からで戻って来た。戻って来るなり二人とも堅い握手交わして「この国境線は素晴らしい」って泣きながら言っていた。天空船で何かあったのだろうか?
次の内乱の種は厄介だった。跡取り息子と跡取り娘が恋に落ちて駆け落ちして、どちらの家が二人を匿まっていると双方の家が思い込んでいる。それと長年の領土問題が絡んでいた。私の使い魔とエミル君のスキルで二人は他領で幸せに暮らしていることがわかった。
使い魔にお二人の意向を聞くと今がとても幸せなのでそっとしてほしいと言われてしまった。お子さんができたら領主にする気はって尋ねたら断られた。
双方の領主には二人は元気にしていると伝えたら、迎えに行くと言うので、バイエルン領内なのでいつでも軍を送ってほしいと啖呵を切った。
ホーエル・バッハとバイエルンの最終決戦が間も無く起きるのは楽しみだとも言った。
境界線は天界の神が決めるので、その境界を守るようにと助言はした。守らなければどうなるのか私は知らないっと捨て台詞を言って、退席した。一応戦闘は終わったけれど、対バイエルン領への侵攻作戦を立てているらしい。
よくわからないのがグレイ君だ。発言はまったくしない。ただ決まったことはすぐに文書にするので役には立っているのだけれど、交渉役で私について来てると思っていたので、意外だった。交渉役ではなくて本当に書記で来てたんだ。
交渉はなぜか軍人のハーベスト元大尉(准将)とウエルテルがやっている。なぜウエルテルが出て来るのか? 本人はうっかり言ってしまうと反省している。
もっとも最後は私がキレて強引に終わらせているので、反省しないといけないのは私だったりする。
 




