冬山登山
私は学校に戻って来た。生徒の数がかなり減っている。大貴族の子弟も中小貴族の子弟も減っていた。
教師の数も減っていて一人の教師が2科目も3科目も教えている。内乱を早期に終結させないと、王立魔法学校そのものがなくなるかもしれない。
私に出陣要請があればすぐに出陣するのだけれど、私が出陣すると大貴族の面子を潰すので、大貴族から出陣要請がない限り出られない。人の生命と暮らしより大貴族の面子って最低だと思う。
「ヴィクター、ウエルテル、ニコラ、元気だった? ところでどうしてマリアがここにいるの?」
「校長先生が、私の安全を確約されたので、登山には参加出来ました」
「冬山が抜けていますけど?」
「ギンムガンプ山に登る事になった、冬山ではなく」
「ギンムガンプ山って私、その山の名前を聞いた事がないけど」
「エマは確か魔王の国に行ったらしいね。その時高い山を見なかったかな」
「北の国の山はどれも高くて山頂はいつも霧に覆われて見えなかったの」
「その北の国の山並みで一番高い山がギンムガンプ山、万年雪の山と呼ばれている」
「冬山ではないけれども、危険度は最高ランクだと思う」
「冬にギンムガンプ山に登るのは自殺行為だと言われている。それでも毎年誰かが登って亡くなっている」
やはりウエルテルは登山について詳しい。
「校長先生はギンムガンプ山の中腹に登山記念石像を置いて来たのでそれを持って帰って来るだけ。課題を簡単にしたと言って両親を説得してくれたの」
後で聞いたらローレンス校長ですら中腹まで登るのが限界だったらしい。私たちは秋の初めではあるけれども完全な冬山装備で、ギンムガンプ山に登った。
「ウエルテル、道がないよ。前は崖なんですけど、道を間違えた?」
「土魔法で足場を作って登って行くんだよ、エマ」
ウエルテルが以前、私くらいの魔力量がないと死ぬ人間が出ると言った意味を実感している。でも、ニコラもヒーラーとしての腕を上げているので、中腹までなら楽勝だと思った。
自然は残酷だ。急に天候が崩れて、崖を登っている最中に突風が吹いて体が飛ばされそうになった。風を遮るものがないので、私が常時風が直接当たらないように空気の流れを変えている。地味に体力が削られる。
「山を舐めると間違いなく死ぬ」とポツリとウエルテルが言った。
おそらくローレンス校長に向けて言っている。
「もう少し登るとギンムガンプ山の空気が変わる、幻覚とか幻聴が聞こえる様になるので、自分の目と耳を疑って、近くの子に確認しあってほしい」
「とくに先頭のエマは、一番後ろにいる僕に確認してほしい、道があると思ったら、割れ目だったりするから」
「私、割れ目に落ちてからウエルテルに尋ねそうだわ」
私の場合、ヴァッサを使えば飛べるから、転落死は慌てなければないはず。きっと大丈夫だと思う。たぶん。
崖を登るとそこはお花畑だった。「ウエルテル、お花畑が見えるよ」
「僕にも見える、ギンムガンプ山にしか咲かない高山植物だと思う」
私の知らない花が咲いている、採取しようとしたら「エマ、自然に咲いている花を採取するのはよくない」って注意されてしまった。なぜダメなの? 少しくらい良いじゃないと私は思ってしまった。
お花畑を迂回した岩肌の道を歩くことにした。
「エマには悪いけど、群生している花にはそれなりの理由があるので、少しなら良いだろうと持ち帰るのは、将来それらの花がなくなってしまうかもしれない」
「山の自然って微妙なバランスの上に成り立っている」
「そうなんだ、ウエルテル」私もっと勉強しないと良い庭師には成れない。
「今日はここでテントを張る、こっちのテントは僕とヴィクター、そっちはエマたちね、では自分たちのテントは自分たちで立ててね」
マズい、今までヴィクターにお願いしてテントを張ってもらっていたので、困ってしまった。ヴィクターをじっと見る私たちだった。
ウエルテルとヴィクターが自分たちのテントを張るとウエルテルが「ヴィクター悪いけど、エマたちにテントを張る指導、口のみ許可するのでお願いできるかな」
テントを張るのって力のバランスを考えないと上手く張れないのがわかった。誰かに頼ってばかりでは成長しない。ウエルテル、よく見てる。
 




