デイ・ウオーカー
ミカサは不思議そうに無人の村を見ていた。
「これはどうした事だ」
「村長はデイ・ウオーカーと言う奇種の吸血鬼で、村人全員が吸血鬼の眷族にされていました」
「吸血鬼たちはどこに行ったのか」
「あの村長はダンジョンマスターでしたので、ダンジョンの管理に赴きました。もしご用がおありでしたら古代のダンジョンに潜れば会いに来るやもしれません」
「眷族にされた村人も一緒にダンジョンに行ったのか?」
「はい、村長の希望でそうなりました」
「エマ、なぜ戦闘の跡がないのか?」
「戦っていませんので」
「村長の吸血鬼とその眷族はエマたちに何もせずにダンジョンに赴いたのか?」
「正確に言うと私たちとお茶を飲んでからダンジョンに向かいました」
正しくは、ディアブロさんが、ニンニクエキス配合のマテ茶を村長に飲まして、村長は鼻血を出しながらダンジョンに飛ばされたでした。
「吸血鬼は既にいなくなったと言うことで良いのだな」
「はい、おそらくですが」
「なぜ、ゆきはダンジョンに行っていない。あれは吸血鬼ではないがアンデットだ」
「ゆきさんには自分がアンデットだと言う自覚がありませんので、今はこのままで良いと思います」
「人間ではないとわかれば、知り合いのいるダンジョンに行くか、私によって浄化されて輪廻の輪に戻るのかを選んでもらうつもりです」
「エマが責任を持つと言う事で良いのだな」
「はい、私が責任を持ちます、私の侍女にして私の監視下に置きます」
私はミカサとこう言い約束をしたので、ゆきさんには拒否権がない。もし、ゆきさんが自由になりたいと言ったとしたら、私はゆきさんを輪廻の輪に戻すつもりだった。
私は治癒の神技を得ようと毎日滝に打たれている。舞のお稽古が終わると、神殿の裏山の滝に打たれている。イアソーさんは私に治癒の呪文を教えてくれたりはしない。
私は滝に打たれた後は、裏山に自生している薬草採取をして、治癒のポーションを作っている。その際、イアソーさんが別の薬草に変えた方が効能が上がるし、効能が長持ちするとかという助言はしてくれる。
ゆきさんは、治癒のポーションに触ると軽い火傷が出来てしまう。すぐに治るので問題はないけれども。
ゆきさん本人は不思議がっている。薬草アレルギーと言うことにした。
「エマ、この国の人間になれ、お前は巫女になる為に生まれて来た者だ」
「ミカサお姉様、私の夢は庭師ですので、巫女は副業です」
「しかし、舞の稽古が終われば、滝に打たれて禊の毎日、かなり辛いと思うのだが」
「確かに最初は大変でしたけど、今は日課になっているので、やらないと落ち着きません」
「エマ、本題だがこの国にも灰色熊が現れた、私はそれを退治に行かないとならない、私がいない間にお前の母親がここに来る可能性が高い」
「私と一緒に来るか? それともここに残るか? エマに決めてもらいたい」
「この屋敷は幾重にも結界が張られているので、お前の母親でも入って来れない」
「母上ならこのお屋敷以外の家々を面白がって燃やして行くのが私には見えます」
「お姉様とご一緒します。お供は出来るだけ少人数が良いと思います」
「そうか私の共はカオリだけ、エマの共はゆきだけにするか」
「陛下がそれを許可されるでしょうか? 前回の鬼神退治の時は兵士百人をお付けになりました」
「心配ない、マア隠れて兵士は送って来るだろうが、兵士では灰色熊もエマの母親の相手にはならない事は重々説明しておく」
私は母上と直接対決で死ぬのかと、既に半ば諦めている。灰色熊はミカサに任せて私は母上と一騎討ち。ウインドミルもシールドすらディスペルで消されて、ついでに私も霧になっておしまい。
「エマ、何を言っている、お前には私がついているではないか?」
「イアソー様、確かに一日中私の肩にくっついておられますが」
「今日で満願成就、やっとエマも治癒の神技が使える様になったではないか?」
「はあーー」
「私、何も変わっておりませんけれども」
「エマ、あの枯れ枝に花を咲かせてみよ」
「どうやって?」
「枯れ枝に触れば良い」
枯れ枝に花が咲いた。嘘みたい。
「では、あの咲いている花を枯らせてみよ」
花に触れたらミルミル萎れて枯れてしまった。
「死と生を司る者それが聖女だ、病を治すのも生命を奪うのも思いのままゆえ、聖なるものにしか出来ぬ、それが神技と言うものだ」
「私、そんな恐ろしい技は使いたくありません」
「そう思うのであれば使わなくても良いだけではないかエマ」
「神技を使わずとも、お前の母上とやらがお前を殺すのは無理だがな」
「私がついているのだから」