吸血鬼その2
ゆきに侍女の衣装を着せた。
「エマさん、絹ですよ! すべての布が絹です。木綿でも麻でもありません」
「これを着て村に戻ったら、取り上げられて売られる未来しか見えない」
一人で盛り上がって一人で落ち込んでいた。
「ゆき」
ゆきさんは平伏。
「ゆき、平伏は今はしなくて良い、話しが出来ない」
「姫様とお話しなどとてもとても出来ません。詳しいことはエマさんに聞いて下さい」
ゆきさんは平伏したままかたまった。
「エマ、説明する様に」
ゆきさんが吸血鬼に襲われたこと、私が吸血鬼化を止めたことを話した。
「この近くに吸血鬼がいると言うことか」
ミカサの顔付きが狩人の顔に変わった。
「ゆき、平伏したままで良い、吸血鬼に襲われた時の話が聞きたい」
「吸血鬼と言われましても、私が寝ていましたら誰かが夜這いに来まして、その後の記憶がございません」
「明日の朝、ゆきの村に行く、エマも同行する様に」
「エマさん、私、日の光を浴びて大丈夫なんでしょうか? 砂になってしまうのでしょうか?」
「ゆきさんのために遮光幕を持って行きます。あなたはその幕の中から出てはいけません」
ゆきの村に着いた。先ぶれが村の長にミカサが訪問する事を伝えていたので、村人がほぼ全員が平伏していた。
「先日亡くった娘の部屋が見たい、案内せよ」村長は怪訝な顔をしてゆきの家に案内した。
「エマ、感じるか?」
「この世のものでないものがいたのは確かです」
「窓から入ったのではなく入口から入っています、しかし時間が経っているので気配が薄れて追えません」
「エマ、悪いが囮になってもらえるか?」
「ミカサお姉様、相手も馬鹿ではないので、襲っては来ないのでは」
「王族の血が吸えるとなればどうだろうな」
「村長この部屋を借りる。私の妹とその侍女の2人が泊まるのでその様に準備せよ」
私とゆきさんは、ゆきさんの部屋に泊まることになった。ゆきさんの姿は幻影魔法で別人の姿に変えた。
勝手知ったる我が家なので、ゆきさんが湯呑みを出したりお茶を淹れようとすると、突然ディアブロさんがやって来て、「それは私の仕事です」と言ってお茶を淹れてくれた。
「エマ様、吸血鬼は今夜来る様です。良ければ私も同席させて貰えると嬉しいです。古い知り合いなので」と凶悪な表情でニタリと笑った。「私のダンジョンの後任の者だと思います」
ダンジョンマスターは悪魔、吸血鬼、悪魔って具合に交代制になっているそうだ。
勝手に扉が開いた。そこにいたのは村長、村長が寝ている私に襲いかかろうとしたところで、ディアブロさんに肩を捕まえられて、「待っていたよ、数百年も」と声を掛けられて驚愕の表情になっていた。
霧になって逃げようとしたけれども、逃げきれず。ディアブロさんに村長は捕獲された。
「ベルゼル様、こんな所で何をされているのでしょうか?」
「ダンジョンを放置しては、よろしくないのでは」
「大丈夫だよ、今から君と君の眷族たちはダンジョンに行くのだから」
「ベルゼル様、眷族は無関係でしょう」
「吸血鬼と眷族は一体のはずだよね。君、いい加減にしてくれるかなぁ、何だったら地獄の方に君の眷族を送ってあげようか」
村長は首を横に振った。
翌朝、ミカサが村に来たら村人全員がいなくなっていた。
「ゆきさん、村が無くなっちゃったね」
「私の家族も吸血鬼の眷族だったとは知りませんでした」
「私、これからどうすれば良いのでしょうか?」
「ゆきさんには私の助手になってもらいたいのだけど」
「そうね、とりあえずは墓荒らしのお手伝いをしてもらいます」
ゆきさんは泣きそうになっていた。ちなみに拒否権はない。私とミカサの間で約束した事なので。




