吸血鬼
私はイアソーさんの指示通り、娘さんに薬液を注射した。意識は戻らない。イアソーさんは、意識が戻らない方がこの娘にとっては幸せかもと言う。娘は人間でも吸血鬼でもない、不老不死のアンデットになってしまった。
この娘は吸血鬼とは違うので日光の中で過ごす事も出来る。吸血鬼の再生能力もあるので体を構成するカケラが残っていれば時間さえ掛ければ完全に再生されるらしい。
「うーーん、よく寝た」
「嫌な夢だった、生きてるのに柩に入れられた夢なんて見たくなかったよ」
「ここはどこですか? あなたはどなたですか?」
「私はエマ。ここは私の研究室かな」
「私はなぜ研究室にいるのですか?」
「あなたが、吸血鬼に襲われて、吸血鬼にされかかったから」
「私、吸血鬼に襲われた?」
「首に血を吸われた跡があるから触ってみて」
「エマさん、このガッツリついている血を吸われた跡って消えますよね?」
「完全には消えないかもしれないけど、化粧で隠せるはずよ」
「良かった、結婚できる」
「エマさん、ありがとうございました。それじゃ村に帰ります」
「あのう、あなたのお名前は?」
「ゆきです」
「ゆきさん、私、初めて人が吸血鬼になるのを止めたわけなので、あなたがここを出て日の光を浴びたらどうなるのか自信がないの。どうしてもゆきさんが、村に帰りたいと言うのなら止めないです」
「もしですよ、エマさんが失敗してたら私ってどうなるのですか?」
「砂になります」
「えっ、それはダメでしょう」
「夜になってから出歩いた方が良いけど、その姿だとダメだと思うの」
「私の姿が変ですか? 誰だ! 私に死装束を着せた奴は。夜にこの姿で歩いたら幽霊じゃないですか?」
「エマさん、鏡を貸してもらえますか?」
「ここには鏡は置いてないの」
「エマさんって幼いなりでも女性ですよね。どうして身近に鏡を置かないのでしょう」
「私、あんまり鏡が好きではなくて、私、可愛くないから」
「だったら余計に鏡が必要でしょう。どう見せれば可愛く見えるかを日々考えないといけませんから」
「そこまで考えたことがなかったので」
「夜になったら、ゆきさんの衣装替えもしたいので私について来てくれるますか?」
「はああ、この姿では歩けないのでついて行きます」
「その際、この布を被って下さいね」
幻影魔法でゆきの姿は見えない様にするけれども、ゆきはアンデットなので王宮の結界に弾かれるかもしれない。そのための御守りの布を渡した。この布でゆきが死者であることは誤魔化せるはず。
「承知しました」
「エマさん、ここはマズいですよ。ここって天子様のお屋敷です。私たちみたいなものが来ては行けない所です」
「私のお部屋がこの中にあるから、大丈夫ですよ」
私はゆきの手を掴んで王宮の中に入ったら、ミカサがいた。
「エマ、その娘は誰だ」
「ゆきさんです」
ゆきさんは平伏してかたまった。
「エマは、ゆきをどうするつもりなのか?」
「はい、とりあえず衣装替えをするつもりです」
「そうか、カオリを呼ぶのであちらの部屋で待っている様に」
「エマさん、あの方って姫様ですよね、私たち生きてここを出られるのでしょうか?」
ゆきは泣いていた。
「大丈夫だから、泣かないで」
私は部屋に入ると幻影魔法を解いた。ミカサには見えるのかと今更だけど気がついた。カオリさんが部屋に入って来てギョッとしていた。
「エマ様、その方って幽霊ですか?」
「幽霊ではないので、何かこの娘の着替えるものをお願いします」
「侍女の衣装をお持ちします」




