治癒神の化身イアソーさん
「イアソー、お前の気が済むまでこの成り行き聖女と一緒にいることを許そう」
「成り行き聖女、今後はイアソーから治癒について学ぶ様に」と言うと黄泉の国を治める方は消えて私は洞窟の中に立っていた。
私の肩にはイアソーという名前のカラスが乗っていた。
「イアソー様、私はエマと申します」
「ああ、知っている。ともかく早くお前はお前の体に戻れ、私について来い!」
私はイアソーさんと言うカラスの後をついて行く、壁を何枚も通り抜けて私は私の体に戻って来た。
「ギリギリ間に合った」とイアソーさんがホッとしていた。
「ギリギリと言いますと?」
「仮死状態から仮の字が抜けた状態になる寸前だった」
「死ぬ寸前? そんなに長く死者の国にいたつもりはなかったのですが」
「死者の国は時間が止まっている。エマの魂が体を抜けてから3日経っている」
「よく生きていたものだ」
「エマ、私の姿が見えるのはエマだけなので、私に話し掛ける時は周囲に気を付ける様にな」
「承知しましたが、今は前にも後ろにも進めない状態なのですが」
「前の壁にヘコミがあるところに指を入れて横に動かしてみなさい」
スーッと横に壁がスライドした。私はイアソーさんを肩に乗せて歩き出した。何となく歩くのがぎこちない。体が強張っている感じがする。
洞窟を抜けたら神殿に出て来た。
「エマ、心配したぞ、死んだかと思った」
「仮死状態になっていまして、何とか死者の国から生還しました」
「エマ、私もまだ死者の国には行ってはいない。その手前で引き返す」
「引き返す? どうやって」
「帯に差している藤の簪を振れば戻って来られる」
「聞いておりませんけど」
「ミカサお嬢様、説明はしたとおっしゃっていましたよね?」
「うん、ウッカリした」
大切な事は二度、三度と人に説明しようと私はしっかりと自分の心に刻み込んだ。
イアソーさんが呆れた顔をしていた。カラスの呆れた顔って面白い。私はまったく笑えないけど。
「エマ、疲れただろう、部屋でゆっくり休む様に」とミカサはそそくさと神殿を出て行った。
「エマ、これから修行を始めるので、神殿の裏の山に登って滝に打たれて来なさい」
「エマ、死者の国から色々厄介なものを持ち帰っているので早く浄めないと体に障る」
私は「浴衣」を持たされ、裏山で滝に打たれた。死ぬかと思うほど冷たかった。治癒魔法を教わる前には必ず滝に打たれないとダメだと言われた。
イアソーさんはいつも私の肩に乗っているので嘘はつけない。て言うかお風呂もお手洗いも一緒なのだけど、気にしなくて良いの一言で終わらされている。心は18歳の乙女なのに、見た目は8歳の子どもでも、とっても私は恥ずかしい。
イアソーさんが教えるのは魔法ではなく神技だと言う。魔法と神技の違いが私にはまったくわからない。
人間を治癒させるためには人体を知らなければならないと言うイアソーさんの主張で、私はお墓に来ている。今日、埋葬された遺体を掘り起こして、土魔法で作った研究室で遺体の解剖をすることになっている。気は進まないが私は、イアソーさんには逆らえない。私の意思とは関係なく体が勝手に動くから。これって体を乗っ取られている。
お墓から掘り起こして研究室まで柩を研究室までフローティングボードに乗せて運んだ。柩の蓋を開けるとこの娘は遺体には見えない。
「エマ、運が良い。生きた人間の解剖ができる」
「イアソー様、それはおかしいのでは、まずは救命措置をしてから?」
「イアソー様、心臓が動いていません」
「これはハズレだ、この娘は吸血鬼に成りつつある。解剖しても無駄だ」
「吸血鬼化は止められないのですか?」
「止めるのは簡単だが人間としては既に死んでいるので、ここでトドメを刺すのが良いと思うが」
「吸血鬼化を止められるのなら止めたいです。その後のことは止めてから考えます」
「治癒のポーションを全身に振りかけろ、これで吸血鬼化の進行は遅くなる、次にこれらの薬草を調合して酒に入れて、注射器でこの量の薬液を2時間ごとに6回注射すると吸血鬼化は完全に止まる。ただし娘の意識が戻るかどうかはわからない」




