校外学習
今日は校外学習の日だ。遠足とも言う。初等部全員でゾロゾロと近くの山に登って、どういう植物が育っているのか、どんな動物がいたのかをレポートするのが課題だったりする。
私は植物については、雑草っと一括りされる気の毒な草の名前さえ知っている。
動物については畑を荒らすイノシシとかモグラとかしか知らないけど。
犬の種類とか猫の種類とかは自慢ではないがまったくわからない。お茶会でその手の話が出たら、いなくなる私だったりする。パグ犬って? チワワって?
我が家は犬アレルギー、猫アレルギーがあるので動物は飼えなかった。私は今のところアレルギー症状は出ていないが、父上も母上も今は亡き兄上も姉上も、犬、猫が近づくとクシャミが止まらなくなっていた。
これはナズナであれはベニハコベとか私はぶつぶつ言いながら、植物採取をしながら歩いていた。
「エマって色々知ってるのね」
「私の将来の夢は庭師兼業農家だから」
「ごめんなさい、エマが何を言っているのか理解できないわ」
貴族が庭師になりたいなどと思わないものね。
先頭が騒がしい。ミカサが、私に先頭に行くように命じた。ついでに捕獲されていた私の使い魔も解放された。私は使い魔に可及的速やかに偵察に行かせた。
「ミカサ先生、マズいです。灰色熊がいます」
私は灰色熊の前に立った。これは新しいタイプの変異体だと思う。毛並みがとても艶やかだ。私はウインドミルを放ってみた。灰色熊にあったてはいるけれど、体毛がそれに合わせて変化して、剣技で言う受け流しをされていた。まったく効いていない。
ファイアボルトも念のため撃ってみたけど、効果はゼロだった。これは逃げる以外に手はないと思っていたら、ミカサが私の前に出た。灰色熊は倒れて絶命していた。
メンゲレ男爵、バイエルン暗殺隊の残党、もしかして母上だろうか?
校外学習はここで中止になった。安全が確認されるまで、クラスで待機する様に指示が出された。
私がクラスに戻るとカオリさんがやって来てミカサが呼んでいると言う。
「エマの母親がバイエルン領から出たと言う報告が先ほど配下からあった。今日の灰色熊は母親からのエマへのプレゼントだと思う」
「母上が幽閉塔を出た。つまり許されたと言う事でしょうか?」
「何者かがエマの母親を幽閉塔から逃したと聞いている」
ハンニバルに知られずにそんなことが出来るのはレクターくらいだけど、レクターだけでは無理だ。乳児だもの。彼の手足になる配下が必要。お付きのメイドには出来ない。
「エマは今後私と一緒に過ごす、これはお願いではなく命令だと思ってほしい」
確かに私では灰色熊を倒すことはできない。死ぬ未来しか見えない。
「承知しました。ミカサ先生」
後日、リヒャルト弁護士を経由して父上から手紙が届いた。母上が何者かの手引きで幽閉塔を出た。拘束しようとした、ハンニバルの配下、数十人を一瞬で消した。ファイアボルトではない。例えるなら「ディスペル」で人間を霧に変えたと言うべきだろうと書かれていた。
「エンドラはお前を始末すれば、次は私と裏切ったハンニバルを始末するだろう」とも書かれていた。
私ってそこまで母上に嫌われることをしたのだろうか? バイエルン公爵家と縁を切るぐらいの事しかしていないと思う。機会があれば母上に尋ねてみたい。生きて会えるかが問題だけど。
ミカサが先生でいられる2週間が無事終了した。クラスに多少のケガ人が出たがクラス担任は笑顔だったからたぶん問題はなかったのだろう。
私はヒノモトの国に亡命するみたいなことになっている。ハンニバルから指示が出た。「トリアステに留まるな、バイエルンには戻って来るな」と。「指示があるまでヒノモトにいる様に」とついでに王命も添付されていた。
 




