運動会
早く競技に入ってほしいけど、まずは選手入場からだ。またため息が出た。
「エマ、大丈夫?」
「たぶん、大丈夫じゃない」
おーーーい、ミカサそこは王族が座る貴賓席だぞ。絶対に私はそこには行かないからなあ。絶対だぞ。
貴族院の職員から運動会のプログラムがミカサに渡された。ミカサの顔が私の目には凶悪に変わった様に私には見えた。
ミカサは隣に座っている貴族院の偉い人に、「なぜエマは男爵家の娘になっているのか」と尋ねている。リヒャルト弁護士、潜入調査って事を話していないのか?
「エマは公爵家の令嬢にして私の義理の妹だ」とミカサは言っている。いつから私はミカサの義理の妹になったのか? 誰か教えて。
教職員の皆さんが大変なことになっている。先に配布したプログラムを回収して回り、書き直してる。
「エマ、これがあなたが言っていた大変なことなんだ」
「そうよ、始まったわ。もう何も考えない方が良くてよ」
ボスが倒れていた。その取り巻きたちには恐怖の表情が見て取れた。
「触らぬバイエルンに祟りなしだよな」と聞こえた。
「気に入らない人間を生きたまま地獄に堕とす」とか「背後に悪魔の軍団が付き従えているんだよな」とか、口々に噂話をしてる。
「エマ様、私は公爵家の嫡男でミューレと申します」
「ミューレ様、ご丁寧な挨拶いたみいります」
「さて、リレー競技なのですが、練習では私がテープを切るお役目でしたが、本番ではエマ様に代わりました」
「私はリレーには出場いたしませんけど」
「エマ様と同じクラスの伯爵家の者が倒れたそうで、エマ様が代理で出場されることになりました」
おーーーい清々しい態度で去っていくなよ。急になんだよ。
ミカサが手を振っている。思い切り振り返してあげた。もうどうにでもなれ!
「エマ、どうなっているのかしら」
「そうね、運動会はめちゃくちゃになったと思うわ」
ザワザワした雰囲気の中運動会と言う儀式は始まった。
私の長距離走の役割は風避けになること、そして私の後ろを走っている子が楽に一等賞にする事。その役割には変更はないらしい。
私は、みんなに合わせてノンビリ流していたら、貴賓席から「真面目に走れ」って応援ではなく、命令が飛んで来た。
貴賓席に座っているミカサの顔は見ずに、偉いさんとおぼしき人の顔を見たら、そうしろって顔に出てたので、真面目に走ることにした。
私が真面目に走ったらあっと言う間にトラックを4周してしまった。たぶん私が三回追い抜いた男の子は泣いていたと思う。
ちなみに誰もテープの用意はしていなかったので、私はテープを切れなかった。周囲の人たちが私を人外を見る様な目で見ている気がする。
お昼になったらカオリさんが私を呼びに来た。ミカサとお昼ご飯を一緒に食べることが決まったいるとの命令だった。貴賓席では狭いので、第二グラウンドでお昼ご飯の用意をしてる。
目立たなくて良かったと思ったら、伯爵家以上の貴族が招かれたパーティだった。ハイディの父上が小さくなっていた。私はミカサの義理の妹と言う立場で、ホスト役になっている。意味がわからない。
私は何も食べられず、貴族の挨拶を受けなければならなかった。ハイディの父上からは「娘のために色々して頂きありがとうございます」と言われてしまった。仕事なので気にしないでほしい。リヒャルト弁護士は追加料金を取ってるし。
ボスの父上と思われる伯爵からも「お会い出来て光栄です」と言われてしまった。「娘は体が弱くて医務室で休んでいる」とも言っていた。体ではなく、精神的なものだと思う。
結局、カオリさんが持ってきたパンを一口食べただけで私の昼食タイムは終わった。ミカサたちはパーティの準備中に食べていたらしい。
お腹が空いた。ハイディがポケットからビスケットをこっそり取り出し私に渡してくれた。私は、きっと昼食が取れないと思っていたらしい。よく気のつく子だ。それに引き替えミカサはと思わず口に出してしまった。ミカサを見るとニッコリ笑っていたけど、目は笑ってはいなかった。
やっと最後のリレー競技になった。アンカーのみグラウンドを1周する。もう私は人外だと思われているので、全力で走ってやった。また、テープが用意されていなかった。結局公爵家の嫡男君が華麗に練習通りテープを切っていた。
運動会は何とか上手くいったと思いたい。教職員の何人かが運動会が終わるなり医務室に運ばれて行った。私の所為ではない。
今年の運動会はとっても盛り上がって楽しかったと保護者の間では大好評だったそうだ。王族も途中から参加したしね。
「エマ、あなたって一体何者なの?」
「人より少しだけ走るのが早い普通の子です」
「エマって本当にミカサ姫の義理の妹なの」
「それはウソです、断言します」
「エマは私の義理の妹として舞を舞っていることに国ではなっている」
「王族でないとあの舞台の上にのれないので」
「ミカサ姫様、無礼な質問をして申し訳ありません」
「ミカサお姉様、急に出て来られてびっくりするではありませんか」
「ほら、お姉様ってエマが言っているだろう」とミカサはご機嫌だった。
 




