エマ潜入調査
私は現在、トリアステ貴族院初等部にてイジメの潜入調査をしている。ハイディって子はとくにイジメを受けている様には見えない。どちらかと言うと私がイジメられている。男爵家の娘だし、言葉のアクセントが違うのでイジメのターゲットにされている。
調査対象のハイディちゃんに近づくわけにも行かない。内密の調査なのと、私が近づくことでハイディちゃんもイジメられたら意味がないから。
ハイディちゃんはイジメられていませんでしたと調査報告して帰ろうかと思っていたりする。
このクラスのボスは伯爵家の娘なのは確定している。男の子たちも彼女には逆らわない。伯爵令嬢を見ていると昔の私を見ている様でとても気分が悪い。
「エマ、ガーデン男爵家って田舎の貴族だよね、だからそんなに訛っているのね」と伯爵令嬢の取り巻きAが言って来た。
ガーデン男爵って借金で首が回らなくてリヒャルト弁護士に破産を依頼して来た貴族なのは聞いたけど、領地が田舎かどうかわからない。
「そうね、田舎だと思うわ」こう言う時は逆らわないことにしている。
「貴族院が田舎臭くなって困るわ」
「窓を開ければ良くてよ」しまった言い返してしまった。ここは自分から窓を開けて回ろう。
教室すべての窓を開けて回った。
「この子バカなの」
バカって思われる方が楽だ。注目を浴びすぎてもう潜入調査は終了にしたい。
「あなたって強いわね」と調査対象のハイディが私に声を掛けてきた。
「私は強くはなくてよ。普通だと自分では思ってますけど」
「強いよ、私だったら泣いているもの」
「臭ければ窓を開けて空気の入れ替えをすればって思っただけだし」
ハイディが笑いだした。
「あなたってとぼけてるの?」
「別にとぼけてるわけでもなく、ふざけてもいないのだけど、そう見えるのは困るわ」
「あなたがクラスに入ってくれたお陰で私イジメられるのが減ったの」
「私のお陰って?」
「私も伯爵家の娘なのだけど、彼女ね、私と対等なのが気に入らないみたいで」
「このクラスの子って身分的にあの子には逆らえないから」
お互いが伯爵家の娘なので何とか上下関係をつけたかったのか。くだらない。
「ハイディさんは気にならないの?」
「全然、グループ分けの時に困るけど、先生が最後は調整してくれるし、私もみんなよりは身分的には上だから、表立っては誰も逆らわないし」
「めんどくさい」と私は言ってしまった。
「そうね、めんどくさいと私も思うの、私たちって貴族院の初等部の同じクラスにたまたま一緒になっただけ。貴族社会に入れば、侯爵様や公爵様、王族のご機嫌伺いをしないといけないのにね」
調査対象は冷てる。伯爵令嬢と言っても貴族社会では真ん中でしかない。下手をするとお金持ちの成り上がり男爵家の男と結婚する羽目になるかも。ウチの家の事だけど。
伯爵令嬢取り巻きBがやって来た。次の土魔法の授業で勝負しようって言ってきた。ちなみにハイディも勝負の相手に入れられた。
「良いわよ」とハイディが宣言した。
勝負の内容を確かめてから勝負を受けるか受けないかを答えようよ。
「エマ、ごめん。私も早くめんどくさい事はやめてもらいたいの」
「両親が私をイジメている子たちの親を訴えると言って聞かないの。命令しているのは伯爵家の彼女だけど、実際に動いているのはその取り巻きたち、あの子は何もしていないから訴えられても何も困らないわ」
そうですよね。上は、下っ端を切ればそれで終わり。ハイディちゃんって本当に冷めてます。