アンデットの軍勢
「ワシのクビですべて丸く収めるのか? 断る。それなら家臣と共に戦って死ぬ」
周囲の家臣の人に希望の表情が浮かんだのに一瞬にして絶望に変わった。お気の毒です。
「エマ嬢、ヘヴィモスと交渉は出来ないか?」
「伯爵様のクビはダメなんですよね」
「臣下のクビなら幾らでも差し出す」最低な領主だ。
「その方に悪魔ヘヴィモスとの交渉を命じる、ただちに出立せよ」
「悪魔ヘヴィモスなら、既にここにいますけど」ヘヴィモスさんて人見知りなので声だけの登場なのだけれども、ここで待機をしてもらっていた。仕方ないので私が幻影魔法で悪魔らしい悪魔を登場させる事になっている。
聖典に出てくる悪魔を出した。コンフォート伯爵他の皆さんは驚愕し、気の弱い人は失神していた。一番嫌がっていたのはヘヴィモスさんだった。酷すぎると一言。ごめんなさい。
「コンフォート伯爵、アンデットの軍勢を引く代わりに何を差し出すのか?」
「家臣のクビ百でどうだ?」
「コンフォート伯爵の妻のクビと娘のクビと息子のクビなら一週間ほど軍勢を引いても良い」
「身がわりのクビだとこの話はなしだ」
「コンフォート伯爵、ヘヴィモスは人の心が読めますので無駄なことは考えない方が良いですよ」
コンフォート伯爵の近習が伯爵の後ろに周り剣で一刺し、クビを落として幻影のヘヴィモスにコンフォート伯爵のクビを差し出した。ヘヴィモスさんはこうなるとわかっていたので、「今回は伯爵のクビ一つで許すが次はないと思え」と言っていなくなってしまった。
私は慌てて伯爵のクビを空間に開けた穴に放り込んで、悪魔の幻影を消した。タイミング的には少し遅かったかも。バタバタ感が出てしまった。
「エマ様、私たちはバイエルン家の庇護下に入りたく存じます」
主君殺しの人たちをバイエルン家の庇護下に入れるのは個人的には嫌だけど、ホーエル・バッハに見放されたと思えば、恥も外聞もないよね。
「伯爵様は悪魔ヘヴィモスとの取り引きで落命した事に致します。お願いがございます。どうか少数の兵でよろしいので我が領に兵士を寄越して下さい。エマ様」
「わかりました、父上にお願いしてみましょう」
お家の存続のためなら主君も討たないとならない。とは言え領主の家族にとっては父の仇となるのでこの人は本当に損な役回りだと思う。周囲の家臣は安堵の表情をしているけど。
アンデットの軍勢は忽然と消えてしまった。領内の被害はゼロ。さすがヘヴィモスさん良い仕事をしますね。
私はこの後起こりそうな展開を予想してコンフォート伯爵領から脱出した。
もう少しで庭園の国からトリアステに到着する。
トリアステに近づくにつれて、街並みが美しくなって来た。ベランダには鉢植えの花が飾る家が多くなって来た。内乱中の我が国とは大違いだ。やはり平和でないとお花は育てられないと思う。
私の場合、ローレンスさんの手紙を入国の係の人に見せるだけで簡単に入国ができたが、我が国からの難民は入国は許されず、門の外でキャンプを張っていた。トリアステの人々にご迷惑をかけているのが心苦しい。
私はローレンスさんの親友のリヒャルトさんの家を探している。地図だとこの辺りなのだけど、リヒャルトさんも弁護士なのでプレートなりが出ていないかと探してみるも、花がそこかしこにあってわからない。
おそらくパン屋さんだと思うお店に入ってパンを幾つか買って、弁護士のリヒャルトさんの事務所を尋ねたら、パン屋さんが向かいの建物の3階がリヒャルトさんの事務所だと教えてくれた。
入口がお花で見えなかった。て言うか道路にいっぱい植木鉢を並べるのはどうかと思う。花に触れない様に注意して建物の中に入ったら階段にも植木鉢って、危ないと思う。
3階に上がって事務所のドアベルを鳴らしたら、小柄なおじさんが出て来た。
「ローレンスさんの紹介で参りました、エマ・フォン・バイエルンと申します」
「おやまあ、可愛い事務員さんがやって来たね」
私はこの庭園の国で園芸を学ぶつもりだったが、ローレンスさんは私を事務員として使ってくれと話をしたのか。
「ローレンス弁護士からの紹介状です」
「住む所さえ用意すれば良いのか。給料は不要で、そこそこ頭は良いので便利使いに良いか」
「エマちゃん、採用です」
ローレンスさん、給料不要って、園芸の勉強はどこに行った。便利使いってユング君と同じ扱いですか。ローレンスさんに騙された!




