旅の途中にて
ホーエル・バッハから私に懸賞金が出ているので、宿泊予定地の各領主の所へ挨拶をする事にした。中立系の貴族はあまり良い表情ではなかったが、会ってはくれた。バイエルン贔屓の貴族は泊まってくれとうるさく言われるので断るのに苦労した。後ろから刺すのが貴族なので。ホーエル・バッハ系の貴族はビスタール男爵の事件を知っているのか、領主は必ず病気で臣下が挨拶を取り次ぐ事が多かった。襲撃して来るかとも思ったが、そうした事もなくとても安全な旅が続いている。内乱の影響で難民が多い。
中立系の貴族もバイエルン贔屓の貴族もホーエル・バッハ系の貴族も難民対策は他領に押し付けるのみだったので、難民の人が馬車にやって来る度にバイエルンへ向かえと何度も叫んでいた。ハンニバルが何とかすると思う。きっと父上が何とかするだろう。
ホーエル・バッハ系の領主の家臣に挨拶を済ませて、宿屋に宿泊して、これまたいつも通りにギルドの酒場で食事をしていた。私もこの塩味に馴染んできたみたい。美味しいって思うようになって来た。
冒険者業界でバイエルンの娘が1人で旅をしているのが広まっているようで、バイエルン家の兵士になりたい人たちが、食事中によくやって来るため、面倒くさいのだが変化の魔法で、これぞ魔法使いって格好でギルドの酒場で食事をすることになってしまった。
紹介状を書いて欲しいと言うのに紙もペンもインクも持って来ないし、何より私に紹介料を払おうとしない。紹介状一枚銀貨1枚という破格の値段なのに。おかしい。
「ねえ、君はマジックキャスターそれともウイザードどっちなのかなぁ」
ウイザードって賢者って言う意味があるし、ウイッチが正解なんだけど、たまにビッチって聞こえるのが嫌なので、私はマジックキャスターと言う事にした。
「私はマジックキャスター、神聖魔法が使えないのでヒーラーには成れないです」
「どの程度の魔法が使えるのかな、マジックキャスターさん」
「そうですね、並ランクの並ってとこだと思います」
「並ランクの並って、使えないじゃあないか、他を探そうよラルフ」と女の人が小声で言っていた。私って昔から耳だけは良いので聞こえる。
「いないより良いだろう。ここら辺の腕の立つマジックキャスターは大きなパーティに入っていて俺たちなんか相手にしないよ、キャサリン」だから聞こえているって。
「君、名前は?」本名は言えないので。
「バニラ」なんか甘そうな名前になってしまった。
「バニラさんか、珍しい名前だね」
「そうなの、そう言われたのは初めて」嘘はついてない。
「バニラさん、俺たちと臨時のパーティを組んでくれないかなぁ」
「魔物退治ですか?」
「この森の奥に沼があってヒュドラーが最近住み着いて村の人が困っている」
装備を見るとラルフと言う人は剣士だけど、腰に帯びているのは鉄剣みたい、女性の方はアーチャーかなぁ。
「ヒュドラーは再生能力が高いので、剣で首を斬ってもすぐに再生します」
「俺は囮で、ヒュドラーをヤルのはランサーのキャサリン、キャサリンは雷を落とすスキルがあるので倒せる」
キャサリンさんはランサーで、しかも雷と言う光系の魔法が使えるのか見てみたい。
「お役に立つかどうかは怪しいですけど、それでいつヒュドラーを退治に行くのですか」
「明日、早朝に出発するつもりだ」
「そうそう、あなたのお名前をまだ伺っていないのですが」
「失礼した。俺はラルフで剣士、こちらはキャサリンでランサー、本当はもう1人神官がいるのだが、前回の魔物狩りでケガをして今回は参加しない」
「すみませんがその鉄剣を見せて下さい」
「ああ、良いよ」
鉄剣に魔力を注いだ3日ほどはミスリル並の剣にしておいた、ヒュドラーに鉄剣でたとえ囮でも向かうのは無謀と言うもの
「ありがとうございます、3日ほどはミスリル級の剣になる様に魔力を付与しておきました」
「君、並の並のマジックキャスターじゃないだろう」
「いえ、私の周りの人は私よりもっと凄いですから、並の並です」
「この辺りだと上級のマジックキャスターのランクだけどな」
「キャサリン、もしかしたら当たりを引いたかも」聞こえてるって。
 




