ギルドの酒場にて
「お前見ない顔だな。俺たちが魔物とかギルドの事を教えてやるから、食事代と酒代を払え」と、たぶん、この子たちは私を脅しているつもりで言っている。
「それって面白いお話なの、だったら一緒に座ってお食事にしよう」と逆に誘ったら、「面白いかどうかはわからないけど」そこは盛った話で良いので面白いって言ってほしいところだ。
男の子たちは内乱で親を亡くして村を離れて冒険者になったそうだ。冒険者になったけれども村から出てきて今、生き残っているのはこれだけだと言う。今日は獲物があったのだが、大人の冒険者に取り上げられて、お腹を空かしてパンクズでも酒場の料理人にねだろうかと思って来たら、私が1人では食べきれなさそうな今日のお勧めを食べていたので、声を掛けて来たのだと言う。早く内乱を止めないと、この子たちみたいな子たちが増えてしまう。そう思ったところで、見るからに悪党のみなさんがやって来た。
「お嬢ちゃん、俺たちも一緒させてもらうぜ」
「ごめんなさい、臭うので離れて下さいませ」
「このガキ」シールドを思い切り殴って骨が折れた音がした。カルシウム不足だと思う。次、魔法防御、物理防御無効化の魔法を付与されたナイフで襲って来た。一人の男の子が私を守ろうとして立ち上がった。なんか胸がキュンとしてしまった。
シールドに当たった途端ポッキリとそのナイフは折れてしまった。鉄製のナイフに申し訳程度の魔法を付与したところで、魔法使いが張っているシールドを抜くのは無理だったりする。
面倒くさいなあ、ちょっとお茶が飲みたいかもって思ったら、執事のディアブロさんが後ろに立っていた。「お嬢様お茶でございます。ここは臭いがひどいのでお茶の香り消えますので、臭い消しをさせてもらいます」周囲の人が丸洗いされている様に見える、たぶん幻覚だ。
「ディアブロさん、とっても良い香りのお茶ですね」
「今日はこのくらいにしておいてやる」と柄の悪いおじさんたちは真っ青な顔で立ち去った。酒場にさっきまで居た冒険者の人が一人もいない。隣に座っていた男の子たちも石像の様になっている。
「ディアブロさん、ありがとう」と言うとディアブロさんは消えた。
男の子一人が「ディアブロさんって言う人はアレだよね。アレ」
今日のディアブロさんは急いで来た様で魔力が少し出ていたかも知れない、「乙女の秘密は聞いてはダメよ」と笑顔で誤魔化した。
「ねえ、冒険者してても大人に獲物を持って行かれたりするし、バイエルン家の兵士にならない」と誘ってみた。
「成りたいよ、バイエルンの兵士ってみんなから尊敬されてるし、第一装備が超カッコいいもの」
「全員採用しました。ちょっと待ってね」男の子たちのリーダーに父上宛てに採用した旨の手紙を渡した。「私の名前はエマ・フォン・バイエルン。バイエルン家の娘、私の命を守ったこの子たちを兵士とする事をバイエルン家の名にかけて誓った」と書いてあるから、それをバイエルンの兵士に見せてくれればバイエルン家の兵士に成れるよ、嫌だったらそれはそれで良いの。強制ではないから」
男の子たちが泣いている。「ありがとうございます、お嬢様。俺たち絶対に凄い兵士になるから」
「うん、期待しています」
ディアブロさんのせいで、お客さんがいなくなったお店の人にお詫びとして金貨一枚を渡した。少しは許してくれるだろうか?
お腹もいっぱいになったし宿屋に戻って寝ようとしたら、ゴソゴソする音が、「おやじ、この部屋で間違いないな」「間違いありません、これが部屋の合鍵です」
ああ、ここって盗っ人宿屋だったんだ。夜中に宿屋と強盗がグルになってお客を襲うって宿屋。でも、ロックの魔法がここの人たちに破れるのかな。「おやじ、鍵が開かないぞ」「窓を破って中に入るぞ」
窓の内側にシールドが張ってあるけど、男の人が足で窓を蹴破ってシールドに弾かれて下に転落していった。ここ三階だし死んではいないよね。たぶん。
「すみません、うるさくて寝られないのですけど」と扉を開けて宿屋の主人と強盗のみなさんと対面した。
「お嬢ちゃん、バイエルン家の娘だってなあ」「はい、二女ですがそれが何か」「こうするんだよ」と襲いかかってきてまたシールドに弾かれていた。学習しない人たちって好きになれない。宿屋の主人が逃げようとしたので「動かない」って命令した。誰も動けなくなった。凄い、私もディアブロさんみたいにできた。これって魔法じゃない。気合いだ。




