幼稚部予科の子どもたち
私は相変わらず授業は受けられず、雨の日も風が強い日もただひたすら校庭を走らされていた。私は気付いた。悲鳴が聞こえるのはゴーモン先生のクラスのみだと言う事を。他のクラスの先生方はそこそこ抑えている様で叱責の声は聞こえるけれども、子どもたちの悲鳴は聞こえた事はなかった。
ここにいる子は将来ここの先生たちより権力に近い人物になるのが決まっているから、後々の事を考えると抑えておく方が得策、厳しくやって将来復讐されるのは嫌だと誰しもが考えることだと思う。ゴーモン先生のクラスって身分的に低いクラスかも知れない。ゴーモン先生ご自身のお家も男爵家なので、おそらくクラスの子たちは男爵家以下。私は、母上の勘気に触れたせいで特別にあるいは、ゴーモン先生指名でクラスに入れられた様に思う。ただ、侯爵家の娘を男爵家の娘が鞭打つ事は出来ないので、毎日校庭を走らされているわけか。私はそう意味では安全かも知れないけど、他の子どもたちがそのとばっちりは気の毒だ。
私は人前では魔法は使っていないけれども、実際はそこそこ使えたりする。爆死する前は高等部の生徒だったし、性格も歪んでいたので攻撃魔法は得意と言うか、攻撃魔法しか興味がなかった。今は護身のために防御のための魔法も身につけないといけないと思っている。実際にあっさり死んでいるから。攻守のバランスが大事だと今は思っている。
後半年で予科が終わって本科に上がる。その前に確実に何人かの子どもたちが潰れる。その前に悪役令嬢の本領発揮と行きますか。ゴーモン先生は常に職員室に最後まで残っているので、私から一言言ってあげよう。ただ、ゴーモン先生がああなったのは母上の責任かもと思ってしまう。やはりエンドラの娘ねって言葉が気に掛かる。一言、言う前にゴーモン先生に母上の事を先ずは尋ねてみようかな。
その日、私は職員室にゴーモン先生を訪ねた。「ゴーモン先生いらっしゃいますか? エマです。少しお尋ねしたい事があって来ました」訝しげな声で「中に入ることを許可する」とゴーモン先生の返事があった。
「何の用だ」
「ゴーモン先生は私の母をご存知ですよね」
「よく知っているし、憎んでもいる。お前が侯爵家の娘でさえなかったら、毎日鞭打つことが出来て幸せだったに違いない。校長から止められているがな。本当に残念だ」
「それで、その腹いせで他の子たちを鞭打って憂さ晴らしですか? カッコ悪いですね」
「確かにその通りだ。お前が鞭打たれたいのか?」
「お望みとあらば」
「そうか、やはりエンドラの娘だ。私がお前に鞭を振るえば私はクビだ」
「私が男爵家の娘と思ってバカにしているのだな、エンドラと同じだ」
「エンドラはいつも、いつも私をバカにし、嘲笑った。お前に私の悔しさがわかるか」
「わかりません」
「だろうな。エンドラはどういうつもりかお前を私に任せるので教育してほしいと命令して来た」
「母が命令したのですか」
「だから私はお前を教育しない事にした。正確に言うとお前を教育する必要性がなかった」
「教えてもいないのにテストに合格するお前を見て、エンドラが笑っている顔が見えた気がした。私の作品は完璧でしょうって顔がな」
「だから、私はエンドラには負けたくない、わかるか? わからないだろう」
ゴーモン先生は私以上の作品を作るために日々クラスの子たちを鍛えまくっているらしい。それは無理だよ。私は高等部の生徒だったのだから、予科の子にそれを求めるのは無理だよ。
「ゴーモン先生、私と勝負するおつもりはありませんか?」
「エンドラの娘、お前は本当に傲慢だな。大人相手に勝負だと笑わせるな」
私は無言で手の上に火球を浮かべた。
「予科のお前がなぜ魔法が使える。あり得ない。絶対にあり得ない」
「私は炎の魔法も氷の魔法も風の魔法も使えます、本来であれば私は予科どころか中等部も必要ありません」
「お前たちはどうしても私をここから追い出したいわけだな」
「私もお前も常に校長の監視下にある。お前の父親がそうする様に手を回した」
父上、心配し過ぎだよ。
「わかった。お前を一人前の大人として扱ってやる、校庭に出ろ」
「先生、それだと先生がクビになります」
「予科の者に勝負を挑まれて逃げた教師と言われるよりマシだ。言っておくがお前をエンドラだと思ってやるので、お前の命は保証出来ない」
校長の監視下にあるのに誰も止めに来ないのはなぜだ。
「邪魔が入らない内にさっさと終わらせてやる」